第23話 二人揃うが
「やった……」
「よかったぁ、楓ちゃんと揃ったね!」
内心、興奮が収まらない私に香苗ちゃんは抱き付いて喜びを分かち合う。
思い返せば、夫婦になってから生活を営んでいく内に些細な意見の食い違いが起こったりした。
結婚してから間もなくして仕事が大変なら、無理しなくてもいいと私を想って声をかけてくれた香苗ちゃんを私は無視した。
私が無理しているのは君のためだ。
君を幸せにできるのなら、多少の無理でも押し通す覚悟だ。
そんな小恥ずかしいことを不器用な私は本人に言える筈もなく、行動で示して誠意を伝えていたつもりだった。
結婚して十年近く経ったが、私の誠意は彼女に伝わっていたのだろうか。
いつか、それを確かめようと心に誓っていたが、臆病な私は適当な理由を見つけて、できなかった。
私は彼女の気持ちを本当の意味で理解していなかったのかもしれない。
女神が提案したこの他愛ない連想ゲームは私と香苗ちゃんの関係を再確認させるために、一芝居打ってくれたのだろうか。
香苗ちゃんが甘いお菓子が好きだってことは、この連想ゲームを通して今まで頭の片隅に追いやられて忘れていた。
「なかなかやりますわね。じゃあ、私も結果を発表しましょう」
喜んでいるのも束の間、ミュースは自分の番が回って来ると紙を広げて見せる。
ショートケーキでありますようにと祈りを込めて、私と香苗ちゃんは紙に描かれている物を確認する。
「うーん、残念! どら焼きでした」
ショートケーキとはかけ離れた丸味のあるふっくらした物体。
それは紛れもなく、どら焼きのそれであった。
ここは空気を読んで当てに行って欲しかったが、特別な力は行使しないと約束した彼女は本当に好きなお菓子を思い浮かべたのだろう。
ミュースのような見た目の外国人なら、優雅な紅茶に合うケーキ等を選びそうな感じだ。
まさか、和菓子のどら焼きを思い浮かべるとは予想もしていなかった。
「おっと、私は何もズルはしていないし真面目に答えましたわ。まだまだ時間はたっぷりありますので、チャンスを逃さず頑張りまょう。次は楓ちゃんの番ですよ」
「ああ、わかったよ」
私の言いたいことを察したミュースは私の頭を撫でて、次のお題へ入ろうとする。
(やり難い女神だな……)
キャスティルもそうだが、このミュースは掴みどころがない奔放な女神だ。
今回は残念だったが、こうなっては仕方がない。
ミュースの言う通り、時間はたっぷりある。
私はお題になりそうなものを考えて、次に臨んだ。




