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雑文  作者: やまね
3/7

水玉模様

 動悸が激しい。世界がまわる。


 卒業論文も書き終えて、やっとひと段落。その祝いということで珍しく外食をしたのだが、少々浮かれて飲みすぎたらしい。このところゆっくり会うこともできなかったあいつと二人ということでテンションが上がっていたことは自覚していたのだけれど、少々ペースが早かったらしい。それにしたってまさかこんなに酔うとは思っていなかったのだ。


 アルコールを摂取した際は、それを分解する為に倍の量の水分を必要とするなどと言われている。経験上それに加えて糖分も必要だ。そしてこんな場合、私がとる常套手段といえば乳酸飲料。あいつに担がれてアパートへ向かう道すがら、私はもうろうとする意識の中、そんなことを思う。


 今時の言葉で言えば食育の一環という事なのだろうか。うちの母親は食事に関しては随分と気を使っていたようで、私には子供の頃に駄菓子やスナック菓子というものを食べた記憶が殆どない。

 おやつといえば夏場であれば塩をふったトマトや味噌を乗っけたキュウリ。冬は干し芋やミカンなんてものが定番で、市販の菓子類は子供心に非常に憧れる存在。私がそれらを食べることのできるチャンスといえば、遠足の際に許可される、いわゆる「300円まで」のお菓子くらいな物だったのだ。


 よく遠足の前日に眠れない子供なんていう話があるが、私の場合にはそのもう前日、遠足のお菓子を買いに行くというイベントに何よりも心を躍らせ、事前に何度も買うもののリサーチやリストアップをしてはノートにメモをしていたものだ。まずはおまけ付きのお菓子(これが100円を占める)を買うか否かという最大の問題に直面し、その後はボリューム重視で行くのか少数精鋭で行くのかという所で大いに心が揺れる。また前回ポイントの高かった菓子で固め手堅く行くのか、もしくは新たなアイテムに手を出し、冒険をするのかというのにも決断が・・・いや話が逸れた。今問題としているのはそこではない。


 その我が実家の食事事情というのは飲み物に関しても同様で、幼かった頃の私が口にする事ができたのは緑茶にほうじ茶に麦茶、それから牛乳といったところが全てで、ジュースのような「甘い飲み物」という物も駄菓子と同じく遠い存在だったのだ。

 しかし遠足というチャンスが駄菓子に存在していたのと同様に、「甘い飲み物」に関しても口にするチャンスが年に2回程あった。

 そのチャンスの名は「お歳暮」と「お中元」。その行事によって送られてくる箱の中には、白地に水色の水玉模様が特徴的な包装紙に包まれた褐色の瓶が数本。


 飲んで良いのは一日に一回だけ。その制限の元、これの管理運用は完全に私に任されていた。一日に一回、そして原液の量は有限。そうなると悩むのはどれだけの量を一回に消費するか。本当であればもちろん贅沢な量を一回に飲んでしまいたい。濃厚なあの甘さを口にする贅沢は何物にも代えがたい。しかしそんなことを続けていればあっというまに無くなってしまう。となるとどこまで薄めても楽しめるか、その境界線を探る試行錯誤が重要となるのは言うまでもないだろう。

 とはいえ、薄めすぎたそれを口にした時のこれじゃない感はなんというか絶望である。限られた資源を無駄にし楽しみも得られない。何度かの失敗を体験した後、けちってちびちびと消費するよりは贅沢に短く、そのほうが幸せであるという教訓を幼い私は得たのだ。


 そう、薄いのはダメだ。ちょっと濃いくらいでちょうどいいのだ。だから私はそう口にするのだ。


「カルピス・・・カルピスちょうだい。濃いのがいいの・・・」


「ちょっ! なに酔っぱらって何てこと口にするか! もう少しで家つくから、いいから黙ってろ!」


 なぜか頭をこづかれた。

 理不尽である。こんな時くらい優しくしてくれてもいいじゃないか。

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