第五話 やはりベッドはいいものです
エスカディア王国最東端の町カーナーシャ。この町は王国内で最も新しく編入された町の一つであり、現在
の領主はバルクス子爵という貴族である。
人口は約六万五千人おり、王国の東を治めているシールドバーク辺境伯の派閥中では八番目に大きい町である。
隣国『マレー王国』からの侵攻を抑える為の最前線の町として領兵が七千人、有事には最大一万二千人を徴集することができる。
しかし、先代の王から対外政策を侵略路線から融和路線に切り替えた為にマレー王国と―は友好関係であり戦争はなどは起こらず、現在は対魔の森から領民を守る為に働く兵士達である。
「へぇ〜、結構賑わってんな」
「あぁ、そういえば君はこの町は初めてだったな」
門の中へ入り、初めてカーナーシャの町へ来たバラックは人通りの多さを見てそう呟く。
「おや?バラックさんは初めてこの街に来たのですか。では簡単に町の説明をしましょう」
ロイドの説明によるとカーナーシャの南側は領主邸を始め騎士達の住居や兵舎、訓練所等の軍の関係者の建物が建つ。
街の中心部には町を一望できる塔が建っていて、そこから放射状に商店が建ち並び、冒険者ギルドや商人ギルドの建物も塔の近くに建っている。また塔の頂上は展望台になっており、庶民や観光客に人気のスポットとなっている。
塔から北に進むと西側に職人達の建物があり、北西は庶民の住居が建ち並ぶ。
逆に東側には歓楽街が存在し、そこから北東に進むとスラム街になっているとのことだ。
「なるほど。じゃあ取り敢えず中心部にあるっていう冒険者ギルドに向かうか」
「そうだな」
「私の店もそちらの方にあるので途中までご一緒しましょう」
説明を聴いた二人はとりあえず冒険者ギルドに向かうことにし、ロイド達も同行する。
ロイドが二人に街の案内をしながら進むと人通りが更に多くなり、賑やかになっている。
そんな街並みを二人はキョロキョロと見ながら歩いていると、とある曲がり角でロイドが声を掛けてくる。
「私の店はここを曲がった所にありますのでここでお別れです」
「あぁ、ありがとなロイドの旦那、街の案内までしてくれて」
「本当に助かったよロイド殿」
「いえいえ、こちらこそ楽しい時間でした。あぁそうだ。これは些少ですが」
そう言うとロイドはバラックに袋を渡してくる。バラックは中身を確認すると銀貨が十枚以上は入っていた。
「旦那、これは受け取れねぇよ。俺達は大したことはしてねぇ」
「そんなことありません。お二人がいなければ私達は小鬼達に殺されていたでしょう。それを考えると少ないくらいです。しかし、手持ちが今はこれぐらいしかありませんので」
そう話すロイドにバラックは本当に貰っていいのか悩む。
「ラック、折角のご厚意だ。貰っておこうじゃないか」
「…それじゃ有り難く貰うわ。旦那すまねぇな」
フリードやの説得によりバラックは銀貨を受け取り、ロイドも報酬を受け取ってくれたことに微笑む。
「それじゃ旦那、落ち着いたら旦那の店にも行かせてもらうわ。嬢ちゃんもまたな」
「はい。その時はサービスさせて頂きますよ」
「ばいばい!ラックおにいちゃん、リードおにいちゃん!」
「ああ、また今度」
ロイド達は自分の店へと帰って行った。その二人を見送ったバラックとフリードはロイドから貰った袋の中をちゃんと確認すると銀貨ぎ二十枚入っていた。護衛の依頼料は最低でも銀貨五十枚から相場よりは少ないが今の二人にはとても貴重である。二人はロイドの厚意に感謝するのであった。
その後二人は再び冒険者ギルドへと向かう。街の賑わいを眺めながら暫く歩くと中心部の塔に辿り着いた。
「でけぇなこの塔」
「塔はまた今度でいいだろ。そんな事より、早く冒険者ギルドに行くぞ」
「おぉ、そうだった」
塔の大きさに驚くバラックをよそにフリードはさっさと冒険者ギルドに向かい、慌ててバラックも向かう。
そしてギルドに着いた二人は扉を開けると中から騒がしい声が聞こえてくる。ギルドの中は酒場と併設されていて、既に多くの冒険者が飲んでいた。
そんな騒がしい声を聞きながらも二人は受付へと辿り着く。
「いらっしゃいませ。本日のご用件は?」
「旅の途中で小鬼を討伐したので魔石を売りたい。此方が討伐証明だ」
フリードは鞄からロイドが斃した小鬼の分を含め魔石八個と右耳を取り出す。
「承りました。えっと、どちらで討伐を?」
「この町から西側の場所だが、周辺の地図はあるだろうか?」
「はい。少々お待ち下さい」
受付の女性が地図を持ってくる間にバラックは周りの馬鹿騒ぎをしながら飲み食いをしている冒険者達を見渡す。
「景気が良さそうだな」
「そうだな」
すると受付が地図を抱えて戻ってきて、机に地図を広げる。
「お待たせしました。それで討伐した場所は?」
「ここが町でここが森だから…大体この辺りの街道だ。それとこの野営地の周辺の森の中で小鬼達の反応があった」
地図を見て討伐した場所を指差すフリード。それを見て受付は頷く。そこにバラックが質問をする。
「この間大討伐をしたそうだがそりゃいつのことだい?」
「たしかあれは…十一日前のことですね」
「その期間の割にゃあ小鬼の出没数が多い気がするから気をつけた方がいいかもな」
「わかりました。一応後でギルド長に報告させていただきます。それとこちらが魔石の代金です。一つ銅貨五十枚なので合計で銀貨四枚です。」
「ああ、わかった」
フリードは銀貨を巾着に入れると鞄にしまい、バラックはもう一つ尋ねる。
「受付さん、俺達あんまり金持ってなくてよ。この街で安くてオススメの宿屋を教えて欲しいんだがよ」
「それでしたら“小鳥の宿木亭”が良いですね。現在依頼が少ないのでここを拠点としている冒険者の皆さん以外あまりいませんので空いてると思います。ここから北に少し歩いた場所にありますよ」
「小鳥の宿木亭ね、あんがとさん」
そうして二人はギルドを出て教えてもらった宿へと向った。途中魔道具屋があり、フリードが突撃するのをなんとか抑えながらも十分ほど歩くと宿に着いた。
中に入るとカウンターに十四〜十五歳の少女が座っていて元気に応対してくる。
「いらっしゃーい!お泊まりですか?」
「ああ。一泊いくらだい?」
「一人部屋なら銀貨二枚、二人部屋なら銀貨三枚。四人部屋は他の方がいるので無理です。そこから朝、夕のご飯を付けるなら銅貨五十枚が足されます。更に銅貨五十枚足すとご飯が少し豪華になりますよ」
「わかった。ちょっと待っててくれ」
二人は相談をする。
「どうするよ?」
「もちろん飯は豪華にしよう」
「まぁそう言うと思ったわ。俺も同感だしな」
二人は決めると少女に話す。
「二人部屋で飯は豪華にしてくれ。取り敢えず四泊で頼む」
「わかりました。そうすると一泊銀貨四枚だから…銀貨十六枚ですね!」
「一、二…ちょうど十六枚だ」
「…はい、確かに。それではお部屋に案内しますね」
小鳥の宿木亭は四階建ての宿屋で一階が食堂、二階が一人部屋、三階が二人部屋、四階が四人部屋となっている。少女の案内に付いて行く二人は三階に辿り着いた。
「奥の三〇一が二人のお部屋になります。こちらが鍵ですね。外出する時は鍵をお返し下さいね。それともう少ししたら夕食になりますので、できたらお呼びしますね」
「わかった。ありがとう」
一階に戻る少女を見送ると二人は三〇一の部屋へと入り荷物を下ろすとベッドに寝転んだ。
「はぁ〜、やっぱり屋根があってベッドで寝れるってのは最高だな」
「全く同感だ」
二人はそう言いながら旅の疲れを癒す為ゴロゴロとするのであった。
暫くの間寛いでいると受付の少女が部屋の外から声が掛かる。
「夕食が出来たので一階に降りて来てくださ〜い」
「おぉ、あんがとさん」
少女が階段を下りる音を聞いてから二人はベッドから起き上がる。
「それじゃ行きますか。あぁ〜、腹へった」
「そうだな。一体どんな料理な出るか楽しみだな」
夕食を楽しみにしながら二人は部屋を出て一階の食堂へと下りていった。