第65話 もうひとつの事業
成樹は目にかぶせていたVRゴーグルを外し、ベッドから起き上がらずにそのまま息を吐いた。
目線だけ周囲を見てみれば、ソファの方で腕を伸ばしていた美晴も同じタイミングで起きたのか。怠そうな声を出していたが、収穫を得たかと言えば微妙な感じだ。
「どうやった? 奈月は?」
「ぜーんぜん。並行世界側のトリップしまくりで、拘束レベル上がったらしいわ」
「……マジか」
「NPCの担当区域が違うんや。シゲが知らんのもしゃーない」
「じゃが、『クロニクル=バースト』を認知されるのに……時間がない」
「藍葉にも、事業の裏っ側とか言わなあかんしな」
「開発者の要の一員が、自分より重病者やと知ったら……」
「大学の先輩やってことも……あいつはまだ知らんで?」
「そうじゃ、な」
クリエイター集団『クロニクル=バースト』。
ライター。
イラストレーター。
編集者。
マネージャー。
映像編集者などなど。
今でこそ、小企業でも株式会社を名乗ってはいるが。もとは合同会社だったそれがここ数年の事業を拡大したことで株式にのし上がっただけだ。要となる『社長』は別のCEOに兼任してもらっているが、大きく事業を運営してきたのは『加東奈月』という青年。
病弱を理由に、死後事業とも言える『クロニクル=バースト』を立ち上げた張本人。バックアップしているのは彼の親族一同。
奈月自身が、パラレルワールドとも言える『並行世界側』からの預言とやらを受けたのがちょうど五年前。成樹と美晴が『ハル神』からの接触が始まったのとほぼ同時期。
そんな彼らの出会いは、『ハル神』が用意した共有空間とも言える夢の中。異世界とも違い、現実側の情報を共有できる場所だ。ここを使い、預言にもあった『世界災害』での被害を最小限に抑えることが出来るように、同志を増やしていくしかない。
奈月はまだ年若なので、社会人経験が低い。しかし、クリエイターとしての経験はある。その周囲にいる悪友らも同レベル。
逆に、新卒から抜けたばかりの成樹らであれば、『新事業』として上司らに提案が出来る立場。
そこを活かすことで、のちの『異世界ファーム』を基盤とするVRMMOを今身内のみで作成しているのだ。まだ機材にゴーグルが必要ではあるが、奈月のために開発中のコールドスリープが完成すれば……彼を軸に、そのゲームを使用して『避難経路』を現実側に投影出来るのではと。
その提案をしたのが、奈月本人だったため。彼が学生時代に知人から譲り受けた舞台脚本をもとにしたVRMMOのゲームを今も試作中なのだ。ファンタジー色が強いものの、異能力バトルもできるというエンターテインメント性の強いシナリオだ。のちに、そのシナリオが消息不明だった月峰紗夜のものだとは奈月本人も気づいていなかった。
「今どこの区域担当?」
「『サカキ』んとこ」
「……『タチカワ』に変わろか?」
「けど、『イバラキ』にインしてても奈月はちっとも気づかん」
「紗夜ちゃん、起こしてこようにもなあ? 今下手に近づかん方がええんやろ?」
「ああ。向こうも拘束入院しているのは聞いてた」
VRMMOの欠点は、精神が『のめり込む』ことが一番大きい。作品から多大なインスピレーションを受けるというのは、クリエイターなら誰しも感じることが多いものの。集団の基礎となっているふたりが、それぞれ別の心療内科にて入院しながらもトリップしているのはいかがなものか。
健康面を重要視したい医師の懇願があれど、一部には認知してもらった『非現実的な未来預言』の……まだ、成樹らも『夢』を通じてでしか見ていない『最悪事態』を緩和するにはこれくらいでしかサポート出来ないのは、こちらとて歯がゆいのだ。
(藍葉。巻き込むの前提で、こんな役割させたくないんじゃけど)
ひとり残すわけにはいかないからと、半ば強引にパートナーシップにこじつけて恋人にしたのは本当に申し訳なく思っていた。かといえ、惚れてるのは本当なので嘘はついていない。
ひとまず、軽く休憩してからまたゴーグルをつけてゲームの運営を続けることにした。美晴だけは、報告も兼ねて雅博らになにか通話をしていたが。
次回はまた明日〜




