表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地獄の沙汰も金次第  作者:
第六話 地獄の沙汰の執行人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/30

第六話 地獄の沙汰の執行人②

 ただ金をばら撒くだけでは、すぐに飽きがきた。

 画面の向こうでひれ伏す亡者たちの言葉は、どれも似通っている。借金、病気、不運、困窮。最初はそれらを「選別」することに快感を覚えていたが、次第にそれすらも単調なルーチンワークに思えてきた。


 もっと、僕を愉しませてくれ。

 もっと、君たちの「価値」を証明してくれ。

 私は次に、新たなルールを提示した。


『100万円の価値を、言葉ではなく行動で示せ。君たちがいかに惨めで、いかに金を欲しているか。そのプライドを捨て去る姿を動画で送れ。

 最も私を愉しませた者に、即座に送金する』


 残酷な実験だという自覚はあった。

 だが、指先一つで誰かの人生を弄ぶ万能感が、私の倫理観を麻痺させていた。

 数時間後、私のDMには地獄のような映像が溢れかえった。


 ある男は、泥水を啜りながら「私は豚です、金をください」と泣き叫んでいた。

 ある女は、自分の髪をバリカンで無残に刈り上げ、虚ろな目で画面を見つめていた。

 中には、自分の親を土下座させ、それを撮影して送りつけてくる若者さえいた。


「ははっ……ひどいな、これは」


 私は冷暖房の効きすぎたタワマンの一室で、シャンパングラスを片手にそれらを「鑑賞」した。

 彼らが守りたかったはずの尊厳、育ててくれた親への愛、積み上げてきた人生の誇り。それらすべてが、たった100万円という記号のために、容易く、無残に、液状化して崩れていく。

 

 かつて美咲に裏切られた時、僕は絶望した。

 かつて上司に罵倒された時、僕は自尊心を削られた。


 だが今、私はそれらを「買う」側にいる。他人のプライドを金で買い取り、それを粉々に砕いてゴミ箱に捨てる。

 その背徳的な悦楽が、空っぽだった僕の心を黒い濁流のように満たしていく。


 私は、泥を啜った男の動画をリポストし、全世界に晒しあげた。


『素晴らしい。君の尊厳は、見事に100万円で買い取らせてもらったよ』


 その瞬間、ネット上には賞賛と嫉妬、そしてさらなる卑屈な懇願が渦巻いた。

 動画の中の男は、晒された恥辱よりも、振り込まれた金額に狂喜乱舞している。

 

 確信した。人間とは、その程度のものだ。


 どんなに崇高な理想を語ろうと、どんなに清らかな愛を誓おうと、生存本能と強欲というスイッチを押せば、誰だって化け物になる。

 私はそれを証明し続けているだけだ。

 

 暗いリビングで、スマートフォンの青白い光が僕の顔を不気味に照らし出す。

 画面をスクロールするたび、誰かの人生が解体されていく音が聞こえる。

 私は神であり、執行人だ。

 十億という凶器を手にした僕は、今やこの世界の醜悪な本質を暴き出す、残酷な観測者へと成り果てていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ