01.
新連載を始めます!
楽しんでお読みいただけたら嬉しいです。
――“エレオノーラ・ファータ”として生を受けた私は、ずっと疑問に思っていた。
「偉いぞ、さすがは“妖精の愛し子”に選ばれた子だ!
エレオノーラも少しは国の役に立ったらどうだ!」
「……はい、お父様」
――なぜ、妖精に祝福され、力を使えることがそんなにも“偉い”と言われるのだろうか。
「妖精は、我々の役に立つ存在だ。妖精がいれば、守護の力で敵に攻め入られることもないし、自然も守られ生活資源に困ることなく、心穏やかに、豊かに暮らせる。我々の国は安泰だ!」
「…………」
――なぜ、妖精に偉そうに命令して使役するのだろうか。
「妖精の愛し子でないお前は役立たずだ! 何かあったら愛し子の身代わりになれるようもっと努力しろ、エレオノーラ!」
「……はい、お父様」
――なぜ、妖精に力を借りることが出来ないだけで差別されなければいけないのか。
そう思っていた私の、物心がついた時からとにかく疑問だらけだった頭が今、現在進行形で鮮明になっていく。
それは、目の前の人物を一目見た瞬間からだ。
いや、正確に言えば目の前の人物に対する疑問で頭が埋め尽くされてしまった、というのが正解だろうか。
「エレオノーラ様」
この世界で、この立場で生を受けてからは初対面のはずなのに、かつてと変わらない、あえて私の名前のみを呼んだその鼓膜を震わす涼やかな声は、聞き覚えがあるどころではない。
遠く……、あまりにも遠い、この国でもこの大地ですらもない、遠い場所に置いてきたはずの記憶の中にあったかけがえのない存在であると同時に、もう二度と会うことは叶わないだろうと思っていた人物が今、目の前にいる。
(……どうして、かつて天界に住む妖精女王だった私の護衛騎士であるあなたがここに)
新たな疑問に一瞬にして頭が埋め尽くされた私に向かって、彼は、蘇った記憶とは唯一違う白銀の髪をさらりと揺らし、前髪から覗く金色の瞳に戸惑う私を映して言った。
「どうか私と、結婚していただけませんか」
彼の真っ直ぐな視線に、言葉に大きく心が震える。
その言葉は、かつて……前世から願っていた言葉であり、叶わなかった言葉。
「突然のことで驚かれるのも無理はありません。
ですが、私にはあなたが必要です。あなたは側にいてくれるだけで良い。
あなた以外に、何もいらない」
そう言って彼……シエルは、懇願するような瞳で私を見つめ、私の手を握り自分の方に引き寄せた。
ファータ王国。
古の時代から妖精が棲み守護されているこの国は、天災も人災も諍いもない平和で穏やかなことから、『地上の楽園』と呼ばれている。
それは、今まで出会ったどの教育係からも耳にしてきた言葉。
だけど、『地上の楽園』だなんて真っ赤な嘘。
いえ、もしかしたら本当はそうなのかもしれないけれど、少なくともこの国を治めている者達が住むこの城内は違う。
だって王族である彼らは、妖精による加護を持たない人々のことを“役立たず”と呼び、蔑んでいるから。
現に、王族として名を連ねる私も例外ではなくて……。