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第10話 姉妹②

 姉妹という関係に慣れるための一環として、私と香苗ちゃんは今週末から旅行へ行くための必要な衣服等を揃えようと散策していた。

 服はいつもの一張羅でいいと思ったが、今の私は少女の姿をした飯島楓。

 飯島圭吾だった時の衣服はサイズが合わないし、女性物の下着に至っては香苗ちゃんの手を借りないと一人で揃えられる自信がない。


「私の古着だけど、丁度いいサイズがあってよかったよ」


 押し入れから、香苗ちゃんが学生時代に着ていた衣服から私が似合いそうな衣服を選んで着せてくれた。

 妻の古着を着ながら街中を歩くなんて普通なら考えられないことだ。

 人とすれ違う度に他人からの視線が気になってしまい、内心はビクビクしながら香苗ちゃんの手を握っている。

 まるで怯えた小動物のそれである。


「楓ちゃんはどこから見ても、可愛い女の子だよ。私とこうして手を繋いでいても、仲の良い姉妹にしか見えていないよ」


「姉妹か……そうだよね」


 私の心情を察してくれた香苗ちゃんは臆する私を励ましてくれる。

 昨今では趣味の一環として女装や男装を楽しむ人達もいる。

 あまり深刻に考えず、今の状況を楽しんだ方が心の平穏を保てるのかもしれない。

 それに、そのことで香苗ちゃんを心配させるのは不本意であり、申し訳ない気持ちになる。


「心配してくれて、その……ありがとう。お姉ちゃん」


「ふふっ、お姉ちゃんって呼んでくれて嬉しいな。そんな楓ちゃんが大好きだよ」


 香苗ちゃんは私の頭を撫でると、そのまま私を抱き締めて喜びに打ち震えている。

 人が往来する道の真ん中だったせいで、姉として妹を溺愛する姿はかなり目立ってしまっている。


「お姉ちゃん、前が全然見えないし少し苦しいかも」


 私の顔は香苗ちゃんの胸に思いっきり挟まれて柔らかい弾力が直に伝わる。

 これでは水中で顔を潜らせているのと変わらないが、水中と違う点は何とも言えない良い匂いが私の鼻孔を刺激する。


「あらあら、ごめんなさい。つい嬉しくなって加減ができなかったね」


 香苗ちゃんは慌てて離れると、私の乱れた髪を軽く整えてくれた。


(私は何やっているんだ……)


 仮にも妻であり、姉でもある香苗ちゃんに妙な興奮を覚えてしまった。

 それが罪悪感として圧し掛かると、香苗ちゃんの純粋な気持ちに水を差してしまうような気がしてならなかった。


「ほら、私は大丈夫だから早く行こう」


「あっ、楓ちゃん。待ってよ」


 私は悟られないように足早になって歩き出すと、香苗ちゃんは私を呼び止めようとしながら追いかける。

 その姿は傍から見れば、本当に姉妹のようだ。

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