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第二部 第二十三章 想いの未来?

「もうっ!! 鈍っちゃうよ〜!」

 連日の雨。

 外での練習ができず、悠宇がリビングで不満を爆発させている。

 その横を、悠斗はそっと通り過ぎた。

(こればっかりは、手伝いようがないからな……)

 自室に戻り、ゲーム機の電源を入れる。

 だが。

「……このゲーム、何回クリアしたっけ」

 数分もしないうちに、コントローラーを置いた。

 雨、雨、また雨。

 外に出られず、時間だけが積み重なる。

「……さすがに、飽きてきたな」

 その時だった。

 ふわり、と身体が淡く光り出す。

「……なんか、暗い日はノアに呼ばれる気がする」

 視界が白に塗り潰され――

 次の瞬間。

「……やっぱり、暗い」

「あら、久しぶり」

 首根っこを掴まれた状態で、影の中から引き出される。

「あの……」

「分かっているわよ」

 すぐに手を離された。

 周囲を見回して、悠斗は気づく。

「……あれ? ここ、ノアの部屋か?」

「そうよ。影の中を少し整理しようと思って」

「あー……」

 なるほど。今日は瓦礫の山ではなく、“倉庫整理”らしい。

 一度店の方へ顔を出し、カイルとリィナに軽く挨拶を済ませる。

 そして改めて、ノアの部屋へ。

 床には、影から取り出された無数のパーツ。

「……これは、ノアの方のタイプだな」

「うん」

「……」

「悠斗。これ」

「あぁ」

 短い言葉だけが、静かに交わされる。

 金属の触れ合う小さな音。

 窓の外を打つ、かすかな風。

 二人は、黙々とパーツを仕分けていった。言葉は少ない。だが、不思議と居心地は悪くなかった。


「ノア。はい」

「……」

「?」

「……」

「ノア?」

「え?」

 一つのパーツを見つめたまま、ノアはようやく顔を上げた。

「ごめんなさい」

「いいけど。そのパーツ、どうかしたのか?」

 ノアの手の中にあるそれは、瓦礫の山から出てきたとは思えないほど丁寧に磨かれている。

「これね、私が初めて見つけたパーツなの」

「へえ」

「それまでは、父さんが探したパーツを影に入れるだけだったの、私は」

「今じゃ立派なトレジャーハンターだろ」

「そうだと嬉しいけれど」

 ふわりと微笑むノア。その横顔から、悠斗は目を逸らせなかった。

「小さい頃から、父さんの仕事をずっと見ていたの。朝から探しに行って、夕方には修理して……」

「うん」

「父さんの仕事、全部やってみたいって思ってたの。だから、初めて見つけたこれは、私が直したくて。ずっと影に入れてあるの」

「……そっか」

 その時、部屋の扉の方からガタッと小さく鳴った。

 だがノアは、気づいていない。


 「たまにね、こうして整理して、このパーツを見るの。初心を思い出すために」

「偉いな、ノアは」

「そんなことないわ。生きるためだもの。父さんのしてきたことは、間違ってない」

「……」

「それを、悠斗が証明してくれたじゃない」

「未来への希望、か」

「そう」

 ノアはパーツをそっと箱に戻すと、悠斗の手を取った。

「あなたのおかげで、私たちは希望を持って前に進めるの」

 まっすぐな視線。逸らさずに、悠斗は受け止める。

「……俺も、もっと頑張らないとな」

 雨にかこつけてゲームばかりしていた自分を、少しだけ恥じた。

「悠斗はいつも頑張ってるわ」

「ありがとう」

 二人は再び、黙々と仕分けを再開する。

 しばらくして――コン、コン。

「はい?」

「入るわよ。少し休憩にしない? お茶、淹れてあるわ」

「ありがとう、母さん」

「ありがとうございます」

 居間へ向かう途中、作業台の前でカイルが手を止め、俯いているのが見えた。

「父さん? どうしたの?」

「ふふ。さっきからあの調子よ。よっぽど嬉しかったみたい」

「え?」

(……さっきの物音、カイルさんだったのか)


「作業はどう? 順調?」

「ええ。悠斗がいてくれるから、予定より早く終わりそうよ」

「あら、それなら――悠斗くんも夕飯一緒にどう? せっかくだもの」

「い、いや……帰る時間、自分で決められなくて。でも……」

 ちら、とノアを見る。

「ん?」

「目的の完了を、ちょっとだけ遅らせれば……」

「あら。そんな簡単な理由で悠斗を引き止められるなら、ね? 母さん」

「そうね。じゃあ今日は豪華にしましょうか。バルくんとクロちゃんも呼びましょう」

「分かったわ。呼びに行ってくる。悠斗も、ね?」

「ああ。一緒に行こう」

 二人は作業を中断し、家を出た。

 少し歩くと、遠くに瓦礫の山が見えてくる。

「昔はね、あれが家の近くまであったの」

「え?」

 振り返ると、整えられた街並みが広がっている。

「街も最初は瓦礫の中だったんだって」

「じゃあ、この辺も……?」

「そう」

「どれだけ片付けたんだよ……」

「私たちだけじゃないわ。何年も、何十年も……もっと昔から続いているの」

 ノアが足を止めた。

「ノア?」

「この辺りだったと思うの。最初のパーツを拾ったの」

 瓦礫の山までは、まだ距離がある。

「ここから、あそこまで……?」

「全部私一人で片付けた訳じゃない。でも、私が生きてきた時代の跡、かな」

「……」

 ノアは静かに、目の前の景色を見つめていた。

 長い歴史の中の、ほんの一頁。

 その頁を、今、悠斗と並んで眺めている。


「バルの家はね、まだ瓦礫の山に囲まれているの」

「そうなんだ」

「あの子、片付けるのが苦手だから」

「……だろうな」

「両親とも研究者で、ほとんど家に帰らないの。今は祖父母と暮らしてるわ」

「そっか」

「少し乱暴に見えるけど、本当はとてもいい子よ」

「分かってる」

 瓦礫の山が近づくと、小さな影が二つ、せわしなく動いているのが見えた。

「あら、珍しい」

「ちょうどいいな」

「待てコラ!! クロ!!」

「本当のこと言っただけだろ?」

「クソ〜〜!」

「何してるの、二人とも」

「ノアねーちゃん!!」

「ノア。……お、悠斗か」

「相変わらずだな。少しは仲良くしろよ」

「あら? 仲良しに見えるけど?」

「そんなことない!!」

「そんなことない!!」

 声が重なる。

「で、何で揉めてた?」

「俺はノアねーちゃんの役に立ちたいんだ! 力の調整も頑張ってる! なのにコイツが――」

「瓦礫撒き散らしてるだけだろ。俺の方が頭使える」

「クロは瓦礫を動かせないだろ!!」

「なんだと!!バルのくせに」

「はいはい、そこまで」

「二人とも、意地張らないの」

「俺はノアねーちゃんの役に立ちたいんだ!」

「俺はノアの役に立ちたいんだ!」

 また同時だった。

 ノアは小さく笑う。

「……二人がいてくれるから、ここまで来られたの。ありがとう、バル。クロ」

「え?」

「……は?」

 言葉を失い顔を見合わせる二人。

 瓦礫の山の前で、彼らの小さな歴史が、確かに未来へと続いていた。


「今日はね、悠斗も一緒に夕飯を食べるの。二人もどう?」

「行く!!」

「行く」

 声が重なる。

「……やっぱ仲良しだろ」

「違う!!」

「違うな」

 ぴたりと同時。

 四人で来た道を引き返す。

 その途中、悠斗はふと足を止めた。

「……あんな山、あったんだな」

 遠くに、うっすらと巨大な山影が見える。

「今日は空気が澄んでるから、遠くまで見えるのよ」

(天気がいい……?暗いけどな)

「オヤジが言ってたぞ。四〇〇〇メートル級だって」

「富士山より高いかもな」

「フジサン?」

「俺の国で一番高い山の名前」

「山に名前を付けるの?」

「昔はな」

「私たち、山も街も、まだ名前なんてないわ。生きるのに必死で」

「……じゃあさ」

 悠斗は遠くの街並みを見る。

「“ホープ”ってのはどうだ?」

「希望、ね」

「悪くないだろ?」

「ええ。悪くないわ」

 ノアは遠い山へ視線を向ける。

「じゃあ、あの山は……ノヴァリス山。開拓者の山」

「いいな」

 まだ誰も知らない名前。

 けれどその響きは、確かに未来へ続いている気がした。


 四人がノアの家に着くと、リィナが玄関で微笑んだ。

「ただいま、母さん」

「おかえりなさい。みんなも、いらっしゃい」

「お邪魔しまーす!」

「……魔法石、置いてないよな?」

 周囲を警戒しながら入るクロに、ノアが呆れた視線を向ける。

 居間には色とりどりの料理が並び、温かな香りが満ちていた。

「すごいですね……」

「昨日ね、外の街から物資が届いたの。ちょっと張り切っちゃった」

「父さんのパーツは外でも評判なの。それで私たちは生活できてるのよ」

「外の、世界……」

 この街だけが全てじゃない。細いけれど確かな繋がりがある。

「今日は賑やかだな」

「父さん」

 カイルのノアを見る眼差しは、どこまでも優しかった。

「さぁ、召し上がれ」

 その夜は笑い声が絶えなかった。幼い頃の失敗談、出会いの話、未来の夢。時間を忘れるほど語り合い、やがて夜も更ける。

 そして――ノアの部屋。

「これで最後ね」

「ああ」

 整理したパーツを影に収めた瞬間、悠斗の身体が淡く光り出す。

「ノア、またな」

「うん。またね」

 その言葉は、未来への約束になった。


 ――現代。

 床に散乱するゲーム機とソフトを前に、悠斗は立ち尽くす。

「……片付けるか」

 だが、片付けるための場所がない。箱を開ければ懐かしい品が出てきて、つい手が止まる。

「おい!!余計に散らかってるじゃないか!?」

 気づけば足の踏み場もない。

「ノアの影が欲しい〜!!」

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