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雑文  作者: やまね
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凛々さん

厨二どころじゃない酷い妄想。

戻るボタン推奨。

 バイトを終え、通っている大学の近くに借りた築30年級のボロアパートに帰りついた僕を出迎えたのは、妖艶という言葉がそのまま現実化したかのような和服姿の女性だった。


 花魁姿とでも言うのだろうか、黄色と緑青色を基調としたなんとも派手な和服。少し着崩れた後ろ襟から覗く項がなんとも色っぽい。

 しかし頭に乗っかっている髪飾りであろう物体だけが妙に浮いて見える。なんだあれ? 音響カプラ?


 で、その美女がちゃぶ台の上に設置された、バイト代を貯めてつい先日買ったばかりのWndows95搭載パソコンの前で片肘を付きながらカチカチとマウスを操作しているのだ。

 見慣れた筈の部屋が異空間と化している。


 しばし玄関で靴も脱がず呆然としてしまったのだが、このままではまずかろう。

 勇気を出して声を出す。


「ええと、どちら様でしょうか? 多分ここは僕の部屋だと思うんですが・・・」


 その声で初めて僕の存在に気づいたのか、ぴくっと小さく肩を震わせた後、その和装の女性がこちらを振り向く。


「おお、ぬし様、お帰りであったか。しかしなんじゃその他人行儀な態度は。数えきれぬ程の夜を共に過ごしたわらわに対してどちら樣とは何ともつれない言葉・・・」


 その正体不明の美女はそんな事を言って不機嫌な顔をする。

 拗ねたような表情と声色は、最初に受けた印象に比べると何だかあどけないのだが、発せられた言葉の内容はとんでもない。


 ぬし様? 夜を共に?こんな美女にそんな事を言われるような羨ましい経験をした覚えなんか微塵もない。自慢じゃないがというかならないが、僕は生まれてこのかた彼女なんか居たためしがないのだ。


「・・・ええと、部屋を間違ってるとか、人間違いとかじゃないでしょうか。僕にはあなたみたいな美人の知り合いは居ませんし、つれないとか言われても困ります」


 その僕の言葉で何か気づくことがあったのか、その彼女はちょっと驚いたような表情をした後、一転して笑顔を見せる。


「美人とは嬉しいことを言ってくれるの。そういえばこの姿でまみえるのは初であった。わらわは・・・そうじゃのう凛々とでも名乗っておこうか。何の凛々かは自分でもまだよう判っておらんのじゃ」


 しかし相変わらず言っていることはさっぱり的を得ない。この姿ってなにさ。


「何者かと問われて答えるのならば、ほれ、あそこに転がっているぬし様の使い古したエプソンのPC98互換機。それにあの中に巣を張っておった女郎蜘蛛が加わり九十九となって形を成したのがわらわだという答えになるじゃろうなあ」


 彼女、仮に凛々さんとしようか、はその顎に細い指をあて、首を傾げながらそんなとんでもない事を言う。


「ええと、九十九ってのはツクモ? 付喪神とか妖怪とかそういう類ってことですか?」


「さすがは主様、理解が早くて助かる。そうじゃの、わらわは古に法力比べで敗れた僧の経文から生まれたとされる由緒正しき付喪神、経凛々様の眷属。人の生み出す言葉や文字に込められた念が具現化した存在じゃ」


 由緒正しいとは言うが、残念ながらそんな名前の神様や妖怪は聞いたことがない。まあそっちの知識はゲゲゲの鬼太郎でくらいしか知らないわけだけれど。


「わらわの一部を成す蜘蛛の名前の由来は女郎または上臈とされておる。上臈とは高位の僧侶という意味をもつこともあるからして、経凛々様の眷属としてわらわが世に解釈されたのも、さほど無理が有る話でもなかろう?」


 凛々さんは「どうじゃまいったか」とでも言うかのように胸を張って自慢気に答える。零れそうで目のやり場に困る。

 まあ要約すると、中に住んでたクモと古いパソコンが一体化して化けて出たと。僕が暮らすこの現代日本というのは、思っていたよりもファンタジックな世界なのだろうか。

 いやいやまてまて。

 思わず納得してしまいそうになったが、そんな事が早々起こってたまるものか。


「その理屈はおかしいでしょ。付喪神っていったら何十年も大事に使い込まれた物に宿るとかそういうのですよね? 確かにその98互換機はそれなりに古いですけど、せいぜい作られてから数年しか経ってないじゃないですか!」


 そうなのである。つい先日まで使っていたあの98互換機は大学の合格祝いに両親から買ってもらったもので、使い始めてまだ3年くらいしか経っていない。

 そんな年数で何かが憑いてしまっていては日本全国、八百万では済まないレベルの物の怪天国だ。


「そこはぬし様がパソコン通信やらニュースグループやらの閲覧に熱心じゃったからの。利用者同士の文字を介したやりとりから生ずる念には事欠かん。最近では色々な場所で新参者の礼儀がなってないとか、昔からの住人が横柄だとかのいさかいが盛んであったじゃろ? そういったこの国の至る所から発せられる反発やら個人攻撃やらの感情が乗った文字が溢れて、とうとうわらわに自我が生ずるまでになったというわけじゃ」


「いやいや、それじゃあ世の中パソコン通信やってる人にはもれなく美人の付喪神プレゼント的な怪しいキャンペーン状態じゃないですか!あれですか、通信会社の新たな販促戦略とかですか? だとしたら豪華すぎでしょ!」


「自分で気づいているかは知らんが、ぬし樣はかの有名な西寺の守敏大徳樣の末裔じゃしの。その霊力にあてられなければこんな事にはなりゃせんから安心せい。まあ、故にこそ、ぬし樣はわらわのぬし樣というわけじゃな」


 またも「かの有名な」なんて言っている人名にさっぱり聞き覚えがありません。おまけにご先祖樣らしいという。

 ううむ、そっちの世界では有名なのか、僕の知識があまりに貧相なのか。


「そうそう、ちなみに美人とぬし樣が褒めてくれるこのわらわの容姿じゃが、ぬし樣が主様が毎晩覗いておる女性の裸体を多数掲載したサイトから保存した画像の傾向に影響を大きく受けておるからの」


 夜を共にってそういうことですか! それって毎晩のように見ていたアレなサイトや98互換機でやっていたアレなゲームも知られってるってことですか!


「若いの、ぬし樣」


 そういうと凛々さんは、妖艶にニヤリと笑った。


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