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第三部 第二十六章 祝福の日々?

 最近は、やけに呼ばれる回数が多い。

 そのほとんどが――城下町へのおつかいだ。

 セレフィナ、ルクル、エリオット、そして俺。

 王女ご一行は、城下町を馬車で奔走していた。

 そして、今回の召喚は……

「あと何の準備が必要なんだ?」

「お兄様用の、仕立てたお召し物ですわね」

 王子の結婚式に向けて、城は慌ただしく動いている。

(もうすぐ結婚式……死亡フラグ王子、すみません。俺、またフラグ立ててません?)

「お兄様、いつお戻りになられるのかしら」

 セレフィナは疑いもなく、帰還を信じている。

「仕立て屋は城下町か?」

「さようでございます。本日中に受け取らねばなりませぬ」

 エリオットが告げる。

「姫さま、馬車の準備が整いました」

「行きましょう、ユート」

「あぁ」

 本来なら品は召喚で運ぶ予定だったらしい。だが俺が召喚されたせいで、物理回収になったらしい。

 馬車が揺れ出す。

「セレフィナの服も同じ仕立て屋か?」

「私のは術師のローブを王族仕様にしておりますので、仕上げは城内ですわ」

「部屋着はそのままですよね?」

「ええ。あそこの服は寝心地が最高ですの」

 うっとりする王女。

 ――そして、突然。

「そうです!!」

「な、なに?」

 セレフィナが勢いよく身を乗り出した。

「ユートも、お兄様の結婚式用の衣装を仕立てていただきましょう!」

「……は?」

「当然ですわ」

「いや、でも俺が結婚式に参加できる保証なんて――」

「呼びます」

「え?」

 まっすぐな瞳。

「必ず、呼びます!!」

 有無を言わせぬ宣言だった。

 こうして俺は、王子の結婚式用衣装を仕立てられることになった。

(……それってつまり、本当に呼ぶ前提なんだよな?そんな都合よく行くわけ……あるのか?)

 馬車は城下町へ向けて走る。


 城下町は、いつも以上に活気に満ちていた。

 王子レオネルの結婚式を目前に控え、街全体がお祝いムードに包まれている。色とりどりの旗がはためき、露店からは甘い香りが漂っていた。

 馬車を降りた瞬間――

「姫さまだ!」 「セレフィナ様ー!」

 一気に人波が押し寄せる。

「道を開けてくださ〜い! 姫さまが通りま〜す! 道を、道を開け、開けて〜……」

 エリオットの必死の声も、歓声にかき消される。

「あらら〜、消えちゃったね〜」

 ルクルがのんびり言う。

 見ると、エリオットの姿が人波に飲み込まれていた。

「……大丈夫か、あいつ」

 騒ぎを聞きつけた仕立て屋の主人が慌てて店から飛び出し、人々をかき分ける。

「セレフィナ様、こちらへ!」

「ご足労をおかけします」

 なんとか店内へ避難成功。

「すごい熱気だな……」

「皆、セレフィナ様を一目見ようと集まったのでしょう」

 店主は誇らしげに言った。

「ご主人。今日はユートの衣装もお願いしたいのです」

 セレフィナが俺を指差す。

 店主はじっと俺を見る。

「失礼ですが……こちらの方は、どこかの貴族様で?」

「我が国の亡国の危機を救った“英雄”ですわ!」

「な、なんと!?」

「違ーうっ!!」

「ユートは英雄なんだよ〜、この国では」

 ルクルがくるくる飛び回る。

 その時、店の扉が勢いよく開いた。

「ひ、姫さま……ご無事でしたか……!」

 そこに立っていたのは、服も鎧も乱れ、どこか踏まれた跡のあるエリオットだった。

「はい。おかげさまで」

「エリオットは、ただ踏まれただけだよね〜」

 ルクルの無慈悲な一言。

 城下町の祝祭の熱気は、まだまだ収まりそうにない。

 そして俺は思う。

(……この空気の中で、何も起きないわけないよな?)


 王室御用達の仕立て屋だけあって、店内に並ぶ衣装は豪奢なものばかりだった。

 刺繍の入った礼装、金糸を織り込んだマント、宝石付きの飾り帯。

 いかにも貴族が着るような服が整然と並んでいる。

 だが――それだけではなかった。

 どこか機能性を重視した服も置かれている。

「これは?」

「ジャージでございます」

「……ジャージ?」

「ジャージー島で発掘された文献を元に再現した、古代民族衣装でございます」

「民族衣装!?」

「これは動きやすいので、訓練の時に着ています!!」

 エリオットが胸を張る。

(現代と繋がってるとはいえ、文献残りすぎじゃないか……?)

 さらに奥には、やけに見覚えのある上下セットがあった。

「じゃあ、これは?」

「スウェットでございます」

「スウェット……?」

「異国より来航した“黒い船”の内部から発見された文献を元に作られました」

「歴史が近代すぎる!」

「私の部屋着はスウェットですわ」

 セレフィナが誇らしげに言う。

 妙に似合いそうだから困る。

「……俺の今の服って何扱いなんだ?」

「ガクランでございます。我が国古代の軍服が原型とされ――」

 そこから店主の講釈が止まらなくなった。

 素材の変遷、襟の意匠、金属ボタンの由来まで語り始める。

「さすがはご主人ですわ……私は存じませんでした。我が国の服だったとは……」

 しゅん、と肩を落とすセレフィナ。

「いや、そこ落ち込むとこじゃないからな?」

 結局。

 俺の衣装は“制服ベース”で仕立てられることになった。

 この世界の英雄が、学ラン風礼装で王子の結婚式に出席する――らしい。

(……絵面、大丈夫か?)

 祝祭の熱気の中、採寸が始まった。


 採寸が終わると、次は装飾決めだった。

 金糸の縁取り、胸元の紋章、袖口の刺繍。

 セレフィナは驚くほど真剣な表情で布地を見つめている。

 その横顔を眺めながら、悠斗はふと既視感を覚えた。

(……結月に、似てるからか?)

 強気で、でもどこか寂しがりで。

 初対面のはずなのに、妙に打ち解けられた理由が、今さら腑に落ちる。

(いやいや、まずいまずい。変なフラグ立てたら俺もヤバいだろ)

 思考を振り払う。

「姫さま、きっと嬉しいのだと思いますよ」

「え?」

「最近は特にご機嫌だよね〜」

 ルクルがくるくる回る。

「レオネル様がご結婚されますし、ユート様はこうして側に来てくださいますし」

「セレフィナは立場上、友達少ないからね〜。ユートが友達になってから楽しいんだよ〜」

「……友達、か」

 胸の奥が、少しだけ温かくなる。

「俺で良ければ、何回だって会いに来るよ」

 一瞬、沈黙。

「……本当ですか?」

 振り向いたセレフィナの瞳が、ぱっと輝く。

「凄く嬉しいですわ!!」

「どわっ!?」

 勢いよく抱きつかれた。

「おい、王女様が人目のある場所で抱きつくなって!」

「うふふ」

 まったく悪びれず、上機嫌に笑う。

 店主とエリオットが微笑ましそうに見守り、ルクルは楽しげに宙返りする。

 こうして仕立て屋を後にし、一行は馬車へと乗り込んだ。

 祝祭の街並みが、夕日に染まり始めている。

 その光景を見ながら、悠斗は思った。

(……この時間が、ずっと続けばいいのに)

 そんな願いが、ふと胸をよぎった。


 活気に満ちた城下町を後にし、馬車は城へと続く一本道を進む。

 その途中――

 ふと、空に黒い影がよぎった。

(……鳥? にしては、でかくないか?)

 一瞬だけ陽光を遮るほどの大きさ。

 だが、次の瞬間には遠くへ飛び去り、青空に溶けていった。

「どうかしましたか、ユート?」

「いや、なんでもない」

 気のせいかもしれない。

 そう思い、視線を戻す。

 やがて城門が見えてきた。

「姫さま、到着しました」

 エリオットが先に降り、恭しく手を差し出す。

「ありがとう、エリオット」

 セレフィナが優雅に降り立つ。

「馬車にもすっかり慣れちゃったな」

「ユート、最初の頃は具合悪そうだったよね〜」

「結構召喚されたからなぁ……」

 苦笑しつつ城内へ。

 すると、大臣エルジーが出迎えていた。

「姫さま、よくご無事で」

「ジィ、ただいま戻りました」

 その奥から、重厚な足音。

「セレフィナよ、よく戻った」

「お父様、ただいま戻りました」

 国王レオニスが、厳かな視線を向ける。

「うむ」

「こちらがレオネル様のお召し物にございます」

 エリオットが、仕立て屋から受け取った衣装を献上する。

「おぉ。では早速仕上げをさせよう」

 豪奢な衣装は、城内の仕立て部屋へと運ばれていった。

 廊下には花飾りが増え、使用人たちが慌ただしく行き交う。

 城全体が、祝福の空気に包まれていた。

 誰もが、王子の無事の帰還を信じている。

 ――あの空を横切った黒い影の正体も。

 ――結婚式の日に訪れる“異変”も。

 この時の悠斗は、まだ知る由もなかった。

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