~第12話 告白(1)~
チュンチュン。
小鳥の囀る声が聞こえる。
「知らない天井だ……」
「いえ、知ってるはずよ? あなたの家なんだから……」
間髪入れずに俺の発言は突っ込まれた。
っは!! 誰だ! 俺の一度は言ってみたいランキング上位のセリフに突っ込む奴は!!
ベッドから起きて振り向いた場所にはアリエスさんが俺のそばに佇んでいた。
さらに、冗談を言おうかと思ったが、その顔はすべてを知っているようで、これ以上は誤魔化しきれないことを物語っていた。
「……って、そんなことより、シャルは!? 両親は無事なの!?」
「あなたの家族は無事よ。今はちょうどお昼だからご飯を食べてるとこでしょうね」
「そうか……。無事で、本当によかった」
「……なるほどね。それが本当のキミということ訳かしら?」
アリスはレクサの変貌に驚き半分、納得半分な態度でレクサに問いかけた。
二人の間にしばらくの沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、レクサの方だった。
「……ふぅ。もうこれ以上誤魔化すのは無理かな」
「それで、私の質問には、答えてくれるのかしら?」
「んー。まぁ一度に言っても分からないだろうけど……。とりあえず家族を呼んできてもらってもいですか? その時に全てをお話ししますよ」
「そうね、わかったわ。でも、先に何かお腹に入れたほうがいいでしょう? もう丸二日も寝込んでいたのだし」
「そんなに寝てたのか……。わかった。よろしく頼むよ」
そう言って、アリエスさんは俺の部屋から出ていった。
それにしても……、とりあえずは今後の事を考えないといけないな。
とりえあず、現状把握からだな。
まずは、俺はあれから丸二日も寝込んでいたらしい。
その間、牢屋とかそれに準ずる場所に入れられていないということは、まだこの情報自体は外部に漏れていないのかな?
もし漏れているのであれば、8歳の子供がありえない力を持ってるわけだ、このような状況はありえないだろ。
あと、アリエスさんには情報が伝わっていると考えて問題無いだろう。
村の状況はよくわからないけど、少なくとも家に居ることから考えると、村は無事だったか、被害があっても生活に支障が出ない程度のものだったという可能性が高い。
まとめるとこんな感じかな。
1.両親、シャル、アリエスさんには大体の情報が伝わっている(ただし、それ以外には伝わっていない)
2.村は無事。もしくは、被害があっても生活は出来るくらいの被害だった。
3.今後の俺の行動次第で、どうとも俺への対応が変わってくる。
うーん。多分この推測は間違っていないと思う。となると、どうするべきだろうか?
正直、ここまでバレてしまったのであれば、下手に誤魔化すよりは素直に話してしまったほうがいい気がする。
まぁあれだけ力を見せたんだから、これ以上隠し切れないわけだし…‥。
そうなってくるとこの村には、いや、この家族とは一緒に暮らせないだろう。
なんて言ったって、自分の息子がバケモノな訳だし、そんなのと一緒に生活なんてできないだろう。
よし、方向性は決まったか……。自分の正体は素直に話そう。そして、……辛いところだけれど村から出ていこう。
まだ八歳なわけだけど、自身の能力を使えば、冒険者としてだったら生活が出来ると思う。
見た目に関しても、たしかゲームのイベントアイテムで、年齢詐称薬といったアイテムがあったはずだから、それを作って使えば見た目もごまかせるはずだ。
それがお互いにいいと思う。
俺の考えが纏まったところで、タイミングよく、アリエスさんが食事を持って俺の部屋に入ってきた。
「一応二日ぶりの食事だし、胃がびっくりしないように、スープにしておいたわ。あと、キミの家族にはキミが起きたことは伝えたから、それを食べ終えたら呼びに行くわ。その時に全てを説明してもらおうかしら。」
「わかったよ。その時にはすべてを説明するさ……」
手渡されたスープを少しずつ、胃がびっくりしないように食べる。
その間、二人の間に流れる沈黙に耐えながら。
◇◇◇
食事を食べ終わり、レクサはベットへ腰掛けただなにも言わず待っていた。
コンコン。
扉を静かにノックする音が響く。
「連れてきたわ。入るわよ」
「えぇ。どうぞ」
扉から入ってきたのは、両親と妹、そしてアリスさんだ。
「シャル、母上、元気そうですね」
大丈夫だとは聞いてたのだけど、この目で見るまでは安心出来なかったのだが、家族が無事な姿を見ることができてようやく安心することができた。
「あ、父上もお元気で何よりです」
「私はついでなのか……」
俺のお茶目なジョークに父上がたまらず頭を抱えて落ち込んでいる。
相変わらず、家族に関しては感情が豊かだよな。
そんなとりとめない事を考えつつも、この場に漂っていた重苦しい空気が無くなったことを確認していた。
俺の声を聞いたシャルが、たまらず俺のところへ駆け寄ってくる。
「にーにぃ……。もう、大丈夫……なの?」
「あぁ。もう大丈夫だよ。心配かけてごめんな」
「ううん。……にーにぃが大丈夫ならそれでいい」
シャルも安心したのか、俺に思わず抱きついてきた。
さて、とりあえず空気が和んだことだし、そろそろ打ち明けてもいいかな……。
シャルの頭を撫でながら、次の事を考える。
「さて、そろそろ聞いてももいいかな? その君の力について」
家族団らんだった空気のなか、アリスさんがズバッと切り込んできた。
「まぁそうですね。僕としても、もう誤魔化すつもりはありませんので、全てをここで打ち明けますよ」
俺は一息ついて語りだす。
「まず、誤解が無いようこれだけは先に言っておかなければいけないと思うので言いますが、僕は紛れもなく父ジョセフ、母エリオナールの二人から生まれたレクサナール本人です。ただ、それと同時に僕にはこちらの世界ではない、異世界の前世の記憶とその世界の神から貰った力が宿っています」
「「「……は?(え?)」」」
レクサの余りに突拍子もない言葉に言葉をなくす三人。
流石に動揺を隠せない様だったが、俺は気にせず続けることにした。
「まぁ自分でも突拍子のないことだとは理解してますよ。それに理解しがたい話である事も。まず、説明しやすい力の事について説明します。僕が有している力は前世ではゲーム、いや遊戯と言った方がわかりやすいかな、その遊戯の中の能力をこちらの世界へ転生する際に貰い受けました。その力とはこの世界の冒険者の職業と同じで、召喚師、格闘家、錬金術師、鍛冶屋の4つです。力についての説明はこの世界でも存在するものなので特に説明する必要はないですね。」
「ちょ、ちょっと待って! 確かに君には魔力が計り知れないわ。それこそ人が保有していいレベルを超えているんじゃないかってほどに。それは先日の件でわかったつもりなのだけど、流石に職業を4つもつける資質があるって話は無理があるわよ。何て言っても伝説の勇者と呼ばれる人ですら、3つの資質しか持ち合わせていないのよ!?」
レクサの発言にたまらずアリスさんがレクサの発言を否定してくる。
あー、勇者ですか。そういえばそういう職業創造してる奴FTOにも居たよなー。確か、騎士、魔術師、神官だっけか?
話がそれたけど、そう言えばアリスさんには、結局格闘家の『オーラ』しか見せてないのか。となれば確かに信じられないというのも仕方ないのかな。
「なるほど。まぁ信じられないというのも無理は無い話でしょうね。なら、その力を証明することが出きれば信じてもらえますかね」
そう言ってレクサはインベントリから以前から収集していた石と以前ラビット達から手に入れていた魔素材である毛皮、そしていくばかりかの素材を取り出した。
「では、すでにみんなの前で格闘家のスキルである『オーラ』を使用したからそれは省くとして、……まずはこの石を素体に僕の魔力から魔石を生成します。これは錬金術師の『魔石生成』というスキルですね」
レクサはそう言って、石を魔石へ変換すべくスキルを発動させる。
「――対象指定、石。――魔力指定、200。実行、『魔石生成』」
レクサの発した言葉に、己の魔力が呼応する形で石へと一気に集まり石が輝きだした。しばらく発光は続き、レクサから発せられる魔力が次第に収束していき、ついにレクサの目の前に1つの魔石が生み出された。
「……ふぅ。まぁこんなもんかな」
「確かに魔石……ですね」
「えぇ、確かに魔石だわ。凄いわねぇ」
アリスとエリオナール|《母》はレクサの創りだした魔石に目を奪われてた。
「……あ、ありえん……」
ただ一人、ジョセフ|《父》から驚嘆の声が漏れる。レクサが作った魔石は種別で言えばただの、通常魔石なので別に珍しくもない。ただ、残り二人は気がつかなかったのだが、父にはその異常さが同じ職業を持っている為に理解できる。いや、出来てしまった。その魔石が保有している魔力の質と量どちらとも自身が生涯をかけてすら生み出せない可能性があるレベルであるという事を。
そして、それと同時に戦慄を覚えた。『魔石生成』時に息子レクサナールが使用した魔力は、通常の魔法使いの持っている魔力半分くらいを使用していた。使用した魔力量に言えば高すぎるわけではない。ただし、それだけの魔力量が一気に使用されたということは、体の中から一気に消失したことを意味する。つまり、それだけの魔力が一気に消失したのでれば、一般の大人であれば失神してしまるレベルであるのだ。それを、いとも簡単にやってのけた息子のレベルの高さに驚きを隠しきれなかった。
「まぁこれで錬金術師のスキルを使ったのですから、錬金術師の力は証明できましたよね? じゃあ次は鍛冶屋のスキルである『防具作成』を使用しますね」
そういって先ほど作った魔石とその他の素材を手に取って、それぞれを両手で挟み込むように持ちスキルを発動する。
「――対象指定、女王兎の毛皮。――素材指定、魔石、糸、ロープ。実行、『防具生成』」
先ほどと同じように同じようにレクサから発せられる魔力で素材たちが発光しだした。徐々に強くなる光が部屋中を照らし出している。
一気に光が強くなった瞬間、光が消えて1つのアイテムが残った。
「よし。どんなアイテムが出来たのかな? アイテム『鑑定』」
―――女王兎のコート+3
説明:女王兎の毛皮を使用したさわり心地が上質なコート。上流階級のお嬢様方への贈り物としてよく使われる。さわり心地もさることながら防御力もそこそこ高い。
「うむ、我ながら良い出来だ!……なんてね。これで、鍛治屋のスキルも証明出来たかな」
連続で使用されるスキルに既に言葉が出てこない三人を尻目に、レクサは自身が作り出したアイテムを調べていた。
「じゃあ最後に召喚師を証明しますね」
そう宣言すると、再びレクサは集中を始めた。
辺りが静寂に包まれた辺りにレクサの詠唱が響きわたる。
「 『我求む。貴人の指を赤く飾り、貧者の命を助き求むる者へと渡りながら、内なる声聴く主を探す赤き宝獣。召喚・カーバンクル!!』 」
――キュゥ――
レクサの詠唱によって呼び出されたカーバンクル。
「やぁ、カーバンクル。この間は家族を守ってくれてありがとうね」
――キュイ、キュイ――
レクサに誉められて嬉しそうにしているカーバンクル。
しかし、さっきから三人とも静かだなぁ。多分、突然の事で驚いてるんだろうけど……。
よし! 三人が復帰するまで、カーバンクルとじゃれてよう。
レクサに撫でられながら尻尾を揺らしながら喜ぶ姿には、とても癒される。
うん、カワイイ奴め。
さて、そろそろ第一章も終盤に近づいています。
予定では、次で第一章完です。
引き続き「兄転生、妹召喚」をよろしくお願いします。