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第二部 第二十五章 自分の未来?

 スマホの充電ついでに、ナノマシンの充電もしておくか――そんな軽い動機で、悠斗はレナの元へと跳んだ。

 慣れてきた自分が、少し嫌になる。

「……なんか、色々緩いなぁ」

 転移した瞬間、目の前の光景に一瞬だけ固まる。

 レナが、腹を出して寝ていた。

 服装も最低限。最初に見た時ほどの衝撃はない。肌色への耐性が、確実に上がっている自分が怖い。

「色気が、ないからか……?」

 ぼそりと呟き、そっと布団を掛けてやる。

 そして自然な動作で、鼻にコードを差し込む。

 ――カチッ。

「慣れって、怖いな……」

 壁に寄りかかり、充電を開始する。

「レナ、レナ、起きろ」

 ビーが小さく揺する。

「悠斗様、お茶です」

「ありがとう」

 鼻にコードが刺さったままでも、普通にお茶を飲めるようになっていた。

 その時、ピンッと澄んだ音が鳴る。

「サイト様がいらっしゃいました」

「エリ、入ってもらって」

「かしこまりました、悠斗様」

 サイトが入室し、真っ直ぐ悠斗を見る。

「身体の調子はどうだ?」

「問題ないよ。むしろ充電が早く終わる。思ったより減ってないかも」

「そうか……」

 サイトは眼鏡を取り出し、悠斗を覗き込む。レンズに無数の数値が走る。

「浸透率が上がっているな」

「浸透率?」

「お前の細胞とナノマシンの融合度だ。最初は治療目的だったから、ほぼ浸透していなかった」

「つまり……」

「お前の身体にとって、ナノマシンは“異物”だったということだ」

「……異物」

「だが、時代を飛ぶたびに、その数値は微増していた」

「それって、いいことなのか?」

「上がること自体は問題ない。もう取り出せないからな」

 悠斗は黙る。

 サイトは一度視線を落とし、静かに続けた。

「だがな……急に上がった時がある」


「レナ、レナ、起きろ」

 ビーの声を背に、悠斗はサイトへ向き直る。

「急に上がったって……?」

「そうだ」

 サイトは淡々と告げた。

「最初に“カナエ”という娘のいる時代へ飛んだ時だ」

「カナエの……?」

 胸が、わずかにざわつく。

「お前は体力の限界まで走っていた」

 ――思い出す。

 初めて召喚された日。

 村の引っ越しを手伝い、カナエとポコと三人で、新しい村まで必死に走った。

「あ、あの時か? カナエとポコと俺で……」

「そうだ」

 サイトは眼鏡越しに悠斗を見つめる。

「その瞬間、お前の体内数値が異常変化した。こちらの観測ログが乱れた」

「異常……?」

「情報を書き換えざるを得なかった」

「は?」

「そうしないと、お前を見失う可能性があった。座標や時間軸が変われば、追跡不能になる」

「マジかよ……」

 背筋が冷える。

「じゃあ、その時に浸透率が一気に?」

「そうだ。全項目を再確認したが、異常が出たのは浸透率だけだった」

「……そうか」

 一応は無事。だが安心は出来ない。

 サイトは、わずかに視線を逸らした。

「その時、俺の使っているAIがな……」

「え?」

「“別のポータルと接触した可能性がある”と言っていた」

 空気が、ぴたりと止まる。

「……別の、ポータル?」

「そうだ。だから当時は焦った。お前が、そのポータルの座標や時間軸に上書きされたのではないかと」

「ちょっと待て」

 悠斗は額を押さえる。

「今、さらっととんでもないこと言ったよな?」

 だが――驚きは、どこか鈍い。

 次から次へと非常識を浴び続けたせいか、心の揺れが小さい。

「……俺、だいぶ毒されてないか?」

 ぽつりと呟く。

「慣れって……怖いな」

 それが一番の異常かもしれないと、悠斗は本気で思い始めていた。


「お茶のおかわりをお持ちしました」

 エリスティアが静かにカップを差し出す。

「ありがとう」

 その背後で、ビーがまだ粘っていた。

「レナ、レナ、起きろ」

「……」

 エリスティアは無言のまま、レナの部屋へと入っていく。

 ――ドゴンッ。バタンッ。

 何かが倒れる音の後、

「ご、ごめんなしゃい……」

 レナの小さな声が聞こえた。

 数分後。

「いらっしゃい、二人とも」

 現れたレナは、いつにも増してヨレヨレだった。白衣は皺だらけ、髪は跳ね、どこか煤けている。

(可愛いはずなんだけどな……)

 悠斗は思う。

(もう、トキメキもしないな)

「サイト、さっきの話だけど」

「浸透率の話か?」

「あぁ。充電時間が短くなってるのと関係あるのか?」

「それはな――」

「あるわよ」

 レナが人差し指を立て、得意げにポーズを決める。

「ナノマシンが、悠斗の細胞から直接エネルギーを補給できるようになってきてる証拠ね」

「俺の細胞から?」

 思わず自分の腕を見る。

「問題ないのか?」

「ないわ。むしろ“普通の身体”に近づいたって感じ。ポータル機能を持ったままで、ね」

「レナがそう言うなら、そうなんだろう」

 サイトは肩をすくめる。

「その手の話は俺は専門外だ」

「つまり?」

「充電しなくても、普通にご飯を食べて寝て、体力を回復させればナノマシンも回復するってこと」

「……マジか」

 悠斗は安堵の息を吐く。

「良かった」

「ただし」

 レナは指をぴしりと向けた。

「連続で時代を飛べばナノマシンのエネルギーを使うから、その消耗分回復に時間がかかるわよ」

「……分かった。無茶はしない」

 そう答えながら、悠斗はふと思う。

 自分の身体は、もう完全に“ただの人間”ではない。

 それでも――。

(まあ、飯食って寝ればいいなら、悪くないか)

 少しだけ、肩の力が抜けた。


「別のポータルに、心当たりはないか?」

 サイトの問いに、悠斗は机を指さした。

「ポータルって、これだろ?」

 そこに置かれているのは、レナの姉――ミラの物。だがサイトは、それをローヴァンの物だと思い込んだままだ。

「型式はどの時代も似通っている。この形で間違いないな」

「見たことは……ない、と思う」

 悠斗は腕を組む。

「でも、この杭みたいな棒状の物なら、あちこちで見かけるぞ」

「そうか」

 サイトは小さく頷く。

「観測上も、ポータル特有の反応は検出されなかった。AIの誤認かもしれんな」

 そう言いながらも、その声色はわずかに重い。

「もしポータルがあったとしたら……」

 悠斗は言葉を選ぶ。

「その時間軸に、誰かが行き来してるってことだよな? 俺以外に」

「そうなる。でなければ、ポータルを使う意味がない」

「誰かが……歴史を改竄してるとか?」

 カナエの時代。

 あの村に何かが起きていたら。

 想像しただけで、背筋が冷える。

「ポータル反応はない」

 サイトはきっぱりと言った。

「少なくとも、“カナエという娘の村”の周辺ではな」

 その言葉に、悠斗ははっと顔を上げる。

「……本当だな?」

「サイトおじさんが言うなら、その通りよ」

 レナがさらりと言った。

「元時空警官の得意分野だもの」

 その一言で、胸の奥の緊張がゆるむ。

「……そっか」

 悠斗は、ようやく息を吐いた。

 だがサイトは、視線をわずかに落とす。

 ――“別のポータル”。

 AIが告げたその言葉だけが、妙に耳に残っていた。

 しかしそれ以上は、口にしない。

 今はまだ、確証がないのだから。


「……なんかさ」

 悠斗は天井を見上げた。

「この生活、慣れてきたんだけど。慣れていいものなのか?」

「何がだ?」

 サイトが眉をひそめる。

「タイムパトロールに捕まらないとはいえ、時代を飛んでるのは事実だろ?」

「でも」

 レナがにやりと笑う。

「悠斗の意思で来てるのは、ここだけなんでしょ? 私に、あ・い・に♡」

 ――全然、ときめかない。

「冗談はさておき」

「冗談!?」

「確かに基本的に召喚されてる側だしな。俺の意思に関係なく」

「お前のナノマシンが進化して、エネルギー切れがなくなったのは確かだ」

 サイトが淡々と補足する。

「つまり、ナノマシンの意思が関係しているかもな」

「それなんだけどさ」

 悠斗は腕を組む。

「なんで目的を果たすと、現代に戻すんだ?」

「……そうなの?」

 レナが首を傾げる。

「事実だな。観測上も、一定条件で帰還している」

「ナノマシンが“必要”と判断してる?」

「新発見じゃない!」

 レナの目が、きらりと光る。

「ナノマシンの“意思”……! 悠斗、最高の研究対象だわ」

「その目つき、こえぇよ」

「生命の蘇生に、ナノマシンの意思よ? 革命級よ!」

 ぐいっと距離を詰められ、悠斗は後ずさる。

「……あ、そろそろ帰る時間だ」

「待って!!」

 レナが慌てて叫ぶ。

「まだ光ってないよね!?」

「いや、もう光る」

「光ってない!!」

 悠斗は両拳を握りしめ、天に叫んだ。

「光れよ!!ナノマシーン!!」

 ――沈黙。

 部屋の空気だけが、やけに静かだった。

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