ショートカット
美咲は鏡の前で溜息をついた。三十二歳、独身、広告代理店勤務。SNSを開けば、同級生たちの結婚報告や子どもの写真ばかり。自分だけが取り残されている気がした。
「痩せれば、何か変わるかも」
そう思い立って、彼女はインターネットで「最速ダイエット」と検索した。何ページもスクロールして、彼女が見つけたのは糖尿病治療薬の名前だった。海外セレブも使っているという。口コミには「週に3キロ減った」「努力なしで痩せる」という魅力的な言葉が並んでいた。
美咲は医師の診察も受けず、個人輸入サイトで薬を注文した。
最初の二週間は順調だった。食欲が落ち、体重計の数字は確かに減っていった。職場の同僚が「痩せたね」と声をかけてくれた。その一言が、彼女を有頂天にさせた。
しかし三週間目、異変が起きた。
激しい吐き気、めまい、動悸。美咲は会議中に倒れ、救急車で運ばれた。病院で医師は厳しい表情で言った。
「あなたは糖尿病ではありません。この薬を使う医学的理由は何もない。低血糖を起こしていますよ。もっと深刻な合併症が起きる可能性もあった」
点滴を受けながら、美咲は天井を見つめた。確かに体重は減った。けれど、本当に欲しかったものは何だったのか。
退院後、彼女は母に電話した。
「お母さん、私、何やってたんだろう」
電話の向こうで母は静かに言った。「美咲、あんたはそのままで十分よ。でも、もし変わりたいなら、ちゃんとした方法でやりなさい。近道なんてないのよ」
美咲は涙が止まらなかった。
それから半年後。美咲は栄養士の指導を受けながら、ゆっくりと健康的に体重を落としていた。数字の変化は緩やかだった。でも鏡に映る自分は、以前より生き生きとしていた。
ある日、ジムの帰り道、美咲は空を見上げた。夕焼けがきれいだった。
「変わるって、こういうことなんだな」
彼女はそう呟いて、まっすぐ家路についた。
昨今のダイエットブームの中でマンジャロなどの強力な薬に頼る風潮が強まっていることに、僕は強い危機感と嫌悪感を抱いています。
確かに、医学的に必要不可欠な治療として、救いになるケースは存在します。しかし、「楽に痩せたいから」「手っ取り早く結果を出したいから」という理由で、健康な体が本来持っているリズムを薬で無理やり変えてしまうことのリスクを、私たちはもっと重く受け止めるべきではないでしょうか。
薬はあくまで一時的な補助に過ぎません。薬を辞めた後に残るのは、やはり日々の食事、適度な運動、そして自分自身の体を慈しむ心という、極めてシンプルで本質的な習慣だけです。
「数値」という結果を急ぐあまり、一生付き合っていく大切な「体」を壊してしまっては本末転倒です。安易な選択肢に飛びつく前に、まずは自分の生活を見つめ直し、一歩ずつ自分の力で歩んでいくことの大切さを、改めて皆さんと共有できれば幸いです。
皆さんジムに行きましょう‼︎




