第13話 親代わり
取り残された私はクレジットカードを握り締めて、キャスティルを追いかける。
こんな物を渡されて、はいそうですかと買い物を続ける気には到底なれないからだ。
香苗ちゃんも私の後に続くと、商店街を抜けて駅前のロータリーに駐車していた乗用車にキャスティルが乗り込もうとするところだった。
「待ってくれ!」
私は大声で制止するように叫ぶ。
それに気付いたキャスティルは無視して運転席へ着こうとすると、エンジンをかけて発進しようとする。
(間に合わないか)
諦めかけた時、助手席に同席していた見知らぬ女性が乗用車から降りて来た。
「おい!」
キャスティルが車窓から顔を出して呼び止めるが、女性は無視して私と香苗ちゃんの前に立って、にこやかに挨拶を交わそうとする。
「初めまして。飯島圭吾さんと香苗さんですね」
「あんたは?」
「私はあそこにいる不良女神の同僚でミュースと申します。以後お見知りおきを」
ミュースは片手を差し出して、私と香苗ちゃんに握手をする。
修道服に身を包み、首から下げている十字架のロザリオが印象的な彼女は温和で優しそうな物腰だ。
「お前はいいから、早く助手席へ座ってろ!」
「別に減るもんじゃないし、いいじゃありませんか」
エンジンを切って運転席から降りてきたキャスティルは不満そうな声を上げて、ミュースを怒鳴りつける。
そんなミュースは頬を小さく膨らませて抗議すると、全くタイプが違う対象的な自称女神達にどう接していいかわからくなりそうだ。
「お取込み中だが、これは返すぞ」
私はキャスティルにクレジットカードを返そうとする。
常識的に考えて他人のクレジットカードを無断で使用できる訳がない。
「そいつがないと、困るのはお前さんだ達だ。黙ってそれを受け取って旅行の支度なり準備をしろ」
「理由もなしに、こんな物を受け取れる訳ないだろ」
「それなら、私がお前さん達の保護者だからだ。それでいいだろ」
「いいわけないだろ! 勝手にあんたが保護者面をしているだけで、これは絶対受け取らんからな」
私とキャスティルはお互いに主張を繰り返しながら、一歩も引かない。
頑固者同士、こうなっては埒が明かない。
通りかかる人達も視線をこちらに向けながら、かなり目立ってきている。
収拾がつかないところに、ミュースが二人の間に入って提案をもちかける。
「それでしたら、お小遣いを支給するのはどうでしょう? 保護者であり、親代わりのキャスティルは月に一度、二人にお小遣いを上げる形で支援する。学生の立場である楓ちゃんと奈々ちゃんなら、保護者であり親代わりのキャスティルからお小遣いをもらっても変ではありませんよ」
「おい、勝手にそんな話を進めるな!」
キャスティルは不服そうにすると、ミュースは彼女の口を塞いで続ける。
「勿論、今回のような旅行に必要な出費や今後の学業等で必要な出費は親代わりのキャスティルが出しますが、それ以外は彼女の裁量に任せる。まあ、要するにクレジットカードをポンと預けっぱなしにしないで、親としての責任を果たせってことですよ」
「何だよ、その親としての責任って……」
「二人を放置しないで、親らしいことをしろってことです」
反論を許さず、ミュースはキャスティルの背中を押してみせる。
「頑張ってくださいね。お・か・あ・さ・ん」
「はっ? おい、ちょっと待て!」
そして、意地悪っぽく笑みを浮かべてミュースは運転席に着いて乗用車を発進させると、キャスティルを置いて行ってしまった。




