第二部 第二十四章 チームの未来?
快晴の午後。
陸のサッカー練習試合を、悠斗、結月、未来の三人はスタンドから見守っていた。
悠斗の通う高校は全国常連の強豪校。今日の相手も名の知れた実力校で、観客席には偵察らしき大人の姿もちらほら見える。
「りっくん、いけー!!」
身を乗り出して叫ぶ結月に、
「あら、りっくん早いわね〜」
未来がのんびりと微笑む。
「そこでシュートだ、陸!!」
悠斗も思わず拳を握った。
高速のパス回し。削り合う中盤。
全国大会でもなかなか見られないレベルの攻防に、三人の応援にも自然と熱がこもる。
「あぁ〜!」
「あらあら」
「守れ〜!!ディフェンス、耐えろー!!」
歓声と悲鳴が交錯し――試合はそのままタイムアップ。結果は引き分けだったが、両校の健闘を称える拍手が大きく響いた。
「いや〜興奮したね」
「惜しかったな。でも最高のゲームだった」
未来はいつの間にか保冷バッグを手にしている。試合後、クールダウン中の選手たちへと歩み寄った。
「お疲れ様ね。これ、差し入れよ。みんなで食べてね」
その一言で、サッカー部から歓声が上がる。
「お母さん、サッカー部に人気あるよね?」
「結月より未来さん派が多いのは確かだな」
「何よ、それ!!」
「俺は結月派だ」
「っ……もう、ゆーくんったら」
頬を赤らめる結月に、悠斗は自然体で笑う。
彼女に対してだけは、正直でいると決めているからだ。
「さぁ、帰りましょうか?」
未来の用事も済み、三人は家路につく。なぜか上機嫌な結月を横目に、未来は小さく首をかしげていた。
――そして。
自室に戻った瞬間だった。
ふわり、と。
悠斗の身体が、淡く白く光り始める。
「……また、か」
覚えのある感覚。
足元から浮き上がるような、世界が裏返る前触れ。
次の瞬間、視界が真っ白に染まった。
視界が弾けるように開けた瞬間――そこは見慣れた学校のグラウンドだった。
だが、空気が違う。
土煙が舞い、歓声と怒号が入り混じっている。
「な、何か騒がしいな……」
「悠斗!!」
振り向けば、ツインテールを揺らしたユイが駆け寄ってくる。
「ユイ、元気にしていたか?」
「あったりめーだ」
胸を張るその姿に、思わず苦笑が漏れる。
「随分騒がしいけど、何をしているんだ?」
「模擬戦だよ、模擬戦」
グラウンド中央を境に、白い帽子と赤い帽子の集団が対峙している。
両軍とも臨戦態勢。能力者たちがじりじりと間合いを測っていた。
「運動会か?」
「運動会? あー、昔の学校行事か?」
「そうだな。よく知ってるな。エライエライ」
からかうように頭を撫でると、ユイは素直に受け入れる。
「おう。勉強は好きだ」
「……へぇ?」
意外な返答に悠斗が目を瞬かせると、
「ユイは勉強より遊びのネタ探しが好きなだけなんだよね〜」
横からニャルが茶々を入れた。
「おい、ニャル。飛ばすぞ!!」
「まぁ、勉強も遊びから入るのは悪くないな」
「だろー!!悠斗は分かってるなー」
機嫌を直したユイが腕に絡みつき、ニャルを足で軽く追い払う。
「悠斗、あそこ見ろよ」
「え?」
指差す先。
赤帽子の先陣を切るゴウが、雄叫びと共に突撃していた。
「うぉぉぉおぉぉー!!」
念力で放たれたイシツブテが宙を裂く。
だが――白帽子側のゴリが一歩前へ出て、全てを豪快に弾き飛ばした。
次の瞬間、巨体に捕まったゴウはあっさり帽子を奪われる。
「退場!!」
審判役の声が響いた。
「あははははは〜っ!!よえぇ!」
腹を抱えて笑うユイ。
「ゴウの活躍に間に合って良かったよ」
悠斗は肩をすくめる。
早すぎる退場に対する、精一杯の皮肉だった。
土の上で項垂れるゴウを見つめながら、悠斗は思う。
(……模擬戦、か)
遊びの延長に見えて、その動きは明らかに実戦仕様。
エリアAは、確実に強くなっている。
歓声の波を背に、悠斗はユイへ視線を戻す。
「エリアの拡大は順調なのか?」
「それがよ、今はちょっと行き詰まっていてよ」
珍しく歯切れが悪い。
「メンバーが増え過ぎニャ。それにエリアも広がり過ぎて、目が届いてないニャ」
ニャルが淡々と補足する。
「私は難しい事を考えるのは苦手なんだよ」
腕を組み、ぷいと顔を逸らすユイ。
「じゃあ、今回のテレポートは?」
「コーメーの本を読もうと思ってよ。そしたら悠斗が来たんだよ」
「マジ?」
(コーメー……諸葛孔明? 比べられても何も思い浮かばないぞ……)
「今は元々のエリアAのメンバーを鍛えてるって事だ」
「なるほどな」
再び模擬戦に目を向ける。二回戦目開始――そして。
「うぉぉぉおぉぉー!!」
一分も経たず、ゴウがまたしても最初の退場者となった。
「あははっ!やっぱりアイツ面白いな〜」
「ゴウは先陣向いてないだろ。どう考えても遠距離向けの能力だ」
「みんなが言っても突っ走るからな。だからゴウは私の横に置くんだ」
「ユイはゴウが大好きニャ」
「おい!!」
真っ赤になるユイを横目に、悠斗は空を見上げた。
「統一したら、その次はどうなるんだろうな?」
「そんな先のことなんか、知らねーよ」
「ユイは今いるメンバーを守りたいだけニャ」
「それ以外、何があるんだよ」
「ユイらしいな」
悠斗は知っている。
エリアAがやがて勢力を広げ、この地を束ね、やがて“国”と呼ばれる存在へ至る未来を。
それはユイの時代かもしれないし、もっと先かもしれない。
視線を向けると、ニャルが静かに頷いた。
「守れるよ、きっと」
小さく、しかし確信を込めて。
模擬戦が一段落し、土煙の向こうからゴウが戻ってくる。
戦闘時間は最短。だが傷の量は最多。制服は裂け、頬には擦り傷が走っていた。
「ユイさん。すんませんしたっ!!」
深々と頭を下げるその姿勢だけは、誰よりも真っ直ぐだ。
「お前は私の横にいればいいんだ。私が守ってやる」
「はぃ……」
しゅんと肩を落とすゴウ。
「ゴウはユイだけを守ればいいんだニャ」
「ニャル!!」
顔を赤くするユイに、悠斗は小さく笑う。
「ゴウ、何で突っ走るんだ?」
「仲間が傷つくのを後ろで見てる訳にはいかねーだろ」
「考え方がそっくりニャ」
「全くだ」
「チッ……」
ユイが舌打ちするが、否定はしない。
悠斗は少し考え、口を開いた。
「吸収した各エリアの権力者をここ、エリアAに集めて管理するのさ。逆にエリアAのメンバーを地方に送ってルールで管理すれば、まとまるんじゃないか?」
「え?」
「俺が、まとめる?」
「お前じゃねーよ」
即答だった。
「ユイと各エリアの権力者がこの中心で統制する。もし逆らったら……」
「ごくりっ」
「ユイが全員飛ばす、の刑だな」
「上手くいくかもニャ」
ニャルが尻尾を揺らす。
「私は統制とか出来ないぞ」
「やれてるよ。ほら」
悠斗が視線で示す。
いつの間にか、模擬戦を終えたメンバーたちが集まっていた。
誰もが自然とユイの周囲に立ち、その言葉を待っている。
強さだけじゃない。
この場の中心に立っているのは、間違いなくユイだった。
「……」
ユイは少しだけ目を見開き、そして鼻で笑う。
「ったく。仕方ねーな」
その一言に、周囲の空気が引き締まった。
即席の作戦会議は、グラウンドの片隅で続いていた。
各エリアの指導者を中心へ集めること。
エリアAの中核メンバーを各地へ派遣すること。
最終的な統制は、この拠点で行うこと。
その要となるのは――
ユイのテレポート。
そしてニャルのテレパシー。
他エリアには存在しない、圧倒的な“移動”と“伝達”の力。
抑止力としても、連絡網としても、これ以上ない武器だった。
「ユイ、まとまりそうか?」
「あぁ、やってみるさ。悠斗の作戦だからな。成功させるぜ」
迷いのない声。
「無理はするなよ。一人で何でもしようとするなよ」
そう言って、悠斗はそっと頭を撫でる。
「んふふふ〜、分かった」
(……本当に分かってるのかな?)
少し不安がよぎる。
「大丈夫だニャ」
ニャルが静かに言う。
その一言で、胸の奥の重さが少し軽くなった。
確かに――ニャルがいれば、暴走はしない。
ユイの隣には、ちゃんとブレーキ役がいる。
「ユイさんは、俺が守るっ!!」
ゴウがシュシュッと拳を突き出す。
無駄にキレのあるシャドーボクシング。
「そうだな。頼むぜ、ゴウ」
「お、おう……はい?」
思わぬ信頼の言葉に、ゴウは目を丸くする。
いつも“弱い”と笑われる彼にとって、その一言は何よりの勲章だった。
「あははは」
笑い声が、穏やかに広がる。
――大丈夫だ。
この空気なら、きっと。
そう確信した瞬間。
ふわり、と。
悠斗の身体が淡く光り始めた。
「ユイ、帰る時間だ」
「……また来いよ」
少しだけ寂しそうに、それでも笑って。
光が強く弾け――
次の瞬間、悠斗の姿は静かに消えていた。




