第2話 証明
目の前にある現実をどう受け止めていいのかわからない私に、女子高生は私の隣に座り直して恥ずかしそうにしている。
この奥床しい感じはたしかに私の知っている香苗ちゃんだ。
「君は一体誰なんだい? さっきの女といい、訳がわからんことだらけだ」
所作や雰囲気が早苗ちゃんに似ていても、ここにいる女子高生は彼女とは別人だ。
質の悪い悪戯か。
それならまだ納得できる部分はあるが、どうして私は少女の姿をしているのだろうかという疑問が残る。
あの女の戯言を信じるつもりはないが、この子は私が抱いている疑問を全て解決してくれるのだろうか。
「信じてもらえないと思うけど、私は飯島香苗だよ」
「冗談はよしてくれ。あまり変なことばかり御託を並べるなら、出るところへ出てもいいんだぞ」
ふざけるのも大概にしてほしい。
よりにもよって、妻である香苗ちゃんの名前を出されて怒りが湧いてくる。
「そ……そうだよね。こんなこと、いきなり信じろって言うのは無理があるよね」
「当たり前だ」
「じゃあ、これで信じてくれるかな」
妻である香苗ちゃんを引き合いに出したこの子の言うことを到底信じる気にはなれない。
これ以上、ここにいるのは無意味だと判断した私が立ち上がろうとした時だ。
「お……おい」
視界は一気に天井へ向けられたと思ったら、すぐに女子高生の顔が映り込む。
彼女に押し倒されたのだ。
女子高生の一人ぐらい、難なく力で押さえ込める自信はあったが、今の私は目の前にいるこの子より少し身長も小さくて体重は軽い。
為す術もなく、私は女子高生と近距離で顔を見合わせる形となってしまう。
「怖がらないで……楽にしてね」
女子高生がそっと耳元で囁くと、私は心臓をえぐり取られそうな錯覚を覚えてしまう。
先程の奥床しかった女子高生はどこかに消え失せて、色香のある女性へと変貌している。
私はそれに当てられて、顔を赤く染めながら生唾を飲み込んでしまう。
これから何をされるのか、私は本能的に悟ってしまった。
彼女の荒い息が私の頬を伝わると、その熱量はさらに加速する。
両手の手首を押さえ付けられて、彼女の唇は私の唇と重なり合う。
頭では嫌な筈なのに、身体は彼女を求めている。
こんな姿を妻である香苗ちゃんが見たら、悲しむに決まっている。
重大な裏切り行為だ。
私は涙を浮かべながら、「やめて……」と力なく懇願する。
しかし、それも虚しく彼女の舌が絡み合うと、脳内のアドレナリンが最高潮に達する。
歯止めが効かなくなった彼女はそんな私を愛おしく抱いて微笑む。
「圭吾君、本当に女の子みたいだね。でもね、結婚初夜の時は圭吾君が今のようなことを私にしたんだよ」
「な……何を言っているんだ? こんなことをして、ただで済むと思うなよ」
さっぱり訳がわからない私は目一杯に強がってみせるが、窓ガラスから映り込む私の姿は目がトロンとしている。
「さあ、そろそろ思い出す筈ですよ」
説得力の欠けた私に追い打ちを掛けるようにして、香苗ちゃんとの結婚初夜の時の記憶が頭に流れ込んでくる。
(これは……)
紛れもない私の記憶だ。
ベッドの上で、私が先程体験したようなことを香苗ちゃんにしたのだ。
「その様子だと、思い出してくれたようですね」
「君は本当に……香苗ちゃんなのか?」
「ええ、圭吾君と添い遂げると誓った香苗ですよ」
結婚初夜のことは誰にも話す訳もなく、私と香苗ちゃんしか知らないことだ。
信じられないが、彼女が香苗ちゃんである以外に考えられなかった。
落ち着きを取り戻した私は目の前にいる女子高生が香苗ちゃんであると確信した。