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第15話 一歩踏み出す

 私は現実を受け入れ、目の前で優雅に酒を口にする女神の存在を認めるしかなかった。


「男に二言はない。今までの無礼は素直に謝ろう」


「ほう、ゴネると思っていたが素直に認めるとは意外だな。あと、お前さんは女だからな」


「それについて、一つ文句がある。なんで少女の姿なんだ? 香苗ちゃんはともかく、私はもっと年相応でダンディーな男の姿でもよかっただろ」


「用意できる身体がそれしかなかったんだよ。可愛い女の子になれてよかったじゃないか」


 少女の姿にされた理由も無事に判明すると、こちらは聞かなかった方がよかったかもしれない。

 おかげで、色々と苦労させられたが、香苗ちゃんと距離が縮まって楽しい夫婦と姉妹の生活を堪能できるのは考え方によってはよかったのかもしれない。


「さて、お前さん達の買い物に付き合うとするか。一応、保護者だからな」


 キャスティルはボトルの酒を空にして、最後の一滴まで飲み干す。

 あまり気が進まない様子だが、保護者の立場を意識しているのは明白だ。

 その原因の発端は私にもあるので、私はキャスティルに申し訳なく思っている。


「これは小遣いだ。私はこの近くの店を適当に回っているから、二人は仲良く買い物を楽しんで来い」


 キャスティルは財布から私と香苗ちゃんに現金を手渡す。

 旅行に必要な物はこれで十分に揃えられそうな金額だ。


「あんたも私達と一緒に回ったらどうだ?」


「お前さんは空気が読めない奴だな。二人のプライベートな空間を邪魔するのは野暮ってもんだ」


 私は踵を返すキャスティルを呼び止めるが、彼女は溜息をついて面倒臭そうに諭してその場を後にする。

 保護者として面倒は見るが、それはあくまで必要とされる場面だけのようだ。


「ありがとうございます……」


 香苗ちゃんはそんなキャスティルの背中に向かって、軽くお辞儀をして感謝の言葉を呟く。

 私もそれに倣って、彼女に軽くお辞儀をすると、遠くの方から「さっさと行け!」とデカイ声で怒鳴られてしまった。

 私と香苗ちゃんは顔を合わせて、思わず笑みがこぼれた。


「楓ちゃん、買い物の続きをしようか」


「うん、お手柔らかにね」


 香苗ちゃんは私の手を繋いで、姉妹の買い物は再開された。

 洋服はお互いに似合う物を選び、女性物の自身の下着を揃えるために、私は香苗ちゃんのアドバイスを受けながら二人分の下着も買え揃えている最中だ。

 ブラの着け方は勿論初めてなので、最初は店員さんが試着の手伝いを申し出てくれたが、仲の良い姉妹をアピールして、私は香苗ちゃんにアドバイスをもらいながら、一緒に試着する。


「何だか少し恥ずかしいな……」


「ふふっ、照れなくてもいいよ。こっちの方が楓ちゃんには似合っているかも」


 下着については何もわからないので、全て香苗ちゃんに任せっきりだ。

 まさか、妻であり姉である香苗ちゃんから私の胸はBカップもあると告げられるとは思ってもいなかった。


「変じゃないかな?」


「そんなことないよ。楓ちゃんはとっても魅力的で素敵な女性に見えるよ」


 香苗ちゃんは耳元で囁きながら、肌を密着させて顔を見合わせる。

 試着室で二人っきりの密閉された空間。


「お姉ちゃんも似合っているよ。刺激が強過ぎてクラクラしそう」


「まあ、それは大変。実は私もなんだよ」


 お互いの体温が直に伝わると同時にフェロモンに当てられてどうにかなってしまいそうだ。

 こんなところ、誰かに見られたらどうしようか。


「私、男だったのに……こんな姿を晒して変態だね」


「今は女の子なんだから、気にしなくていいんだよ。そんな些細なことが気にならなくなるぐらい、お姉ちゃんが楓ちゃんを女の子に染めてあげるね」


 私の羞恥心を丁寧に剥ぎ取る香苗ちゃん。

 不思議なことに、嫌悪感より充実感が私の心を染めていく。

 そして、下着を買い揃えた頃には女の子として、さらに一歩踏み出せたような気がした。

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