第11話 だらけていないか?
先日のあのメールの返事以降、給料日がすぐだったこともあったため……藍葉はリハビリの距離で行けるコンビニで入金額を確認したのだが。
(……は??)
二度見以上に三か四くらい見直したかもしれない。
しかしながら、変わらない金額を見てから……少し奮発したテイクアウトの飲み物を買い、イートインコーナーで少し座ってから思い返してみた。
(……モニターだけど、扱いは『バイト』にしたって。多くない?)
あの詐欺広告定型文章に近いメール以降は、部長とやらに接触はしていない。そもそも、『気づいた事項』への改善点以外は……マニュアル作成も兼ねての『ポイ活』を進めていただけだ。
切り離した『ファーム内』の育成をすべく、藍葉が指示を出した後は好きに趣味を実行しているだけ。ファーム内に唯一いるAIのクルスに、『あれしろ』『これしろ』も一気に頼みはしない。
料理をしてたら、藍葉もちょこっと自炊か宅配弁当のレシピを書き出したりしている。家に両親がいない場合は、登録した宅配弁当のアプリから注文して食事は取っているが。あくまで試食も兼ねているだけ。
他はリハビリ以外に、残り少ない大学生活の卒業制作をしているのみ。国立ではないが、少し特殊なゼミなので、論文でない制作活動をすれば単位扱いしてもらえるのだが。
そんな日常生活だけで、受け取っていいか悩む金額だった。躊躇うのは普通だ。まだ半月も経過していないのに、その報酬にしては歩合制が緩いと思うくらいに。
美晴にメールしてはみたが、仕事中なのかすぐに返答は来なかった。
(……柔軟な思考性じゃないし、むしろ頑固。こだわりある方だけど、認められた??)
バイト扱いでも、あの金額を素直に受け取っていいのか。こっちでは単純な日常生活を送っていたつもりが、向こうには有益な情報だった。
既に振り込まれているが、別に戻すには問題ないはず。しかし、足の手術費をうまく貯金するにはこちら側では惜しくなる資金だ。
変に考え込むところが悪い癖だと言われるが、身体障がい者として線引きされた生活のダメージが強かったことも多い。足が……とだけで、いくらでも可能性を捨ててきたのは藍葉もそのひとりだからだ。
「……いいや。兄ちゃんと話し合おう。ひとりじゃ無理」
「呼んだか?」
「へ?」
振り返れば、メールの返事もまだだった美晴がアイスコーヒーのカップを持っていたが。怒る前に、隣に赤茶の髪にグラサンというチャラそうな男性の方に目が行ったのだ。
見惚れるくらいの柔らかそうな髪質。だが、兄の同僚だとしたらここは挨拶だと軽く会釈した。何故か、唾を飲むような仕草をしたので驚かれただろうか。
「お? あー、こいつ? 役職は上やけど、こいつが開発者張本人やで藍葉」
「……部長、さん?」
「そっそ。歳は俺とタメやけど、今はええやろ。シゲ?」
「……ちゃんと挨拶させろ」
見た目はチャラいが、役職が例の部長であれば話は早いと思ったものの。兄は彼をあだ名で呼んだ途端、藍葉は思わず指を向けてしまっていた。
「……シゲ、くん!?」
「覚えとったか、藍葉」
グラサンを少しずらせば、カラコンではない天然の青い瞳を見せてくれたが。藍葉は、幼馴染みで初恋の相手を懐かしむ前に……ポイ活モニターへ自分を起用した理由がはっきりわかったのだ。
離れていた分の、救済措置だったのだと……であれば、あの金額も納得だ。
次回はまた明日〜




