~第10話 家族の危機(2)~
「キュイー!!」
レクサの呪文から呼び出されたカーバンクルが、即座に敵の攻撃を受ける魔力の壁を三人の周囲に展開する。
カーバンクルか下位の召喚獣で攻撃には向かない防御専門の召喚獣だ。
だが、その力は呼び出した召喚士の方の魔力によって左右され、上級者が強力な魔力を使用して呼び出した場合、その守りは強固な防壁となる。それこそ、ドラゴンの攻撃を1分ほどは耐えれるくらいに。
「こ、これは……?」
魔力の壁が三人を覆い尽くす。そこへ吹きつけるスノードラゴンの攻撃《スノーブレス》を物ともしない。
ジョセフとエリオナールが急な展開に戸惑っているところに、ようやくレクサは到着した。
「ふぅ……。なんとか間に合ったみたいだね。ありがとう、カーバンクル」
――キュイ!――
カーバンクルが、レクサの感謝の言葉に嬉しそうに答え、役割を終えたため光をまとって消えていった。
「レ、レクサ!? こ、これはどういうことなんだ!?」
父上が突然登場したレクサに戸惑っている。
まぁ当然だろうな。絶体絶命と思われたら、いきなり自分の息子が現れたんだから、誰だって戸惑うだろう。
しかも、明らかに不自然な力を持ってなど、なおさらだろう。
俺だって、いきなりシャルが俺のピンチの時に颯爽と現れたら、戸惑うだろうな。
「父上、大丈夫ですよ。すぐに終わらせますから。シャルと母上をよろしくお願いします」
「お、おい! レクサ!」
父上がレクサを引きとめようとするが、その制止を振りきって敵の方へと向かう。
立ちはだかるスノードラゴン、その障害を取り除くために……。
◇◇◇
と、意気込んでみたのいいんだけど、どうするかな?
敵はスノードラゴン。ゲームだった頃には幾度と無くソロで討伐したことはあるボスモンスターなのだが、あの時はきちんと討伐準備をした上でのことだ。
しかし、今回は完全にソロ。更には家族を護りながらの戦いというおまけ付き。
うーん、これはこちらが先に動くと家族が危険になる可能性があるよねぇ……。負けるつもりは無いんだけどね。
まぁあちらも先に動けば致命的ってのは理解しているようだし……。
……参ったな。
両者が睨み合ったまま、沈黙が続く……。
◇◇◇
「『烈風拳』!」
先に動いたのはレクサ。格闘家のスキルの『烈風拳』を使いスノードラゴンに挑む。
強烈な一撃を受けたスノードラゴンのその巨体が大きく吹き飛ばされる。
うん。防衛戦なんてこんな強敵相手にやるもんじゃないよね。
とくれば、防衛しなければいけない状況を変えてしまえばいいわけで……。
「もういっちょ、『烈風拳』! ふっ……飛べぇ!!!」
レクサは、続けざまに『烈風拳』を使用して、さらにスノードラゴンを吹き飛ばす。
「よし、これでみんなとは距離が出来たな。これで、あちらに被害が及ぶ可能性は低くなっただろう」
レクサは家族の方に意識を一瞬だけやって、すぐにスノードラゴンへと意識を戻し、スノードラゴンが居る場所まで駆け出す。
かなり遠くまで吹き飛ばしたため、未だ敵の姿が見えないのだが……。
――……アアァァアアァ――
――……バキバキ――
遠くで怒り狂っている敵の声とともに、周りの木々をなぎ倒してこちらへ向かっている音が聞こえてくる。
……しっかし、思った以上に恐怖は感じないものなんだな。
まぁ元々VRという、作り物とも言えないゲームをしていたり、この世界に生を受けて既に敵を倒すことはしている訳だし、案外既に慣れてしまってるんだろうな。
ようやくスノードラゴンの姿が見えてきたのだが、流石龍種といったところだ。レクサの攻撃を二回受けたにもかかわらず、大きなダメージが見受けられない。
それどころか、攻撃を受けたことに対して激昂し、その怒りをレクサへと向けるしまつ。
「しっかし、ホント硬いなー。これで、龍種の中で防御力が低い方なんだから、やってられないよな」
――グギャァァアアア!!!――
レクサのだれにも向けてないそのつぶやきは、スノードラゴンの強烈な咆哮にかき消された。
敵もやられてばかりはいない。先程のお返しと言わんばかりに、レクサへ攻撃を仕掛けてきた。
スノードラゴンは、その巨体を持ってレクサへと強烈な突進攻撃を仕掛ける。
「ちぃ! ――『電光石火』」
スノードラゴンの攻撃を格闘家のスキル『電光石火』を使用して、なんとか避ける。『電光石火』は使用者の速度を数秒だが倍まで引き上げてくれるスキルだ。主にレクサは回避するために使用しているスキルなのだが、攻撃時にも攻撃速度を上昇させたりと言った具合に使い勝手がいい良スキルだ。
『電光石火』で速度を上げたレクサは、そのスピードを利用して敵の背後へと回りこむ。
レクサのいた場所の木々は軒並み倒されてしまっている。あのままスキルを使用せずにいたらただじゃすまなかっただろう。
スノードラゴンの方は、レクサの事を見失ってしまったらしく、みっともなく周囲をキョロキョロ見回している。
電光石火の速度は凄まじいものだが、効果が一瞬しか出せないのが辛いよな……。
――……グゥルルゥゥ……――
よし! 敵が見失ってるし、これでトドメだな!!
「喰らえ! 『鎧崩し』!」
レクサはスノードラゴンの背後から奴の身体に拳を当てて格闘家のスキル『鎧崩し』をスノードラゴンへと叩きこむ。これは、防御力無視の攻撃スキルで、たとえどんな高い防御力を誇る相手だろうと、それを無視してダメージを与える結構強力なスキルである。
更に、一定確率で敵の防御力を一定時間下げるという効果のおまけ付きだ。
――ギャァァアアア!!!――
初めて攻撃が通ったスノードラゴンは余りのダメージに苦しんでいるよでのたうち回っている。
「よし! 一気に畳み掛けるぞ!」
レクサは一気に決着をつけるため、のたうち回る敵に更なる追撃を与えるための攻撃する。
「『濁流脚』! ……からの『烈風拳』!!」
ゼロ距離で放たれた『濁流脚』の攻撃をモロに食らったスノードラゴンはそのダメージに耐え切れずその場に倒れこんだ。
その場に倒れこんだスノードラゴンに追撃の『烈風拳』を叩き込み敵を更に後方へと吹き飛ばした。
レクサの怒涛の攻撃にスノードラゴンは為す術もなくその場に倒れこみ、ピクリとも動かなくなる。
辺りを静寂が包む。
余りに一方的な戦闘であったわけだが、これで決着が着いた。そう思い、レクサは緊張を解く。
「ふぅ……。これで終わりかな。まぁちょっと呆気なかった気もしないではないけども……」
ん? なぜ決着がこれでついたかって?
まぁ確かに先程の攻撃でびくともしなかった奴が、たとえ防御力を一時的にとはいえ下げられたからといっても、この数回のダメージで決着がつくとは普通思えないだろう。
だが、これはゲームでは無い。
ダメージを受ければHPが残っている限り通常と同じように動けるなんてことはないのだ。
つまり、致命的なダメージを受けた場合は、うまく身体を動かすことすらできなくなるわけだ。
だから、これで決着が着いたと思っても間違いではないのだ。
「しっかし……。これからどうするかな。……まだ問題が解決したわけではないんだしなー」
そう、レクサが気を抜いたのは間違いではない。
しかし、度々言うがこれはゲームでは無い。
現実の無常さが、レクサをあざ笑うかのように牙を剥く。
――……ガサッ――
「にーにぃ……」
シャルがスノードラゴンの前方の草むらから現れた。
そして、シャルの目の前には、先程倒したと思っていた、スノードラゴンが傷ついた身体で起き上がっていたのだ。
――は?――