第27話 交代
しばらくすると、少々不機嫌そうにキャスティルが店に戻って席に着く。
「どうでした?」
「土砂崩れで旅館までの道が使えなくなった。遠回りになるが、別の道を通って行くしかない」
「あらら、それはまた困りましたね」
ミュースがそれとなく訊ねると、キャスティルは海鮮丼を口に運びながら答える。
どうやら、今晩泊まる旅館までの道が使えなくなり、思わぬ渋滞に巻き込まれたこともあって、運転手を買って出たキャスティルが不機嫌になるのも無理はない。
「私が運転を交代してもいいが……」
「気持ちだけ受け取っておく。今のお前さんは女子高生の無免許状態なんだぞ」
私はキャスティルの負担を減らすために運転の代わりを申し出るが、普通に断られてしまった。
運転自体は問題なくできるだろうが、今の私が運転しているところを警察に見つかったら後々厄介なことになる。
「旅館までは私が運転しますわ。キャスティルは皆と仲良く遊んで気持ちをリフレッシュしなさいな」
「お前に運転を任せるのは凄く不安なんだが?」
「大丈夫ですわ。私の見事なドリフト捌きで峠を越えてご覧にいれますから」
「やっぱり私が運転する。旅館へ着く前に天国に着地してしまったら洒落にもならん」
ミュースが運転を買って出ると、キャスティルは物凄く嫌そうな顔で拒否をする。
まあ、以前にもキャスティルを置いて颯爽と車を走らせて消えて行ったし、運転自体はできるのだろう。
ただし、話を聞く限りでは安全運転の保証はできない感じだ。
「普段の行いが悪いキャスティルだけは地獄に行くかもしれませんわね」
「それなら、お前も道連れにしてやるからな」
女神達の会話とは思えない物騒な単語が飛び交うと、結局ミュースが運転を交代することになった。
昼食を終えた私達は漁港の土産物売り場を回った後に車へ乗り込むと、運転席ミュースが着いて助手席にキャスティルが怪訝そうな顔をしている。
「ふざけた運転は絶対にするなよ? 絶対だぞ?」
「それは逆にやってくれと言うフリにしか聞こえますわ」
「アホか。やったら即交代だからな」
不安だ。
これなら、私が運転した方がマシだったのではと思えてしまう。
「やれやれ……大丈夫かな」
「ドリフトって映画とかで見たことあるけど、あんなスリリングな体験をできると思うと楽しみだね」
香苗ちゃんも私と同様に心配しているかと思ったが、全く違っていた。
むしろ、ミュースの運転捌きに期待を寄せている。
「それじゃあ、出発しますわ。歯を食いしばってくださいませ」
まるで、これから絶叫マシーンのアトラクションにでも乗り込まないと聞かない忠告をするミュースは車を走らせると、鼻歌を交えながらウキウキな気分で出発した。




