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お茶会の翌日、ラウルはアディラの欲しがった焼き菓子を購入するために店に向かっていた。
昨日アディラに怒りをぶつけたものの、ラウルの待遇には何一つとして変わりはない。ラウルの母親は既に亡くなっており、ラウルを守ってくれるような人はいないのだ。
ラウルは今日も男装をしていた。
男性の平均身長よりも高く、首元で切りそろえた短髪のラウルは、男として見られる。
母親が亡くなった時から始まった男装は、ラウルに馴染んでいた。
「…………なんでここに!?」
ラウルは急に後から肩に手を置かれて、歩みを止めさせられた。
焦った様子の若い男だった。
男は貴族の象徴とされる金髪で青い瞳をしており、ラウルは内心げっと思った。
男はラウルをマジマジと確認すると額に手を抑えて、違ったよく見ればちょっと低いわと小さな声で呟いた。
ラウルに、見知らぬ男に付き合う義理はない。
男を無視して目的の店に向かおうとした。
「……ちょっ、待ってよ!」
「………………何か?」
慌てた男にラウルは冷たく反応する。
「君、俺と一緒に来ない……?」
「ナンパかよ。男には興味ないね」
「ちがっ……!君と一緒に国に帰りたいんだ!」
「……?結婚のプロポーズか?いらないな」
「はっ、ちがっ………!!」
貴族然とした優男が動揺していく様が面白くなってきたラウルだったが、いつまでも付き合ってあげる時間はなかった。
「冗談だ!またどこかで出会えたらいいな!」
満面の笑みを浮かべて去っていくラウルに、男の目は釘付けになってしまう。恋愛対象は女性だったが、男もいけるか……?なんて思ってしまって、首を振った。
アディラは、ラウルと初めて会ったとき3歳だったけれど、その時をよく覚えていた。
着の身着のままといった程でいきなり男爵家へ戻ってきたラウルの母親は酷く疲れた表情を浮かべていた。それでも高級そうなおくるみに包まれた赤ん坊を見つめる時は、愛おしさで溢れた瞳をしていた。
ラウルの母親は特段美人ではなかったけれど、赤ん坊はとても可愛らしくて、アディラは驚いた。
ラウルの髪はその時、銀髪だったような気がするけれど、思い違いだろうか。
美しく成長していくラウルを見て、アディラの母親がラウルに男装を命じたのだった。アディラの父が8歳になったばかりのラウルを怪しげな目で見てたとかなんとかで。
だから、アディラはラウルが女性だと分かっているけれど、ラウルの男装は板についていているし、男性のような言葉使いをするから、もう男性にしか思えなかった。
端正な男性であるラウルを、自分の物だと皆に見せびらかしたい。でも、粉をかけられるのは嫌だから、家の中に縛り付けたい。
そんな矛盾する気持を持っている、アディラに告げられた父親の言葉はアディラにとって良いことなのか悪いことなのかが分からなかった。
「アディラ、アディラとアディラの従僕であるラウルに招待状だ。公爵家である、晩餐会への」




