~第11話 決着~
――シャルside――
……怖い。
家で村長が父上と母上が危ないと言われて、わたしは気がついたら無我夢中で走りだしていた。
どれくらい走っていたのだろう。とても長い時間走っていた気がする。もしかしたら、数分だったのかもしれない。
でも、両親がいなくなってしまうその恐怖がわたしを走らせていた。
大きな音が前方から聞こえてきた。
……父上たちだ! きっとあっちに居るはず……。
そう思うと、走っていた足に更に力が入る。
目の前の茂みをかき分けると、そこに両親が居た。
「……父上? ……母上?」
……よかった。父上も母上も無事だ……。
「シャ、シャロン!!」
「シャロンちゃん!!」
――ギャアアアァァァァ!!――
今まで両親しか視界に入っていなかったために、スノードラゴンに気がつくことがなかったシャルだったが、明確な敵意にシャルも気が付き足がすくんでしまう。
「…きゃ!」
「いかん! シャロン、逃げろ!!」
父上と母上がいなくなってしまう、その一心でここまでやってきたシャルだったが、あまりの恐怖に立ちすくん腰を抜かしてしまった。
「っく! エリナ!」
「えぇ! わかってます!」
エリオナールがシャロンを抱きかかえ、ジョセフがスノードラゴンと二人の間に立ち入り、そのカラダを盾としている。
しかし、既に両親の力は限界を迎えてしまっているため為す術がなかった。
スノードラゴンの攻撃が放たれる……その時だった。
「させるか! あのクソったれ《スノードラゴン》から家族を守れ!『召喚・カーバンクル』!!」
「こ、これは……?」
後方からレクサの叫び声と共に、不思議な光る膜?が三人を包み込むように展開され、敵の攻撃をすべて防ぎきった。
「ふぅ……。なんとか間に合ったみたいだね。ありがとう、カーバンクル」
――キュイ!――
「レ、レクサ!? こ、これはどういうことなんだ!?」
にーにぃ……。
既に周囲の展開についていけていないシャロンだったが、兄が目の前に現れただけで、すべての不安が吹き飛んだ。
「父上、大丈夫ですよ。すぐに終わらせますから。シャルと母上をよろしくお願いします」
「お、おい! レクサ!」
そう言って、にーにぃはおっきなドラゴンに向かっていった。
……ダメ。あんなに怖いドラゴンににーにぃがやられちゃう……。
自分の兄があの強大な敵へ向かっていく姿に、シャロンは再び不安で包まれてしまう。
「……にーにぃ」
既にこの場から敵と共にいなくなってしまった兄へと言葉が漏れる。
「……にーにぃ……、いっちゃダメ……」
「シャルちゃん!!」
そして、シャロンは歩き出していた。
エリオナールもシャロンの行動に気がついたが、既にすべてが遅かった。
止めようとするが、その手はシャロンの身体を掴むことができず、空を掴むばかり。
フラフラと歩く。兄がいる、その場所へと……。
――シャルside end――
◇◇◇
「にーにぃ……」
目の前に現れた、妹にレクサは一瞬思考が止まってしまう。
しかし、敵はそういった事すらお構いなしに、目の前に現れた獲物に今までの怒りをぶつけようと、その巨体を震わせ走りだした。
……っは! マズイ! シャルが危ない!!
一瞬だけ思考が止まっていたレクサだったが、すぐさまその硬直と解いて、シャルを庇うために走りだす。
しかし、一瞬の思考の停止が仇となった。タッチのさで間に合わない。
格闘家スキルの『電光石火』を使用すれば間に合ったのだが、先程使用してしまったために再び使えるようになるための時間が足りない。
ックソ!! さっき使ったから、再使用時間が残ってやがる。 ……だったら、これだ!!
「『庇護陣』!」
レクサは召喚士のスキル『庇護陣』を発動する。このスキルは指定した陣に居る対象の攻撃を別の指定した味方に移すという少し変わったスキルだ。
敵の攻撃がシャルに当たる直前、陣がシャルを中心に展開される。
本来は自身が従者召喚した召喚獣へとダメージを写して自身を守るというスキルだ。尚且つこのスキルは、対象が受けたダメージを、文字通り移すというスキルなために、受けたダメージがそのまま写ってしまうため、移されたほうは大ダメージを受けてしまうため、ゲーム時代でもあまり使用されたことがなかったスキルなのである。
だが、今回は召喚獣を召喚している暇が無い。そもそも、この世界に来てから従者召喚を試したのだけれど、契約は解除されているようで呼び出せる召喚獣がいないわけだが。
だから今回はダメージを受けるのが召喚獣では無い。
「被弾対象指定! レクサナール」
そうして、シャルが受けたであろうダメージを全てレクサ受けることとなる。
「ぐああぁぁ!!」
シャルへの攻撃を全て受けきったレクサは、まるでダンプカーに突っ込まれたかのような衝撃がレクサを襲った。
――っく! マズイ。これほどの衝撃とは!! このままでは意識が……――
余りの衝撃に、意識を手放しかけたレクサだった、が。
「……にーにぃ!」
――はッ!! シャル!!――
「うおおぉォォォ!!」
シャルの呼びかけで、ふらつく身体をなんとか支えながらも、ギリギリのところで踏みとどまる。
敵の方はと言うと、最後の一撃だったのか、攻撃を放った直後で硬直しているようで、あちらも既に虫の息のようだ。
「シャルに手を出してんじゃねぇ!! ……『奥義・乱舞』!!」
意識がはっきりとしているだけで、既にこちらも満身創痍だったのだが、シャルに手を出されたレクサは頭に血が上ってしまい、敵にトドメをささんと、最後の力を振り絞り、敵に渾身の一撃をお見舞いした。
レクサの放った攻撃についに耐え切れなくなったスノードラゴンは、その巨体を大地に震わせて倒れこんだ。
今度こそ、その巨体を維持できなくなった魔素が光となって消えていく光景が見えた。
――……やったな。……だけど……――
『奥義・乱舞』
先程使用したスキルは、格闘家の最高位スキルの一つで、効果は一秒間に数十発の打撃を的に与えるという、なんとも言葉にしてしまうと味気ないスキルなのだが、その威力はは計り知れず、かなりのダメージを与えることが出来るスキルなのだ。
しかも、このスキルの凄いところは再使用時間がとても短く、戦闘中でも有に数回も使用できるほどだ。この短さは低レベルのスキルと同様なのだから恐ろしい。
え? そんな強いスキル持ってるんだったら、さっさと使えって?
まぁそう思うだろうな。
でも、どんな優秀なスキルにしたって、メリットがあればデメリットも存在するんだよ。
つまり、この『奥義・乱舞』にだって、デメリットはある。
ゲーム時代だったら、まぁ仕方ないかと言い切れないものでは無いのだけど、くどいようだがこれは現実なのだ。
何が言いたいかというとこのスキル、高火力な分、使用者に反動ダメージを返すというものなんだ。
つまり何が言いたいかというと、先ほどの瀕死な俺が使ってしまうと、かなりやばい。
「……っぐは!」
レクサは口から血を吐きながら、その場に倒れこんだ。
シャルがこちらに駆け寄って来ているようだけが、レクサは意識が再び朦朧としてきた。
「……ーにぃ……。……にーにぃ」
やばい。目の前に天使が見えるよ……。こんな可愛い天使に看取られるなら、俺の人生悪くはなかった……のかな。
こんな下らないことを考えながら、レクサは意識を深い闇の中へと落としていった。