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地獄の沙汰も金次第  作者:
第九話 崩壊へのカウントダウン

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25/30

第九話 崩壊へのカウントダウン①

 どれほどの金を注ぎ込めば、この乾きは癒えるのだろうか。

 リビングに足を踏み入れるたび、"私"は吐き気に似た不快感に襲われる。大理石の床の上には、一度も袖を通していないエルメスのコートや、箱から出されもしないルブタンの靴が、無造作に積み上げられている。数千万という金を払って手に入れた「世界の一流」たちが、今はただの廃棄物の山にしか見えない。

 この部屋にあるのは、高価なゴミと、それに取り囲まれて窒息しかけている"俺"だけだ。

 窓の外を見れば、宝石を散りばめたような夜景が広がっているが、私にはそれが自分を食い破ろうとする亡者たちの眼光に見えた。


 カーテンを閉め切る。光を拒絶し、暗闇の中で高い酒を煽る。しかし、どんなにアルコールを流し込んでも、脳は冴え渡ったまま眠りを拒絶し続けた。


 まぶたを閉じると、決まって幻覚が這い寄ってくる。

 泥水を啜りながら金を求めて叫んでいた男。髪を刈り上げながら無機質に笑っていた女。そして、あの公園で醜悪な本性を剥き出しにした松崎。

 彼らの顔が、壁紙の模様や天井の影に浮かび上がり、"僕"に囁きかける。


「お前もこっち側だ」「金に魂を売った化け物め」「孤独に死ね」


「うるさい……黙れ!」

 "俺"は手に持っていたバカラのグラスを壁に投げつけた。鋭い破砕音とともに、ヴィンテージのブランデーが壁に飛び散り、血のようなシミを作る。

 だが、音を立てれば立てるほど、部屋の静寂はより深くなり、"私"の鼓動だけが耳障りなほど大きく鳴り響く。


 不眠は"私"の感覚を狂わせていった。

 鏡を見れば、そこに映るのは三十代の男ではなく、生気を失い、肌が土気色に変色した老いた幽霊だった。指先は常に微かに震え、高級なシルクのシーツに触れることさえ、何かの這いずる感触のように思えて忌々しい。


 かつては、残高が増えるたびに全能感に酔いしれていた。

 だが今は、数字が増えれば増えるほど、"僕"の輪郭が希薄になっていく。

 "俺"という人間は、もうどこにも存在しないのかもしれない。"私"はただ、十億円という「凶器」を維持するための、血の通わない中継端末に成り下がったのだ。

 贅沢な食事をしても味がしない。

 最高の女を抱いても温もりを感じない。

 何を手に入れても、"俺"はただ、飢えていた。金では決して買えない「何か」が、"僕"の内側を内側から食い荒らしている。

 

 "私"は震える手で、また新しい注文をタブレットで打ち込んだ。明日にはまた、届いた瞬間にゴミとなる宝石や服が、この部屋の死蔵品を増やすだろう。

 そうしていなければ、自分がこの「金の海」に溺れて死んでいることを認めてしまいそうで、"僕"はただ、壊れた機械のように消費を繰り返すしかなかった。

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