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男爵令嬢アディラとその従僕ラウルは、伯爵令嬢レティシアの主宰するお茶会に招待されていた。
高位貴族に招かれるのは慣れていないはずなのに、アディラは奮闘していた。そんなアディラに直立不動で控えるラウルの心情は、ただ帰りたいそれのみだった。
貴族のお嬢さんが思いついた、各々の従僕を控えさせたお茶会。こんなお茶会に何の意味があるのだろう。
ラウルが心の中で溜息をついた時、レティシアの熱の籠もった視線に気が付いた。
端正な顔立ちのラウルはかなり女性にもてる。中性的な容姿や色白なところがいいらしい。ラウルは自分の容姿が優れていることを充分理解していたから、レティシアに微笑んでみせた。
「………………………っ!」
レティシアの頰がみるみると色づいたのを見て、ラウルは高位貴族の令嬢も案外チョロいと呆れてしまう。
「あ………の、アディラ男爵令嬢の従僕の方?」
ラウルに微笑みかけられたレティシアは、見つめていたのには理由があったからとしないといけないと思って、マナーからは外れるかもしれないがラウルに声をかけた。
ラウルの大きな紫瞳がまっすぐレティシアに向けられて、その澄んだ美しさに息が詰まった。ただの従僕なのに、レティシアは圧倒されてしまう。こんなに美しい人を見たことがなかった。
「なんでしょう………?」
「貴方、ヴァーナリア王国の第三王子に似てらっしゃるわ!」
「僕が、ですか………?」
レティシアの発言は突拍子もないことで、当然ラウルも不思議そうな表情を浮かべている。初めて聞くラウルの声は、男性にしてはやや高めのハスキーな声で惹き込まれる魅力があった。
「わたくしも絵姿でしか拝見してないのだけれど、貴方の髪色が黒髪でなければ、そっくりだわ!……そうよ、今度ヴァーナリア王国の大使が来られて晩餐会があるの、貴方達もお越しになったらいいわ!」
「……………僕は勿論、アディラお嬢様もそのような場に出席できるような身分は有しておりません」
困惑そうにしたラウルは、レティシアの提案を断った。レティシアも受け入られる訳がないと思っていたのに、気が動転して変なことを口走ってしまった。
周りの令嬢達からの冷めた視線も痛い。
「そうよね…………」
「僕が、レティシア様の従僕だったら……良かったんでしょうか」
ラウルが口にしたのは、レティシアを責める言葉ではなくて、むしろレティシアの元にいることを望むような言葉だった。
どうしてアディラではなくてレティシアを求めるのか気になったけれど、ラウルの澄んだ瞳が今にも泣きだしそうに歪められているのに気がついて、レティシアはそれ以上ラウルと会話することはなかった。
退屈なお茶会からようやく解放されたラウルは、自室に戻ってきた。窮屈なフロックコートを脱ごうとすると、部屋のドアがノックもなしに開かれた。
「…………ラウル!!」
「………休もうとしてたのに、なんだよ」
アディラが眉毛を吊り上げて、ズカズカと部屋の中に入ってくる。これから小言が始まるかと思うと、頭が痛い。
「ラウル、どうしてレティシアがいいなんてこと言ったの!!」
「別に、意味なんてない。会話の流れ。お前も、分かるだろ?」
アディラは外面はいいが、内では口うるさい。ラウルにもあれこれ指示をしてくるし、見目のいいラウルに執着していた。
ラウルはそれが分かっていながらも、レティシアに上手く拾ってもらったらいいと思い、レティシアに言葉を伝えた。敢えて、辛そうな表情を浮かべて。
「……分からないわよ!ラウルは私の従僕よ!」
「……………はっ?俺はお前の従僕じゃない!!」
アディラの発言が怒りに触れて、ラウルは大声を出した。アディラは身体がビクッと震えたが、負けじと強くラウルを睨んだ。
「お父様から聞いてるんだから!おばさまは、産まれたばかりのラウルを連れて隣国から戻ってきた時、お父様になんでもするから居させて欲しいって言ってたって!!だから、ラウルは従僕なの!!だれとの子か分からないラウルは、男爵家の一員じゃないの!!恨むなら、側妃様のお世話をするために隣国に行ったのに火遊びを楽しんでたおばさまでしょ!!!」
「俺の母親を馬鹿にするな!!!」
心から大切に思う母親を侮辱され、ラウルの怒りは頂点に達した。大股でアディラに近づくと、アディラを睨みつけた。
「俺にしてみたら、お前たちがおかしいんだ。どうして、俺に男みたいな格好をさせて連れ回す……?俺は女だろ!!この部屋から、出ていけ……!!」




