第81話 その頃の彼は
(──……ああ、ここはどこだろうか)
自分がどこに揺られているのかわからない。
どこかに固定されたのかはわかっていても、意識がほとんどはっきりしないのが辛い。
行かなければ。
行かなければならないのに。
ただただ、他人任せにしていてはいけない。自分は頼まれたのだから、『ハル』に……『ナツ』に。
生きたいがかために、任されたのだから。
あのときの『彼女』との時間を取り戻したいために、残り少ない時間を生きてきたのだから。
利用するのもされるのも今更だ。
それが『神』だろうが、『人間』だろうが特に関係ない。
だけどそれでも、自分以外の彼らが頑張っていることも情報としては入ってくる。その頑張りを無駄にしないためにも、自分勝手な行動をしてはいけない。
(どこに……どこに、いるんだ? さっちゃん……)
呼んでも応答がないのはわかっている。『さっちゃん』も自分と同じように、表層意識を保っているかどうかわからない。深層心理とやらが制御できずに、自分たちはバラバラのところで『保護』されていることしかわかっていなかった。
自分は『加東奈月』。多分、男。それくらいの固定情報も最近、危うい。
脳内の夢意識とやらをパターン化させ、『ナツ神』などと交信しながらあのシェルターらしき場所を維持するのに、『会話』をつくっているだけだ。
こちらで、医師や看護師らとの会話なんておぼろげで、食事も流し込むように入れている以外点滴の薬物で意識を蕩かせている程度。精神疾患なんて、脳の中身を『落ち着かせる』ことが優先とされているから……この間、隣の部屋に来た『類似した患者』のあの子は少し気になった。
誰だっかと、聞きたくても個人情報保護のために……患者の情報など今では看護師からも得られない。もしくは、その類似パターンも奈月の意識が蕩けるためだけの『きっかけ』に過ぎないのだろう。
今もまた、食事を口に流し込まれるためだけに開けてはいるが。『味』とか『匂い』が感じ取れずに、『味覚』が鈍ってしまっている。
(あ~あ……さっちゃんのご飯、食べたい)
蕩けた意識の中で、それだけしか浮かばず。奈月はの表層意識はそこで止まった。外側では『移動させるぞ』とか『やっと、落ちた』などとがやがやうるさい音が聞こえるばかり。
また点滴が増えるかどうかくらいの感覚だったが、次に意識が浮かぶのは当分先だなと思うしかなかった。
『クロニクル=バースト』管理者、加東奈月のコロシアム体制を自分で整えるのを忘れるため……自身で用意しなければと、対策して三年の月日もかかったのを、あとで知ることになるが。
これはまだ、序の口にもならない事態なのだった。
次回はまた明日〜




