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愛される資格なんてないのに〜無自覚な元妖精女王は、前世の騎士に溺愛される〜  作者: 心音瑠璃


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20.*

大変お待たせいたしました…!

完結までの目処が立ちましたので、更新再開いたします。(後10話ほどで完結予定です)

前半エレオノーラ、後半ルチア視点です。


「こちらです!」


 ダニエルに続き部屋の中へ入った先に、思い描いていた彼女の姿がそこにはあった。

 ただし、力なくベッドに横たわる肌の色は、私が知る彼女のものではない。


「ッ、ルチア……!!」


 どうして、こんなことに。

 震える手でギュッと握った彼女の手は氷のように冷たく、私の手も彼女を温めることが出来ずに急激に体温を奪われていくのが分かって。

 愕然とする私をよそに、彼女を診てくれていた医者が首を横に振り言った。


「どうやら、長いことこの寒空の下を彷徨い歩いていたようです。

 それも、薄着で……。温め続け、出来る限りの治癒を施しておりますが、意識はなく、最悪死に至る場合もございます」


 医者の言葉に、触れている指先を通して身体から血の気が引いていき、視界が暗くなる。


「どうして……、彼女は、ファータ王国で幸せに暮らしているはずでは」

「エレオノーラ様」

「!」


 その時、逆の手を掴まれ名前を呼ばれる。

 ハッとして見上げれば、私を見る冷静なシエルの姿があった。

 そして彼は、私を諭すように言った。


「落ち着いてください、エレオノーラ様。

 時は一刻を争います。どうか、賢明なご判断を」

「……っ、ありがとう、シエル」


 そうだ、彼の言う通り落ち着かなければ。

 今、私が出来ること。それは……。


「……治癒魔法を、彼女に施したい」


 妖精達が施す治癒魔法。

 軽度の怪我であれば問題なく使用出来るけれど、重篤な場合は、女王自身にも妖精達にも負担が及ぶためにあまり使わないようにしていた、けれど。


「彼女を助けたい。シエルも手伝ってくれるかしら?」


 私の言葉に、シエルは「もちろんです」と迷いなく頷いてくれたのだった。




 そして、シエルに“大掛かりな愛し子の力を使うから”という理由で人払いをしてもらったことで、部屋には私とシエル、意識を失ってしまっているルチアだけになる。

 シエルは私の手を繋いで言った。


「大丈夫です、エレオノーラ様。私も付いております」

「!」


 緊張が伝わってしまっていたのだろう。

 シエルには何でもお見通しね、と小さく笑い、緊張が解れたことで彼の手を握り返し、頷き合うと、反対の手で彼女の手を握り“願い”を唱える。


「“ルチアを……、私の妹を助けて”」






(ルチア視点)


 ―――……ここは、どこ?


 真っ暗な暗闇の中、自分が吐く息だけが暗闇の中で白く染まっては消える。


(……寒い……)


 どこまで歩いても、出口など、光すらもなくて。

 まるでそれは、今のファータ王国を暗示しているかのよう。

 そして、その元凶の全ては。


(私が、妖精の愛し子に選ばれてしまったからだ……)



 元々私は親の顔すらも知らない、孤児院育ちの孤児だった。

 孤児院の中でも常に一人ぼっちで、教養もない私が妖精の愛し子に選ばれる器などではなかった。

 それでも、選ばれてしまったのだ。

 他ならない、妖精達に。


『貴女をエレオノーラ様の代わりにする!』


 私と目が合うなりそう叫んだ妖精達に、エレオノーラ様とは誰、と問う間もなく、私の身体は妖精達による祝福の光に包まれた。

 そんな私の異変に気が付いたシスターにより、あっという間にお城に連れて来られた。

 そうして驚くべきことに、あれよあれよという間に“妖精の愛し子”という立場だけでなく、王室に養女として迎え入れられてしまった。


 その日から私の生活は、“妖精の愛し子”兼“王族”としての生活に一変する。

 朝は教会で祈りを捧げ、その後は、食事以外の全ての時間を、教師の下で教養を身につけることに充てる。


 息を吐く暇も、右も左も分からない、知っている人など誰一人としていないのに、国王陛下だけでなく誰もが私を敬い崇める。

 そんな状況下に置かれ、私は、その全てが怖かった。


 食べたことのない量と質が豪華すぎる食事も。

 着心地が良く明らかに高そうな愛し子の制服だと言われる服も。

 朝から晩まで、身体の隅々までお世話をしてくれる侍女達も。

 私を見ているはずなのに、目が合っていないように錯覚する国王陛下や信者のような人々も。

 私を取り巻く全てが、どれもまやかしで、“偽り”のように見えてならなかった。

 けれど、私の目の前に一人の女の子が現れた。


『大丈夫?』


 その人を一目見ただけで、まるでお日様のような温かさに包まれるような、不思議な心地がした。

 それだけでない、まるで彼女を守るように周りを囲むようにして飛んでいたのは、紛れもない、無数の妖精達。

 それだけで、言われなくても気が付いてしまった。


 私は、妖精達の言う通り、“彼女の代わり”……、つまり、目の前にいる彼女こそが、本来妖精の愛し子に選ばれるはずだった女性“エレオノーラ様”なのだと。


 最初こそ、烏滸がましいことにエレオノーラ様に対して嫉妬や憎悪の感情さえ覚えた。

 彼女が最初から“妖精の愛し子”に選ばれていれば、こんなことにはならなかった。

 贅沢な暮らしがしたいと望んだことは一度だってない。

 この国を守りたい、皆のために何かをしたいなどと考えたこともなかった。

 今を生きるので精一杯だった私を、どうして妖精達は選んだのかと。


 でも、城の中で暮らしていく内に見えてきたのは、エレオノーラ様の方が幸せには到底見えない生活を送られていること。

 国王陛下の娘であるエレオノーラ様は、当然ながら生粋の王族であり王女のはずなのに、食事を共にすることはなく、国王陛下との会話は業務事項を話すのみ。

 “お前は身代わり”だと、彼女に向かって怒号を浴びせる国王陛下のお姿を何度見たか分からない。


(その言葉は本来、私に浴びせられるべきなのに)


 その上、彼女の身なりは私よりもずっと簡素で、部屋も王女とは思えないほど日当たりの悪い部屋だった。

 それでも、エレオノーラ様は私にいつも笑みを向け、気にかけてくれた。

 私が部屋にいると、こっそりと会いに来てくれた。

 私も彼女の部屋に行くと、嫌な顔ひとつせず温かく、それでいて嬉しそうに迎えてくれた。


『いらっしゃい』


 そうして、言葉を交わすうちにいつも決まって言ってくれるのだ。


『私は貴女の姉で、いつも味方だわ』


(なぜ)


 エレオノーラ様……、いえ、お姉様の方がずっと妖精の愛し子に相応しいのに、なぜ彼女が選ばれないのか。

 さすがに疑問に思った私が妖精達に尋ねれば、彼らの口から驚くべき言葉が返ってきたのだ。


『エレオノーラは、特別。私たちにとって唯一無二の女王様なの』

『だけど、エレオノーラはその座を望んでいない。だから見守ることにした』

『絶対に誰にも言っちゃ駄目だよ。言ったらたとえ貴女でも許さない』


 そう言った妖精達の悲しそうな瞳と私に対する言動を見て悟った。

 妖精達は、私を信じていない。

 “愛し子”とは名ばかりで、正真正銘“妖精女王”だというお姉様の身代わりとして生きているのだと。


 つまり、“ルチア・ファータ”として生きることになった私の運命は、一生孤独で、お役目のためだけに生きているだけの存在なのだ。


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