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第11話 買い物

 人通りの多い駅前の商店街に差し掛かると、しばらく商店街をブラブラ歩き回る。

 途中、ATMを見つめてお金を下ろすために立ち寄ると、旅費に必要なお金を用意しようとする。


「お金なら、お姉ちゃんが用意するからいいんだよ」


「これは夫としての責務だから、私にカッコつけさせてほしい」


 元々、この旅行は今まで苦労をかけた香苗ちゃんを労うためのものだ。

 これまでは妹の立場で甘えてきたが、こればかりは夫として譲る気はなかった。

 私の確固たる意志を汲んでくれたのか、香苗ちゃんは小さく頷いてくれた。


「わかりました。それじゃあ、お言葉に甘えて圭吾君にお任せします」


「うん、任されました」


 私は自信満々に胸を叩いて見せる。

 三十のオッサンだった時とは違い、柔らかい衝撃が私の手を包む。

 とてつもない違和感に襲われ、反射的に手を後ろに隠してしまった。

 香苗ちゃんに顔を胸に当てられた程ではなかったが、私にもあんな柔らかい感触のものがあるのかと関心を抱くのと同時に羞恥心が湧いた。


「ふふっ、じゃあ洋服から新調していきましょうか」


 私の反応を面白おかしく覗いている香苗ちゃんは私の手を引きながら、女の子が好みそうなアパレルショップへ入店する。

 今までの私なら、間違いなく場違いなところだ。

 香苗ちゃんと一緒じゃなければ、一生縁がなかっただろう。

 店の中はオシャレな雰囲気の調度品やBGMが流れている。

 店員は私達の入店に気付くと、店の奥から顔を出してきた。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


「妹に似合う洋服を選びに……」


「なるほど、妹さんのですか!? それでしたら、最近ニューヨークから入荷したばかりのこちらは如何でしょうか」


 グイグイとお勧めを紹介する店員に、私は前職の営業に携わっていた頃の自身が脳裏に浮かぶ。

 顧客に商品のアピールをするが、大抵は断られて失敗を繰り返してきた。

 そのおかげで、営業成績は毎月下位の位置が定番であり、ノルマ未達成の私は上司から叱責されるのもしばしばあった。

 この店員を見ていると、かつての私を見ているようで嫌なことを思い出してしまう。


「こちらで選びますので結構ですよ。何かありましたらこちらから呼びますので、その時はよろしくお願いします」


 最初は店員に気圧されていたが、香苗ちゃんは丁寧に意思表示をする。

 店員は笑顔こそ崩していなかったが、それ以上は何も言わずに会釈して店の奥の方へ引っ込んで行った。


「さあ、選んでいきましょう」


 香苗ちゃんは気持ちを切り替えて軽く両手を叩くと、私に似合いそうな洋服を厳選し始める。

 女の子の洋服はよくわからないので、ここは香苗ちゃんに任せることにする。


「とりあえず、これだけ試してみようかな」


 しばらくすると、数え切れないほどの洋服をカゴに入れて、香苗ちゃんは私を試着室に連れて行く。


「もしかして、これを全部着てみるのかい?」


「そうだよ。後は可愛い下着も選びたいから、他のお店も覗いてみたいな」


「あ……ありがとう。早速、試着していくよ」


 目を輝かせている香苗ちゃんに対して、とても嫌だとは言えない。

 私のために選んでいるのだから尚更だ。


(これは長丁場になりそうだな……)


 私は覚悟を決めて、用意された洋服を試着していく。

 それで香苗ちゃんの喜んだ顔が見れるのなら、私も()り甲斐があるというものだ。

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