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第3話 くもり。のち、晴れ?

引き続きR15程度の表現が含まれます。ご注意ください。


 言葉の通りに玄関先に立った彼を見て、和美はやはり夢見心地だった。

「ホントのホントに由良湊〔ゆら みなと〕、だったのね」

 と。

 我ながら情けないというか、間抜けな言葉を大好きな気象予報士の彼に投げかける。

 毎朝欠かさずに見て出勤している朝の情報番組『ミーニング・サン』のお天気お兄さんとして有名な彼は、今年でコーナーを任されて二年目の24歳。

 上は悠々自適のご婦人からキャピキャピの中高生まで、女性からの支持がとにかく高い。

 もちろん、和美もそんな彼に見入っていた女性の一人ではある。彼の天気予報は分かりやすくて、親切で、しかも正確だ。

 にわか雨が降るかもしれない地域から、そのタイミングまで的確に教えてくれるから朝は必ず見るようにしている。

 しかも、その理想の弟みたいなそんじょそこらじゃ見られない癒される笑顔で「いってらっしゃい」と手を振られる瞬間は、出勤前の至福だった。

「ええ、まあ。そんなに僕の顔、珍しいですか?」

 まじまじと眺められ居心地悪そうに彼は言い、和美は「ごめんなさい」と謝った。

「ビックリしちゃって。テレビでしか見たことないし、昨日はだから気が付かなかったって言うか……繋がらなかったのかしらね。記憶とあなたが」

「そうですか?」

 微笑む彼の顔はテレビで見る爽やかな男性そのものだ。けれど、どこかドキリとする。

 昨夜のことを思い出した。

 欲情する湊のこと。

 理想の弟のハズなのに……翻弄されてどうするの?

「あ、そうだ。鍵……」

 彼は言うと、ポケットから鍵を取り出した。

 和美が受け取ろうとすると、スイと引いてそれにつられて伸ばした彼女の腕を取る。

 あ、と思った時には昨日と同じように壁にはりつけられていた。

「由良、さん?」

「コレ、返さなくちゃ駄目ですか?」

 と切なそうな顔をする。

 その眼差しが昨日とダブって熱を帯びるのに魅入ってしまう。

「あ……」

 やっぱり彼は見た目よりも ずっと 強引なのだと知らされる。

 ツ、と足の内側に冷たい金属の感触がして、それが自分の部屋の鍵だと気づいたのは湊が告げたからだった。

「いいでしょう? この鍵、僕が貰っても」

 片足が持ち上げられ、鍵が押し当てられる。ピッとストッキングが破られ、外気が肌を直に這った。

「んっ、やっ……由良さん。今日も、するの?」

 彼がそんなに女性に飢えてるとは思えないけれど、と和美は不思議に思う。

 それと同時に彼の方もよくよく彼女を見つめて、眉間にシワを作った。

 そんな困った表情も可愛い、と和美は微笑んでしまう。

「しますよ? っていうか、和美さん……僕のことどう思ってます?」

「え? 理想の弟かなあ? 癒されるもの」

 言い終わらないうちに鍵が深く抉るから、息を呑む。

「 ん! 」

「いいんですけどね、弟でも。ただ、僕は 貴女が 好きなんです」

「あっ……う、嘘っ」

 疑って目を開ければ、すぐ目の前に彼の誠実な眼差しがあった。

「嘘じゃ、ありません。僕は、ずっと 貴女を 見てた……」

 唇が重なって、ただなぞって吸いつく優しいキスをする。なのに、足の付け根では彼の持つ部屋の鍵が、乱暴にこじ開けようとする。

「ココ、開けても……いいですよね?」

( 昨日、もう、勝手に開けてるクセに )

 恥ずかしい返事をする前に中で回転されて、喘いだ和美の体は軽くふっ飛んだ。


 玄関先で、立ったまま。


「昨日、本当はこうしたかった」

 と、嬉しそうに由良湊は微笑んだ。この場面にそぐわない爽やかさは「犯罪」だと思う。

 その顔で「湊って呼んで?」とお願いされれば従わずにはいられないし、拒絶なんて考えられない。

 下着をよけて準備を整えた彼が突き上げる。すでに手に鍵の存在はなく、片足を持ち上げた腕とは逆の手は彼女の開いたブラウスの中に入って弄っている。

 押し上げられたブラの下に覗く二つの膨らみを口と指先で可愛がる。

 壁と背中が擦れる動きとともに、どこかで鈴の音が鳴っている。




 部屋の鍵に付いたマスコット付きの鈴を思い出して、見えないけれどどこかに鍵があるのだとぼんやりと考えた。


次回で本筋は終了です。が、続いて後日談がありますので、よろしければお付き合いください!

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