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第18話 出発

 旅行当日、天気にも恵まれて気持ちの良い朝を迎えた。

 荷物をまとめて車のトランクに詰め込んで、いざ旅の出発。

 道路は今の比較的に空いており、この調子なら目的地まで早く到着しそうだ。


「眠そうな目をしているな。遠足が楽しみで寝られなかったか?」


「そんな訳あるか。そこの変態女神さんが原因だよ」


 運転席からキャスティルが大きな欠伸をする私に冗談交じりで訊ねる。

 楽しみだったのは否定しないが、全ては助手席にいる女神が原因である。


「あらあら、変態って言われてますよ」


 昨夜とは違って、今日は修道服に身を包んでいるミュース。

 笑顔でキャスティルを変態扱いする彼女だが、反省の色は全くない様子だ。

 と言うか、この女神も保護者として同伴するのか。


「私が変態なら、お前はド変態だろ。あまりそいつを困らせるようなことはするなよ」


「困らせるなんて、人聞きが悪いですわ。ねぇ、楓ちゃん?」


 私はミュースに返答することもなく、彼女と視線を逸らして窓の景色を眺める。

 下手に返答をしたら、何をされるかわかったものではないからだ。


「あらら、嫌われちゃいましたね。昨夜は裸で語り合いましたのに……」


 わざとらしい泣き真似をするミュースに、キャスティルは怪訝そうにそれを見つめる。

 私はとくに何もツッコむような真似はせず、無視して景色を眺め続ける。


「ふふっ、賑やかでいいね。よろしければ、おにぎりどうですか?」


 香苗ちゃんは私の隣で可笑しそうに、今朝作ったばかりのおにぎりをキャスティルとミュースに勧める。

 キャスティルは何も言わず、片手を差し出しておにぎりを受け取る。


「やったぁ、一ついただきますわ」


 子供のようにはしゃぐミュースは美味しそうに頬張る。

 それを不審そうにキャスティルが隣で見ていると、「こいつ……」と一言呟く。

 それ以上は何も言わず、キャスティルは不満そうな顔で運転を続ける。


「楓ちゃんもどうですか?」


「ああ、ありがとう。一つもらうよ」


 私も香苗ちゃんからおにぎりを受け取ると、私の好きな具のおかかだった。

 優しい味付けで、ほっこりする彼女のおにぎり。


「お茶もどうぞ」


 香苗ちゃんはお茶が入ったペットボトルを差し出してくれて、昨夜のドタバタを綺麗さっぱり洗い流してくれるかのように癒される。

 私の胃袋は満たされて上機嫌なところにミュースも何か差し出してくれた。


「楓ちゃん、仲直りの印にこれをどうぞ」


 それは一本の瓶牛乳だった。

 たしか、この女神は乗車する時に手ぶらだった筈だ。

 どこから取り出したんだと疑問はあったが、夢に現れることもできる女神なんだから不思議な力で取り出したと思うことにした。


「何か変な物が入っていたりしないだろうな?」


「そんなことはないですわ。奈々ちゃんにもどうぞ」


「ありがとうございます。ほら、楓ちゃん。女神様のご厚意を無下にすると罰が当たるよ」


 ミュースはもう一本取り出すと、香苗ちゃんは素直に感謝を述べて受け取る。

 そこまで言われると、私も受け取らない訳にはいかず、素直に受け取った。

 香苗ちゃんは美味しそうに口にすると、私もそれに倣って見せる。

 警戒はしていたが味はとくに変わったところはなく、普通の牛乳だ。

 強いて挙げるなら、少々ぬるいぐらいだろうか。


「あ……ありがとうございます」


 私も一応感謝を述べる。

 彼女も昨夜は悪気があった訳ではないだろうし、昨夜の件はもう忘れることにしよう。


「気に入ってもらえてよかったわ」


 ミュースは笑顔を向けると、彼女も自分の分を取り出して美味しそうに飲み干す。

 そして、ミュースは続けて言葉にする。


「ふふっ……また今度、私の母乳を飲ませてあげるわ」


 私と香苗ちゃんが殆ど飲み終えてしまってから、とんでもないことを女神は暴露する。

 牛乳がぬるかったのはそれが原因だったのかと、彼女の発言から妙な説得力もある。


「だから、あまりからかってやるな」


 キャスティルは呆れた口調でミュースの頭を軽く叩くと、「それは普通の牛乳だ」と付け加えて私を安心させてくれた。


(勘弁してくれよ……)


 出発して、まだそんなに時間も経っていないのに先が思いやられるなと私は頭を抱えてしまった。

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