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プロローグ

 ――光の中に、誰かがいた。

 白く、眩しく、輪郭だけの世界。

 そこに立つ人影が、静かにこちらを見下ろしている。

 声は聞こえない。

 けれど次の瞬間、胸の奥に鋭い感覚が走った。

 何かが、体の中に入ってくる。

 冷たく、機械的な――

 それでいて、体の中に溶け込むような違和感。

「……っ」

 抵抗する暇もなく、

 その感覚は体の奥へ沈んでいった。

 光が強まる。

 気づけば、その人影はもう遠く、

 まるで役目を終えたかのように、光の中へ溶けていった。

 名前も、顔も、分からない。

 ただ「誰かがいた」という事実だけが、焼き付くように残った。

 佐藤悠斗は、息を吸い込むように目を覚ました。

 見慣れた天井。

 カーテン越しの朝の光。

 心臓が少し早い。

「……また、あの夢か」

 七歳の時。

 正確には――七歳の時に、記憶が途切れた日。

 それ以前のことは、霧がかかったように思い出せない。

 ただ、この夢だけは、何度も繰り返し見る。

 あれが夢なのか。

 本当に起きたことなのか。

 子どもの頃、何度も大人に話した。

 光の中で、誰かに何かをされたこと。

 体の中に、変なものがある気がすること。

 返ってきたのは、困ったような笑顔と、

「想像力が豊かだね」という言葉だった。

 いつしか、その話をすると

 場の空気が変わるようになった。

 妄想。

 作り話。

 話を盛る子。

 そういう立場になるのに、時間はかからなかった。

 それ以来、悠斗は多くを語らなくなった。

 説明することを、やめた。

 現在、高校2年生(17歳)、両親と妹の4人家族。しかし、父は海外出張が多く家を留守にすることが多く、母は看護師で夜勤が多いため、顔を合わせるタイミングはあまりない。妹は中学生で部活が忙しいらしくあまり家にいない。

 枕元で、スマホが震える。

 画面に表示された名前を見て、少しだけ表情が緩んだ。

 七瀬結月ゆづき。幼なじみで同い年の女の子。

 メッセージは短い。

『ちょっと来て』

 理由は書いていない。

 昔から、こうだ。

「……相変わらずだな」

 呟きながら、体を起こす。

 夢の中の光は、もう消えている。

 胸の違和感も、いつものように静まっていた。

 着替えを済ませ、部屋を出る準備をする。

 特別なことは、何もない。

 ――今日も、いつも通りの一日。

 そう思いながら、

 悠斗は何も疑わず、家を出た。

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