第22話 なかなか揃わない
「コホン、では私から改めてお題を出しましょう。好きな絵本を思い浮かべてください」
軽く咳払いをしてミュースはお題を提供する。
「絵本か……」
子供の頃にはよく母親や幼稚園の先生から読み聞かされたものだ。
当時、ワンパク小僧だった私は絵本より外で遊んだりするのが好きだった。
桃太郎、浦島太郎といった代表的な童話の絵本は思い付いたが、香苗ちゃんとミュースがどのような絵本を選ぶかわからない。
「私はこれかな。楓ちゃんはもう思い浮かんだ?」
「う、うん。候補は絞れたかな」
「そっか。皆で揃うといいね」
香苗ちゃんはにこやかな笑顔を私に向けると、自身の思い浮かべた紙を膝の上に置いて見せる。
ミュースも既に思い浮かべたようで、後は私だけのようだ。
一回目で成功すればいいが、多分それは叶わないだろう。
ここは様子見で二人の答えの傾向を見極めて、次のお題に備えた方がいいかもしれない。
私も紙に答えを導き出して、全員の解答が出揃った。
「ふふっ、ドキドキしますが一斉に発表しましょうか。それではオープン」
ミュースの掛け声で三人はお互いに見えるように紙を提示する。
私は大きな桃が描かれた桃太郎、香苗ちゃんはガラスの靴が描かされたシンデレラ、ミュースは赤いずきんを被った女の子とオオカミが描かれた赤ずきん。
見事に全員バラバラである。
(なるほど……)
私は二人の解答を分析すると、シンデレラや赤ずきんは比較時に女の子が好む童話の話だ。
それなら、次のお題からは彼女達に寄り添った解答を導き出した方がゲームクリアの近道かもしれない。
「あらら、残念でしたが最初はこんなものですよ。次に期待してどんどん続けましょう」
ミュースは新しい紙を私と香苗ちゃんに配ると、励ましの言葉を投げかけると気を取り直して次のお題へ移る。
「次は私ですね。それでは好きなお菓子を思い浮かべてください」
香苗ちゃんの番になり、お題は好きなお菓子。
私は先程の経験を踏まえて、二人が好きそうなお菓子を連想する。
香苗ちゃんは甘い物が比較的に好きなので、ケーキや焼き菓子のクッキーを作ったりするのが得意である。
ミュースも見た目は修道服を着たシスターであり、甘い物が好きそうな雰囲気ではある。
そうなると、甘いお菓子に的を絞った方が三人揃う確率は高い。
「今度は揃うといいね」
「うん、今度は少し自信があるよ」
「あら、それは楽しみ」
好きなお菓子を思い浮かべた香苗ちゃんは嬉しそうに紙を伏せると、私も思い浮かべたお菓子が揃っているように祈って紙を伏せた。
「さて、今回は一人ずつオープンしていきましょうか。その方がドキドキして面白そうですわ」
子供のようにはしゃぐミュースは一人ずつオープンしていくことを提案すると、私と香苗ちゃんは了承する。
すぐに結果がわかるより、演出としてはそっちの方が盛り上がるだろう。
最初はお題を出した香苗ちゃんからオープンすることになり、彼女が思い浮かべたのはショートケーキ。
(これは……)
私は胸が躍る気分で香苗ちゃんの思い浮かべた美味しそうなショートケーキを見つめる。
次に私が思い浮かべた紙をオープンさせると、そこには香苗ちゃんと同じショートケーキが描かれていた。




