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雑文  作者: やまね
2/7

ツナマヨというよりマヨネーズ

爆発案件らしい

「君の中ではツナマヨのおにぎりというのは、どういう風に解釈されているのだろうか」


 手渡されたオニギリを半分ほど一気に口に入れた後、口のなかに広がったこの風味に眉をしかめ、思わず私は抗議の言葉を発してしまう。


「解釈とはまた仰々しい表現だね。その問いをオニギリの具としてツナマヨがの可否と解釈するならば、私の答えは肯定だ。実際これを握ったのは私なのだから、そんなことは答えるまでもないと思うけれどね」


 彼女はそんな事を言ってかすかに笑う。

 仰々しいなどと口にはするけれど、僕がこんな言葉を使うようになったのはどう考えても彼女のこの口調に引っ張られての事で、どうにも僕としては釈然としない気持ちになってしまう。


「いや食べられないって訳じゃあないし、そもそも好き嫌いはそんなに無い方だと自分では思ってるんだけれど、この米とマヨネーズという組み合わせは何というか邪道というか……」


「ふむ、君とは食べ物の好みは一致することが多いと私としては内心喜んでいたのだけれど、思わぬところで見解の不一致が露見してしまったようだ。私はごはんとマヨネーズという組み合わせに関しては肯定派だね。ごはんにマヨネーズを乗っけて食べるという廃頽的なメニューに関してもやぶさかではない程度には」


「なん……だと……!?」


 その言葉に思わず僕は一歩後ろに下がってしまう。

 いわゆるマヨラーと分類される人たちが行う魔の所業。


「いや待ってくれ。それを嗜好していたのは幼少時期のいわゆる子供舌だった頃の事で、今はそんなことをすることは無いと弁明させてもらう。だからそうあからさまに避けるような行動をしないでくれないだろうか」


 そう言って彼女は僕達の間に空いた空間を一歩進んで埋める。感情が顔に浮かぶ事が少ない彼女にしては珍しく、少しあわてたような口調。僕はそんなに嫌そうな顔をしてしまったのだろうか。


「しかし言い訳をさせてもらえるのならば、先週一緒に入った回転寿司で君は嬉しそうにカルフォルニアロールを注文していたと記憶しているのだが。あれだって米とマヨネーズの組み合わせではないのかい? 加えて言わせてもらえば、加熱、非加熱の差はあれどもツナ、多分キハダマグロだ。それが加わるという共通点も見過ごすことは出来ないと思う」


 そんな所作が珍しくて思わずまじまじとその顔を眺めていると、彼女は少し拗ねたように顔をそらしてぼそりとそんな事を呟く。


「…いやでもあれにはアボガドが入っているじゃないか。アボガドとマヨネーズの組み合わせにはそれ以外の欠点を覆すだけの威力があると僕は思う」


 自分で言っておいてなんだけれども、どうにも言い訳めいた言葉が口から出てしまう。でも食べ物の好みなんて言うものはそうそう割り切れるものではないのだし仕方がないと思うのだ。

 しかし彼女にはそんな言い訳は通用しないらしい。反撃とばかり身を乗り出してくる。


「随分と非論理的な事を言うじゃないか。どうも君の中でマヨネーズという物は変な感情を伴う特別なものなのではないかと推論するのだけれど、たとえばツナマヨのサンドイッチというのは許されるのかい?」


「うん、特に嫌っている訳じゃないね。パン類とマヨネーズの組み合わせは悪くないと思うよ」


「ではマヨネーズ風味のポテトサラダなどはどうだろうか」


「基本大丈夫だけれど、どちらかと言えばあまり柔らかくない方が好きだと思う」


「では魚のフライやムニエルにあわせるタルタルソースは?」


「好きだね。でも、あれは僕の中ではマヨネーズと分類されていないよ」


「そういえば以前、カジキマグロにマヨネーズを塗って焼いたものをご馳走してもらった記憶があるのだが、あれはどう解釈されているのだろうか」


「調味料としてはお手軽で優秀だよね。カジキはパサパサしがちだし淡泊だから、良く合うと思うよ」


「屋台のお好み焼きやタコ焼きのマヨネーズはどうだい?」


「細く全面にかけられているのだったらあった方が良いと思う。でも端に乱暴にのぺっと乗っているのはあまり嬉しくないよね。あれは怠慢だと思う」


「ふむ、では飲み屋のランチなどの皿によくあるレタスとトマトの横に乗っかっているマヨネーズのかたまりだったらどうだろうか」


「う、それは、苦手だ……」


「…………」


「…………」


「私としての結論だが、君は好き嫌いが無いという自分への評価を見直す必要があると指摘させてもらうよ。そしてこれは最後の質問なのだけれど―――」


 矢次早の質問を終えると、一瞬の沈黙の後に彼女は勝ち誇ったような顔でそう口にする。

 そして、最後に何とも危険な言葉を口にしたのだ。


「私の口の端にマヨネーズが付いた状態で、君にキスを迫ったとしたらどうだろうか」


「…………」


「…………」


「…………」


「悪かった。そんなに悲しい顔をしないでくれ。これからはマヨネーズの扱いには十分留意すると心から誓おう」


 彼女はいつにもまして真剣な表情でそう口にした。


 どうも僕はマヨネーズというものに苦手意識があるらしい。

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