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ラウルが抜け出して来るのをリュートは、夜空を見あげながら待っていた。
晩餐会の会場からは重厚な音楽が聞こえてくる。
ダンスが始まったのだろうか。
上位貴族を待たせてるというのに、ゆったりとした足取りでラウルがやって来た。
「呼び出してすまないね、ラウル」
「………俺に何を言いたい」
リュートの前に現れたラウルは、不機嫌そうな顔を隠そうともしない。本当は呼び出しに応じたくなかったという気持ちがありありと伝わってくる。
「君を俺の国に連れて帰りたい。ラウルはね、俺の主君にそっくりなんだ。だから、俺の国でラウルに影武者として働いて欲しいんだよ」
「……どうして俺がそんなことをしないといけないんだ」
「ラウルは男爵家で過ごしててどう?つまらないだろ?このままいって良ければ男爵令嬢と結婚、悪くて一生男爵家でこき使われる運命だ。人生、一発逆転しようよ」
「………俺は」
歳の割に堂々とした態度を見せていたラウルが、リュートの言葉に不安げに瞳を揺らしたのを見て、リュートはこの青年が可愛く思えてきた。
「影武者と聞いて、不安に思ってる?大丈夫、ラウルのことは俺が守るよ」
離れた所に立っていたラウルに近づき、リュートはラウルを腕の中にそっと抱きしめた。
ラウルは見た目よりも華奢で、繊細だった。
リュートが閉じ込めてしまったら、すっぽりと隠れてしまう。
男相手に何やってんだ、と思いながらも、突然抱きしめられたことに驚き、俺を離せと小声で怒り出したラウルが可愛い。よく見れば頰が染まっている。
女慣れしてそうなのに、初心だ。
いや、男に抱きしめられたからか。
顔つくりは第三王子と全く同じなのに、その唇はやけに紅く潤んでいた。リュートはラウルの顎に手をかけて顔を近づけた。
――――パリンッ…………!!
硝子の砕ける音が響き、何事かと思ったラウルはリュートの腕の中から抜け出した。
アディラが目を見開いて震えている。アディラの付き添いをしていたのか、見知らぬ貴婦人が側にいた。
アディラの足元には、グラスの破片が散らばっていた。
「………ラウル、貴方一体なにを………!?」
「………っこれは……!!」
遠目からでは、ラウルとリュートがキスをしていたように見えたのかも知れない。ラウルはゾッとした。
男好きなんかではないのに、リュートと深い仲なんて誤解されたら。後で男爵に何を言われるか分からない。
青白くなっていくラウルに対し、貴婦人はしたり顔で微笑んだ。
「心配なさらなくても、大丈夫ですわ。わたくし、秘密は守れますの。アディラさん、お二人の邪魔をしてはいけないわ。人目を避けて愛を語らっておられるのですから」
「……えっ、でも………!!」
「公爵夫人、私も本気なのです。配慮、感謝します」
「たいしたことありませんわ。さぁ、アディラさん行くわよ」
公爵夫人は呆然とするアディラを引っ張っていった。
「どうして、誤解を招くような発言をしたんだ……!!」
「別に俺は誤解されても構わないし」
「やっぱり男が好きなんじゃないか……!!」
端正な顔を歪ませて怒るラウルに、そこまで怒らなくてもいいのにと思い苦笑した。
女性にモテるリュートも、ラウルの好みでなかったようだ。ラウルは男性だから、当たり前のことではあるのだが。
「うーん、俺は女の子が好きだったんだけど。ラウルを見ていたら、つい、な?」
「…………お前………っ!!!」
「冗談、冗談だからそんなに怒るなよ」
リュートはラウルを落ち着かせるために、真顔になった。
「ラウルを俺の国に連れて帰るのに、ラウルが第三王子に似ているからと思われるよりも、俺がラウルのことを好いているからと思われていたほうが都合がいいんだ」
「……俺にとってはいい迷惑だ!!」
「それで、どうする?俺と一緒に国へ来るか。それとも、このままこの国で潰れていくか」




