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愛される資格なんてないのに〜無自覚な元妖精女王は、前世の騎士に溺愛される〜  作者: 心音瑠璃


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22.

 私が発言しようとシエルの名前を呼んだと言うのに、他でもない彼に制され、彼の気持ちを分かっていても我慢することが出来ず言葉を発する。


「まだ何も告げていないわ」

「正義感の強い貴女が何をお考えなのかなど、手に取るように分かります。

 だからこそ、今回の件については賛同いたしかねます。

 ……ようやく助け出すことが出来たのに、貴女が自らもう一度足を踏み入れるべきことではありません。

 貴女は、私の国の民です。あの国とはすでに縁を切った。良い加減、前を向くべきなのです」

「…………」


 シエルの言葉は、その通りだ。

 地獄のようなあの生活から助け出してくれた彼の意見を振り切るべきではないことは分かっている。

 それはまた、彼を裏切るような真似に繋がるということも。

 懲りていないと罵られても仕方がない。

 でも、それでも。

 私は、グッと拳を握りシエルを見据えて言った。


「それならば、なおさら。自分が招いてしまったことは、自分で落とし前をつけるべきだわ。

 ……私のせいで、ルチアを、民を危険な目に遭わせた。

 国王陛下のやり方がおかしいと思っていても、一度たりとも正すことをしなかった。

 どれも、私が招いた結果が今のファータ王国の惨状よ。

 ここで逃げ出しては、前世の二の舞になる」


 二の舞、という言葉に僅かに動揺したシエルから視線を逸らすことなく言った。


「貴方は“逃げないで”と私に言った。

 だから、私はもう貴方からも、ルチアからも、ファータ王国や国王陛下からも逃げない。

 今度こそ、私は私の役目を果たしたい」


 だから、どうかと祈るようにシエルに向かって言った。


「私をファータ王国へ行かせて。貴方に迷惑がかからないようにするから」


 私の言葉に、シエルは目を瞠った後、やがて深いため息交じりに口を開いた。


「……かしこまりました。ただし、綿密に計画を練った上で行動していただきます。

 よって、出発は明日に加え、私も同行いたします。

 お二人では心配ですし、見届け人は必要ですから」

「……ありがとう、シエル」


 シエルは私の礼に対し、何も言うことなく淡々と明日の計画を練り始める。

 それを聞きながら、彼の顔を盗み見て思った。


(怒っている、わよね……)


 身勝手なことを言って、結局は彼のことを振り回してしまっている。

 その事実を重く受け止めながら、彼の言葉に耳を傾けた。





 そして、ルチアも眠りに落ちた頃。

 私は彼女を起こさないようそっとベッドから下り、ガウンを羽織ると寝室を出て、そっと扉を閉じたところで……。


「シエル」

「!」


 ちょうど部屋から出てきたシエルに向かって声をかけた。

 そんな私を見たシエルは、怖い顔で言う。


「こんな時間にお一人で何をなさっていらっしゃるのですか」

「貴方に謝りたかったの。……ごめんなさい、迷惑をかけて」


 私が頭を下げると、シエルは苛立ったように言う。


「謝らないでください。そもそも、ファータ王国の現状を話したら貴女が放って置くはずがないことくらい分かっていました」

「……やはり、貴方は知っていたのね」


 頭を上げ、シエルに向き直れば、彼は何も言わなかった。

 罰が悪そうにしている彼を見て、私も言葉を紡ぐ。


「怒ってなどいないわ。私のためを思って、ファータ王国で起こっていることを言わないでいてくれていたのだと分かっているもの。

 それよりも、貴方がなぜ怒っていたのか知りたくて来たの。

 こんな時間に歩いている方が怒られてしまうとは分かっていたけれど、でもこのまま明日出立するのはよくないと思ったから……、許して」

「! ……」


 シエルは再び黙り込んだかと思うと、次の瞬間私の元へ歩み寄ってきて強い力で私の手を引いた。

 驚きすぎて声も出ない私をそのまま連れて数歩歩くと、私の部屋の隣室……つまり、彼の部屋へと共に足を踏み入れる。


「えっ!?」


 そうして扉を閉じ、その扉の冷たさを背中越しに感じる間もなく、シエルは私を閉じ込めるように両腕を扉について言った。


「……ください」

「え?」


 上手く聞き取れず首を傾げた私の顔を覗き込むようにして、今度は震える声で口にする。


「私を、もっと頼ってください。どうか、置いていかないで……」

「…………」


 彼の瞳に溜まる透明な想いと震える声、言動でようやく理解した。

『迷惑をかけないようにするから』と告げた他でもない私が、彼を不安にさせてしまったことに。


「……ごめんなさい、シエル。貴方の想いに、気付かなくて……」

「……!!」


 シエルの身体が強張る。

 それは、私が彼の頭を引き寄せるように抱きしめたからだ。


(こんなことをシエルにしている自分が、今もずっと許せない。けれど)


「シエル、私と共にファータ王国に来て欲しい。

 そして、無事にやるべきことが終わったら……、その時は、時間をかけてゆっくりと話をさせてくれないかしら」

「……!」


 シエルの肩が揺れる。

 私は精一杯背の高い彼を抱きしめながら言葉を続けた。


「天界にいた時のことも、人間として生きてきた貴方のことも、それから髪色のことも……、出来たら聞かせて欲しい。

 その代わりと言ってはなんだけど、貴方が私に聞きたいことがあったら、全部、話すから」

「……全部、ですか」

「えぇ、全部。……それで私の罪が消えるとは思っていないし、私はまだ自分自身のことを許せないし嫌いだけれど。

 それでも、貴方が良いというのなら。貴方に、決めて欲しい」

「……!!」


 シエルが私の身体を離して顔を覗き込む。

 油断していた私は驚いてしまったけれど、瞳から溢れ出した想いを止める事はせず、精一杯微笑んだ。

 向き合うと、決めたから。


 そんな私を映したシエルの瞳から、みるみるうちに滝のように想いが溢れ出したのを見て慌てて拭おうとした私の手を、逆にシエルに掴まれる。

 そして、その手のひらに、彼はまるで誓うように口付けを落としてから言った。


「エレオノーラ様の、お望みのままに」

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