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第14話 予言

「何だったんだ、あの人は?」


 呆気にとられた私は香苗ちゃんと共に、走り去った乗用車を見送ることしかできなかった。


「そこのファミレスへ入るぞ。こうなったら、二人に納得してもらうまで帰れそうにないからな」


 不服そうな顔で、キャスティルは私と香苗ちゃんを近くのファミレスに連れ出す。

 クレジットカードを返却できたまではよかったが、ややっこしい展開になってしまった。

 私としては、キャスティルとじっくり話し合う機会を設けられてよかったかもしれない。

 三人はファミレスへ入店すると、空いているテーブル席に私と香苗ちゃんはキャスティルと向かい合って座った。


「ちっ、喫煙席はないのか」


 開幕早々、キャスティルは煙草で一服して気持ちを落ち着かせたかったようだが、それは叶わなかった。

 今までの私なら、彼女の気持ちは痛いほど理解できたが、少女の姿になってから喫煙欲求は抑えられている。


「まあいい。早速だが、あいつが提案した条件で今後は親代わりをしていくことでいいか?」


「私は全然構いませんが、むしろここまで面倒を見てくれて申し訳ないです」


「気にするな。これも仕事の一環だからな」


 香苗ちゃんは遠慮がちに賛成を表明すると、キャスティルは足を組んで太々しい態度で応じる。


「私はあんたやさっきの女が何者で、何が目的なのか。本当はどうして私達がこんな姿になったのか知りたい」


 私は疑問に思っていることを全部ぶちまけると、キャスティルは面倒臭そうに溜息をつく。

 彼女の提案を呑む以前に、そこは完全に払拭しておきたいのだ。


「お前さん達が長年に渡って、すれ違いの生活を送っていく内にストレスが溜まり過労が原因で心不全を起こして死亡。不憫に思った私は二人を助けようと、新しい身体を用意して復活させた。ここまでが、お前さん達がそんな姿になっている理由だ」


「死んだ人間を復活させられる訳ないだろ」


「普通ならな。だが、運命の女神である私なら可能だ」


「それが胡散臭いんだよ。女神って言うのは……その、もっと気品があって誓約聖書に登場するような天使みたいなものだろ」


「残念だが、現実はこんなもんだ」


 新しい身体を用意して復活させ、それは運命の女神だからできた芸当だとキャスティルは悪びれる様子もなく語る。

 彼女が天才的な外科医で特殊な治療を施して復活させたって流れなら、まだ信憑性が幾らかある。


「じゃあ、本当に女神なら、私を納得させられるような神秘的な力を使って見せてくれ」


「易々と人前で力は使いたくないんだがな。まあ、そこまでしないとお前さんは信用しないようだな」


「当たり前だ。見せてくれたら、あんたを女神と認めるし、今までの無礼な振る舞いは謝るよ」


 そんなこと、できる訳がないと私は(たか)(くく)る。

 少女の姿になっているのも、やはり特殊な治療を施されているものなんだ。

 もしかしたら、強い幻覚作用か何かで催眠術にかかっているだけかもしれない。

 女神なんて存在はありえない。


「わかった、約束は守れよ」


 意外な回答だった。

 彼女は話をはぐらかして煙に巻くつもりだと思っていた。

 キャスティルはしばらく目を瞑ると、私と香苗ちゃんは固唾を呑んで見守る。

 そして、右目だけ開いて口を開く。


「それじゃあ、予言をしよう。あと三分後にこの沿線を走っている電車が人身事故で止まる。その原因はお前さんが会社に勤めていた後輩の社員だな」


 何を言い出すかと思えば、突拍子のない予言だ。

 やはり、胡散臭い女だと私は席を立とうとした瞬間、キャスティルは続けて言葉にする。


「本来なら、その後輩の社員は死ぬ運命にあるが、私の力でかすり傷程度に済ませた。それをきっかけに会社の実態が世間に知れ渡り、ほどなくして倒産する」


「いい加減なことを……」


 私は寝ぼけたことをと思っていた矢先に、外の様子がだんだんと騒がしくなる。

 そして、ファミレスに数組の客が雪崩れ込んで愚痴を言い始める。


「そこの駅のホームで人が飛び降りたらしいぜ。おかげで電車はしばらく動かないし、大学の講義には間に合いそうにないよ」


 まさか、そんなことがありえるのかと私は驚愕を隠せないでいる。

 それは香苗ちゃんも同じで、キャスティルが予言したとおり、電車で人身事故は発生した。

 それからしばらくして、徐々に情報が入り込んでホームから飛び降りたのは私の勤めていた後輩の社員であり、腕を骨折はしたが命に別状はないそうだ。


(当たった……)


 私は口を開けて信じられない様子でキャスティルの顔を覗き込む。

 後日、この人身事故は全国ニュースに取り上げられて、不当な残業やパワハラが表沙汰になり、会社は倒産した。


「そこのウェイトレスの姉ちゃん、酒を持ってきてくれ」


 キャスティルはそんな私を無視して、近くを通りかかったウェイトレスに酒を注文する。

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