第12話 バカップル
「これもなかなかいいね。うーん、さっきの方が可愛さを引き立てたかな」
手当たり次第、試着した姿を香苗ちゃんに披露しながら色々と評価してもらう。
私はどれも一緒なのではと身も蓋もない感想しか湧かないが、ここは香苗ちゃんを信じて洋服を吟味していく。
「よし! とりあえずはこれでOKだね」
香苗ちゃんのお眼鏡にかなった洋服の精算に移ると、予想していたより結構な額だ。
旅費を含めて、今日の出費は全て私が何とかするつもりであったが、洋服だけで予算が足りなくなりそうな勢いだ。
(まずいな……)
下手をしたら、財布の懐具合で旅先のホテルも予約できるかどうか雲行きが怪しくなってくる。
香苗ちゃんの前で大見得を切った以上、こうなったら残っている貯金を追加してやり繰りをするしかない。
「ここはやっぱりお姉ちゃんが払うから、楓ちゃんは外で待っていてね」
「いや、大丈夫だよ。すぐに済ませるから……」
心配そうに財布からお金を取り出そうとする香苗ちゃんを私は制止する。
この場はとりあえず、私が支払いを済ませようとすると、店の外から颯爽とトレンチコートを羽織ったキャスティルが私を退ける。
「一括払いだ」
「か……かしこまりました」
堂々とクレジットカードを提示する彼女の圧に言葉を失いかけた店員は品物を包んで決済する。
「あんた、これは一体何の真似だ?」
「それはこちらの台詞だ。お前さん達の保護者って立場上、親代わりである私は生活の面倒を見るのも当然ではないか」
「誰もそんなことは頼んでないぞ」
「アホか。私の用意した慰謝料に手を付けず、そんな少ない貯金から下ろした金を工面して乗り切ろうなんて考えがクソ甘なんだよ」
店員から品物を受け取ったキャスティルは呆れた様子で乱暴に私へ手渡す。
彼女の言っていることは正論だ。
結局は香苗ちゃんに見栄を張ってカッコつけたところで、カッコ悪いところを見せるだけだった。
クソ甘のレッテルを貼られても致し方ない。
「ごめんなさい。立て替えてくれた分は私が……」
「お前さんはこのダメ亭主の暴走を止めて、手綱を引いていればいい」
「圭吾君はダメ亭主なんかではありません。少しおっちょこちょいですが、頑張り屋で笑顔が素敵な世界一の人なんです」
香苗ちゃんは私を擁護しながら、ダメ亭主の烙印を押されたことに強く反論する。
プロポーズとも取れる香苗ちゃんの告白に私は胸を打たれるような気持ちになってしまう。
これにはキャスティルもバツが悪くなったようで、面倒臭そうに頭を掻きながら言葉にする。
「……はぁ、お前さん達みたいなのをバカップルって言うんだ。その保護者をやっている私の身にもなってほしいものた」
愚痴にも似た言葉を吐くキャスティルは先程の支払いに使用したクレジットカードを使って旅先に必要な物を揃えろと言わんばかりに私へ預ける。
「お……おい! 待ってくれ」
「邪魔したな」
私は呼び止めようとしたが、キャスティルは捨て台詞のような言葉を放つと、私達に背を向けてその場を後にする。




