第九話 採取依頼とからみ酒
重さ、長さ等の単位は日本基準だと思ってください。
三人がバッソの店を出るとテルモが三人を見送る。
「また来てください!」
テルモの言葉に手を上げて返す三人はそのまま南に歩き出す。
バラックはふと思ったことをニックスに尋ねた。
「そう言えばあの店、店番はいねぇのか。二人とも店の奥にいて商品を置きっぱなしじゃ不用心じゃねぇか?」
「いいえ、いつもはバッソさんの奥さんが店番をしてるはずですよ。たまたま出掛けてたのでしょう」
バラックの質問にニックスは答える。
「ふ〜ん、それじゃあのテルモって子はバッソさんの子供なのか?」
「いえ、バッソさんのお子さんはすでに独り立ちして他の町で鍛冶屋をしているそうです。あの子はスラム街で育ったそうですがバッソさんの所に熱心に何度も頼み込んで弟子にしてもらったそうですよ」
「へぇ〜、根性のある奴は嫌いじゃねぇな」
そんな話をしていると宿屋の近くまで来ていた。
「それじゃあ僕は宿に戻ります」
「ああ、助かったぜ」
ニックスはそう言うと宿屋に戻って行く。
それを見送った二人は冒険者ギルドに向かう為再び歩き出す。
「…それで何でお前はその店に入ろうとしてるんだ?」
「いや…体が勝手に…」
途中、昨日も入ろうとした魔道具屋の前でフリードの腕を掴むバラックとそんなやり取りをしながら無事ギルドに辿り着いた二人。
中に入ると依頼を受けるため受付に並んでいる冒険者はまばらだったがテーブルを囲んで朝から酒を飲んでいる者が依頼を受ける者より明らかに多かった。
取り敢えず二人は依頼が貼られている掲示板の前に行き、どんな仕事があるか確かめる。
するとやはり昨日のニックスが言った通り薬草等の採取依頼やカーナーシャでの外壁補修や建材の運搬等の職人の手伝いをする依頼、後は探し物を見つける依頼等低ランクの冒険者がやる仕事ばかりであった。
「…やっぱりニックスが昨日言ってたやつばっかだな」
低ランクができる依頼は受け取る金額も少ない為バラックは落胆する。
「それはわかっていた事だろう」
「まぁそれはそうなんだけどよ…」
フリードは落ち込むバラックに事実を告げるといくつかある採取依頼を吟味する。
「取り敢えず…これとこれが良さそうだ」
フリードが掲示板から依頼を剥がし受付に持って行こうとすると二人に声が掛かる。
「おーおー!貧乏人は大変だねー!朝からその程度の依頼を必死に受け持っちゃって!」
「可哀想だろ!この程度の依頼しかできない奴らなんだろうだからさ!」
「「ぎゃははは!!」」
二人が振り向くと五人の男達が酒を飲みながらこちらを嗤っていた。
フリードが五人が囲んでいるテーブルに近付こうとするとバラックが肩に手を置き止める。
「(お前は先にその依頼を受付に持って行ってくれ。あいつらは俺が話すからよ)」
「(わかった)」
二人は小声で話すとフリードは受付に、バラックは五人に近付く。
「そう言う兄さん方は随分と景気が良さそうだな」
バラックはそう言いながら五人の出で立ちを確認する。
一人は三十前後の髪のない男。格好は斥候をしているのか軽装で腰にナイフを刺している。
一人は二十半ばの男。顔に傷があり黒髪を立たせ、2m程の槍を持っている。
一人は同じく二十半ばの男。金髪の気障っぽい感じでこちらは弓を持っている。
一人は狼の獣人。二足歩行をする狼と言ってもいい。手足は人と同じ五本指なようで、バラックと同じ様な剣士の格好でロングソードを差している。
最後の一人は猫の獣人。こちらは顔は人と同じだが耳が猫の耳で頭の上にある。重鎧をしている事から重戦士であろう。
(見た感じ腕に覚えがありそうだな)
バラックがそんな事を思っているとハゲた男がニヤニヤと見下すように発言してくる。
「ああ。お前みたいな図体だけな奴とは違って俺達は強くて稼いでるからな」
「(初めて会う奴によくこんなデケェ口叩けるな…)ふ〜ん、なら稼げるコツってやつを聞いてみてぇな」
バラックは和かな顔をしながらテーブルに置いてあるツマミを口の中に入れた。
「てめぇ!何勝手に食ってやがる!」
狼の獣人がバラックを睨みながらテーブルを叩く。
「別に稼いでるんだからちょっとぐらいいいだろ?それとも何か、兄さん達はこの程度も許せない器の小さい、しみったれた奴らなのか?」
「ぐっ!?」
バラックにそう言われた狼の獣人は言葉に詰まる。
「ぷっ、言われてやんの」
すると二人のやり取りを聞いていた他のテーブルにいる冒険者達がクスクスと笑っている。
狼の獣人がそちらを睨むと慌てて冒険者達は目を逸らす。
「興が醒めた。さっさと消えろこのデカブツが」
「へいへい。今度は何か奢ってくれよ兄さん方」
バラックは受付の方に歩きながら背後の五人にひらひらと手を振った。
「てめぇ覚えとけよ」
そんな恨み節を聞きながら受付のカウンターへバラックは向かい、既に手続きをしているフリードに声を掛けた。
「手続きはもう終わったかい?」
「今あそこでしている途中だ」
フリードが指差した方を見ると、台の上に水晶玉が付いたような魔道具を受付の女性が使っていた。
その魔道具は何百年も前の賢者がギルドの為に作ったと云われる物である。
まず、この魔道具の本体はそれぞれのギルドの本部にあり、各地に子機が存在する。子機はギルドカードを所持する者の情報を書き込む事ができ、又その情報を本体に送る事ができる。ただし、子機同士には送る事ができない。
本体は子機から送られた情報を受け取るができ、その情報を各地にある子機に送る事ができる。これによりギルドは情報を共有することができるようになる。
更に賢者はこの魔道具の設計図を遺していたので大陸中にこの魔道具は増えていった。現在は本体の設計図の原本を冒険者ギルド本部が、設計図のコピーを商業ギルドを始め様々なギルドの本部が持っており、子機の設計図は大都市にある各ギルドが各々持っている。
「…あの魔道具一つ貰えないだろうか…」
「流石に止めろよ。相棒を牢屋にぶち込みたくはないぞ」
フリードがよからぬ事を考えていそうなのでバラックは忠告をするのであった。
「それでさっきの奴らは如何した?」
「な〜に、適当にあしらってやったさ。嫌だねぇ、ちょっとつまみ食いしただけで怒っちゃって。器が小さい奴らだね〜」
「…昔おかずを少し貰っただけで烈火の如く怒った奴がいたんだが?」
「さて、何のことやら?おっ、戻ってきたぞ」
フリードがジト目でバラックを見るが当の本人はとぼけて流した。
そこに受付の女性が戻ってきた。その女性は昨日も対応してくれた人であった。
「お待たせしました。こちらギルドカードを返却します。パーティーでの採取依頼頑張ってきてください」
笑顔で応対してくれた受付にバラックは質問する。
「受付さん、昨日は宿の案内ありがとさん、いい所だったよ。ところであそこで飲んでる狼の獣人がいるパーティーはこの町じゃ結構ランクが高いのかい?」
「気に入ってくれたのなら何よりです。それでどちらのパーティーの方ですか?…ああ…“餓狼”の方々ですか…。あの人達は腕っ節は良いのですが色々と態度が良くないんですよね。」
受付のカウンターからテーブルの方を覗くと女性は顔を曇らせた。
「へぇ、問題児ってやつかい?」
「そうなんです。銀級に上がる腕はあるのですがその態度の悪さで色々と問題が起きるので未だに銅級から上がれないんですよ。そのせいで本人達も腐っちゃって…自業自得ではあるのですが…」
「なるほど…いや、よく分かったよ。ありがと受付さん」
「私の名前はエリサです。今度からは受付さんじゃなくて名前で呼んでくださいね」
「ああ、分かったよエリサさん。それじゃ採取依頼頑張ってきますわ」
「はい。気をつけてくださいね」
笑顔で見送るエリサに手を上げると二人はギルドを出るのであった。
「まぁ頑張るのは私なのだが…」
「そう固いこと言うなって」