序・雨
その日、飯田和美〔いいだ かずみ〕は散々だった。
付き合って一年の年上彼氏には一番嫌いな言葉で別れを告げられ、悲しいやら腹立たしいやらで何とか終電に乗ったはいいけれど駅から出て気づけば雨に降られていた。
しかも、どしゃ降りってどういうこと?
駅を出た時から、少し小雨程度には降っていたけれど……気分的に傘をさす気にはなれなくて、鞄に忍ばせていた折り畳み傘は出さなかった。
「ああっ。もうっ! アイツのせいで由良くんの天気予報も無駄になっちゃったじゃない。バカァ!!」
ぐちゃぐちゃに濡れたパンプスでアスファルトの道を蹴り上げれば、派手な水しぶきができる。
頭から足の先まで雨に濡れて、和美の胸のあたりまである髪もパーマがストレートになるくらいまで滴が滴っていた。唯一の救いは今の季節が「初夏」だということ。
とはいえ、このまま濡れたままでは風邪をひくかもしれない。
冷えてきた体を抱いて、足早に家路に急ぐ。
一人暮らしのマンションの部屋だけれど、体を温めるくらいはできる。
早く、熱いシャワーでも浴びなければ……彼氏と別れたからと、病気になるようなヤワな女にはなりたくない。
別れ際の彼の言葉を思い出して、顔が強張る。
(どうして男って……)
「すみません、よろしいですか?」
おずおずとした声に、和美は振り返る。
傘をさした若い男性が立っている。
街灯の明かりでわずかに見える印象だけれど、かなりの美形だ。なんとなく見覚えがあるけれど、どこで見たかは定かではない。
(誰?)
と、眉根を寄せ、彼の、傘を持つのとは逆の手を見てあっと思う。
「す、すみません!」
それは、自分の履いていたハズのパンプスだった。
またまた連載を始めてしまいました。が、とりあえず本筋は三話程度で終わる短くて軽いお話です。その後ネタと彼視点の番外をつけて、全部で七話くらいかな? と思っております。今のところ……もう少し続きが書きたくなるかもしれないので、未確定ですがよろしければお付き合いください(本編、その後にはR15表現を含みます)。