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第三部 第二十七章 祭りの日々?

 かがり火の前で、カナエは捧げの舞を踊っていた。鈴の音が、夜気を震わせる。

 悠斗が召喚されたことに気づいているはずなのに――それでも舞は止まらない。悠斗は何も言わず、その姿を見つめていた。

 やがて。最後の一振りとともに、舞が終わる。

 静寂。

 次の瞬間、カナエは満面の笑みで飛びついてきた。

「ユゥ! 会いたかったぞ!」

 くるくると回りながら抱きつく。

「俺もだ」

 いつもの再会。けれど、今日はどこか違う。

「なあ。俺に気づいてただろ? いつもならそこで終わりなのに、今日は何で最後まで舞ってたんだ?」

 カナエは少しだけ真面目な顔になる。

「今日は“星が降る日”なんだ。だから、村の無事を祈ってた」

「星が……降る?」

「カナエは見たことないけど、爺ちゃんは昔、村の近くに落ちたって言ってたぞ」

「……隕石、か?」

「いんせき? いんせき餅か? さすが恵みの使者様だな!」

「いんせき餅って何だよ!?てか使者でもない」

 他愛ないやり取りを交わしながら、二人は村へ向かう。その途中、茂みが揺れた。

「ギャギャ」

「お前、この辺に住んでるのか?」

「ふふん。これでいつものメンバーだな!」

 星が降る夜。

 何かが起きる予感だけが、静かに胸に残っていた。


 村へ着くと、広場には多くの村民が集まっていた。その中には、オウゲン、タケル、ミナの姿もある。

「じーちゃーん!とーちゃーん!かーちゃーん!」

 両手をぶんぶん振りながら駆け寄る。

「悠斗殿、よくぞおいでになられた」

「お世話になります」

「いい日に来たな、悠斗!」

「今日は年に一度の“星が降る日”ですもの」

 周囲を見渡せば、屋台の準備や飾り付けで村は活気に満ちている。

「なんか、いつもより歓迎ムードですね」

「星が降る日は騒いで災いを寄せ付けない――という風習ですな」

「理由があれば何でも祭りにする!それが俺達の村だ!ははははは!」

「みんな、お祭りが好きなんです」

 過酷な環境で生きる彼らにとって、祭りは恐怖を忘れるための灯火なのだろう。

「その“星が降る日”って、毎年来るんですか?」

「毎年来ます。ただし、この村の近くに落ちるとは限らぬ」

「じゃあ、来ない年も?」

「いいえ。遠くに落ちるだけ。我らは流れ星として見守るのみ」

 そこで、オウゲンは表情を引き締めた。

「――神の声が、するのです」

「え?」

「以前、悠斗殿が“機械”と呼んだ物……あれは、空から落ちた星の中にあった」

「星の……中?」

「儂が、カナエよりも幼き頃の話」

 広場の喧騒が遠のく。

「あれは毎年一度だけ、声を発する」

「……まさか、今も?」

 村長は静かに頷いた。

「昨日、声がした。声がした次の夜――星が降るのです」


 広場の一角では、タケルたち屈強な戦士が牛に似た大型獣を何頭も解体している。

「今日は大盤振る舞いだ!」

 血と汗の匂いが立ちこめる横で、ミナ率いる調理班は大鍋を並べ、次々と料理を仕上げていた。

「火を絶やさないで!塩はこっちよ!」

 カナエたち若者は森へ走り、山盛りの果物を抱えて戻ってくる。子どもたちは楽しそうに飾り付けだ。

「……全員総出ですね」

「毎年決まっておる祭りは“星が降る日”だけ。他はいつ訪れるやも分からぬ祝い事ばかりですゆえ」

「よし、俺も手伝います!」

 悠斗は各班を回った。

 タケルに刃の入れ方を教わり、ミナには煮込みの加減を学ぶ。合間に現代の下処理や焼き方をさりげなく披露すると、調理班から歓声が上がった。

「悠斗さん、すごい!」

 カナエには甘い果実の見分け方を教わり、子どもたちと一緒に飾りを結ぶ。

 ――やがて夜。

 かがり火が灯り、祭りが始まった。

 タケルたちは豪快に酒と肉をあおる。

「ユゥ、食べてるか?」

「ああ、美味いな」

「ご馳走いっぱい、楽しいな!」

「毎年こんな感じか?」

「今回は特別。ユゥの恵みのおかげだ」

「ここまでのご馳走は初めてですな」

「俺は何も。みんなの働きですよ」

 そのとき。満天の星空に、一筋の巨大な光が走った。

「あっ!」

 それは霊峰の奥へ消え――

「ユゥ、落ちるぞ」

「え?」

 次の瞬間夜空が裂け、星が降った。


 轟音とともに、大地が揺れた。衝撃が足元から突き上げる。

 だが――距離があったおかげで、村への被害はない。

 しばしの静寂のあと、歓声が上がった。

「ははは! 今年は派手だな!」

 祭りは、何事もなかったかのように続いていく。

「……凄かったな」

「今回のは近かったな。霊峰の裏側かも。明日、行くか?ユゥ」

「行かないよ。たぶん、もうすぐ戻るし」

「えー?もう帰るのか?」

 そう。悠斗は“祭りの手伝い”が目的だと思っていた。

なのに――まだ帰還の気配がない。

「……あれ?違う?まさか」

「戻らないなら決まりだ!霊峰の裏側へ行くぞ!!」

「マジかよ……」

 どうやら目的を読み違えたらしい。現代へ帰る条件は――“落ちた星”か。

「楽しみだな、ユゥ!」

 無邪気な笑顔とは裏腹に、悠斗の胸はざわつく。結局、その夜帰還は訪れなかった。仕方なく村で一泊。

 ――翌朝。悠斗は、まだそこにいた。

「やれやれ……寝てる間に現代、ってわけでもないのか」

 ため息をつく。

「起きたか? ユゥ!」

「ああ」

「ご飯食べたら出発だ!!」

 簡単な朝食を済ませ、村の入口へ。昨日、星が落ちた方向を見据える。

「ギャギャ!!」

「ギャー!」

 霊峰を共に登った中型恐竜たちが、すでに待機していた。

「……本気かよ」

 新たな目的地は、霊峰の裏側。落ちた“星”の正体を確かめるために。


 恐竜の背にまたがり、悠斗とカナエは霊峰の裏側を目指す。標高五千メートル級の巨峰。真正面から越えるのではなく、大きく迂回しながら進んでいた。

「これ、いつ着くんだ?」

「このスピードなら、休まなきゃ二時間ってとこだな」

「往復で最低四時間!?……ケツが死ぬ」

「ユゥのケツは弱いな〜、あはは!」

「ギャギャ」

 道中、何度か休憩を挟む。まだ半分ほどしか進んでいない。

「カナエは、落ちた星を見たことあるのか?」

「こんなに近くに落ちたのは初めてだ。何があるか楽しみだな!」

 無邪気な笑顔。

 悠斗はふと考える。

(オウゲンさんが拾った“機械”……あれは通信機か何かか? だとしたら、今回落ちたのも――)

 機械惑星からの探索機。そんな仮説が頭をよぎる。

「えへへ、ふんふ〜ん」

 完全に遠足気分だ。

「……よし、休憩終わり!」

「おー!!」

 再び駆け出す恐竜たち。

 やがて、霊峰の裏側へ到達した。だが、クレーターらしき痕跡は見えない。

「お?あれ、何だ?」

 彼女が指差す先。空に、黒い影があった。

「鳥……?」

「違う。もっと大きい」

 目を凝らす。

 翼のようなものを広げ、ゆっくり旋回している。

「……あれは……!?」

 記憶が蘇る。セレフィナの時代で見た、あの黒い影。嫌な予感が、背筋を這い上がった。


 悠斗は息を呑む。

「(二つの時代で、同じ飛行物体……? サイトのいる時代から、何かを探してる? まさか……)」

 胸がざわつく。

「……俺、か?」

 レナとサイトは言っていた。

 “悠斗は捕まらない”と。

 だが、飛ぶ時代も時間軸も違う二つの世界で、同じ影を見るなど――偶然で済む話ではない。

「っ……!」

 とっさに恐竜の巨体の陰へ身を滑り込ませる。

 上空を旋回する黒い影。

 冷や汗が止まらない。

「ユゥ、どーした?」

 カナエの声が悠斗には届かない。悠斗は空を睨み続ける。

 やがて――

「あっ!! 飛んでいった」

 影は遠ざかり、雲の向こうへ消えた。

 カナエは少し残念そうだが、悠斗は深く息を吐く。

「……何が起きてるんだ」

 サイトに問いただしたい。だが、現代に戻らなければ会えない。

「カナエ、行こう」

 今は目的を優先する。

 やがて。

「あったぞ!!」

 巨大なクレーターが口を開けていた。二人は中央へ向かう。しかし、そこにあったのは焼け焦げた地面と、わずかな残骸のみ。

「ちぇ〜っ」

 悠斗は黙り込む。

(星はあの黒い影が落とした? それとも中身を回収した? それとも――本当に俺を……?)

 答えは出ない。深まる謎を抱えたまま、二人は村へ戻り――

 そして悠斗は、再び現代へと帰還した。


 悠斗は研究区画の一室で、レナとサイトに向き合っていた。

 セレフィナの時代とカナエの時代で見た黒い影。そして、毎年訪れる“星が降る日”。

「黒い影については現在も調査中だ。だが十中八九、タイムパトロールの船だろう。型式も俺たちの時代に近い」

「じゃあ、やっぱり……」

 胸が締めつけられる。自分を追っているのではないか――その予感。

 しかしサイトは首を振った。

「いや。お前を探しているわけじゃない。むしろ、俺がかつて追っていた痕跡を辿っていると考える方が自然だ」

「え?」

「言ったはずだ。お前が飛べる時代は、俺がかつて渡った時代と重なっている」

「それって……」

「奴らが追っているのは悠斗じゃない。俺が追っていた“人物”だろう」

 元時空警官。そして辞職の原因となった事件。

「じゃあ……あいつらは、まだ追ってるのか?」

「おそらくな。悠斗の時代にも現れるだろう」

 ぞくり、と背筋が冷える。

「じゃあ、なんでカナエの時代に“星”を降らせるんだ?」

 黒い影と星を結びつける悠斗に、レナが口を挟む。

「それは別問題よ」

「え?」

「サイトの観測データを解析したわ。あれはカナエって子の時代の地球を調査する探索機。あの時代の人類――つまり、私たちの遠い祖先が打ち上げたもの」

「星はタイムスリップしてない……?」

「ええ。地球を離れたあとも、祖先たちはずっと地球を気にかけていたの」

「そう、なのか……」

 理屈は通っている。二人の説明も信用できる。

 それなのに――

 悠斗の胸に残る不安だけは、消えなかった。

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