第16話 素朴な疑問
旅行に必要な物を一通り揃えると、荷物を持ち帰って旅行の支度を始めた。
宿泊先のホテルは既に押さえており、表向きは姉妹の旅行になるが、夫婦での旅行は本当に久しぶりだ。
「旅行先は私も保護者として同行するからな」
当初は電車を乗り継いで目的地まで辿るつもりだったが、キャスティルは呆れて却下した。
二人っきりで仲良く電車に揺られて過ごすのも悪くはないと思っていたが、長時間の移動が大変で目的地に到着する頃にはヘトヘトになっているだろうとキャスティルは指摘する。
「私も運転したいところだが、やっぱり無理だよなぁ」
「その姿なら、無免許運転で補導されて一発アウトだ。旅行どころではなくなるだろうな」
車の運転自体はできるが、少女の姿では無免許運転で警察に補導されるだろう。
いや、そもそも少女の姿でレンタカーを借りるのもできないし、移動手段は限られてくる。
「一つ確認してもいいか?」
「ああ、何でも言ってみろ」
「最初はとくに気にならなかったが、女神のあんたは運転免許証を所持しているのか?」
素朴な疑問を私はキャスティルにぶつけた。
出会った頃は怪しい女のイメージしかなく、車を運転できる人なんだなと気にも留めなかった。
だが、それはあくまで人間だった場合だ。
「ちゃんとあるよ。これでいいだろ」
キャスティルは運転免許証を私に提示すると、たしかに私がおっさんだった頃の運転免許証と見比べても本物っぽく見える。
「女神の力で偽造した物じゃないだろうな?」
「そんな訳あるか。正規のルートで入手した正真正銘の運転免許証だ」
私や香苗ちゃんをこんな姿にした張本人だ。
運転免許証を偽造するのも難しくはない筈だ。
というか、この女神が教習所で運転を習っている姿が到底想像できない。
まあ、ここは彼女の言葉を信じよう。
「そうか……疑ったりして悪かったな。それに移動の足として車を出してくれるのは助かるよ」
「保護者だからな。お前さんが気にする必要はないし、無茶な旅行プランを立てずに今度からは私に相談しろ」
そう言い残して、キャスティルは私の頭を無造作に撫でて自分の部屋へ戻って行った。




