第四話 町に到着
翌朝、日が昇る頃にロイド達親子が起き出したのでフリードはバラックを起こしに行く。
「ラック。朝だ。起きろ」
「んん〜。もう朝か〜」
起こされたバラックはノビをすると起き上がりフリードに尋ねる。
「俺の時は気配を感じなかったがどうだ?」
「あぁ、君が寝て暫くした後に森へ魔力探知をしたのだが三匹ほど気配を感じた。恐らく小鬼達であろう」
「本当か!?なんだかおかしくないか?」
「そうだな。何も起きなければ良いが…」
討伐を行った森にこんなにも早く小鬼が増えている事に二人は不穏な空気を感じる。
「お二人共、おはようございます」
「おはよ〜、おにいちゃん達」
すると二人の所にロイドとクレアが挨拶にきた。
「おはようさん旦那、嬢ちゃん。よく眠れたかい?」
「はい、おかげさまで元気です」
「あたしはまだ眠い〜」
「寝る子はよく育つと言うがクレア殿は昨日からよく寝るな」
護衛のおかげで見張りをすることが無くなり、よく眠ることができたロイドとまだ眠そうにしているクレアに挨拶をすると二人は朝餉の準備を始める。準備とは言うものの残っている食べ物が黒パンと干し肉ぐらいしかなかったのだが。
「昨日のスープに具材を入れすぎたな」
「まぁ、今日には町に着くから少し我慢してくれ」
護衛が依頼主に物乞いをする訳にはいかないと見栄を張った二人は貧しい朝餉を食べるとまだ朝餉を食べているロイド親子を横目に後片付けをして町に向かう準備をする。
すると野営地で泊まっていた馬車の一台が町に向けて先に出発する。その馬車の護衛をしていた冒険者の一人が手を挙げてきたのでバラックも挙げ返す。
「どうした、知り合いか?」
「昨日お前が寝てる間にちょっと話しただけだよ」
昨日の夜バラックは同じく護衛をしていた冒険者に話を聴いていた。
「いったい何の話をした?」
「さっきの奴がいたパーティーはカーナーシャから来たんだが、今あの町は例の討伐のせいで依頼が少なくなってるってよ」
「それはそうだな」
「そうだなじゃ無ぇよ。俺達金が無ぇんだから着いたら大変だぞ」
カーナーシャに着いてからの心配をするバラック。
「それは大丈夫だ。まだ採取の依頼が残ってる筈だ」
「採取の依頼っておまえ、薬草を探すのがどんだけ大変だと…、あぁ、そういえばそうだった」
「あぁ、だから君はそんなに心配することは無い」
自信満々のフリードの発言に納得するバラック。
そんな話をしているとロイド親子も朝餉を食べ終わり、町への出発準備をする。
「旦那、カーナーシャには後どれぐらいで着くんだ?」
「そうですね。今から出発すれば夕刻前には到着すると思います」
フリードが懐中時計で時間を確認すると長針が7を指していたので早くても後9〜10時間ぐらいの旅路である。
「そうかい。旦那ももう準備が終わりそうだしチャッチャと行くことにしようか」
そう言うとバラックは柵に繋いでいる馬達の所に向かう。
「すまないなロイド殿。あいつはせっかちなんだ」
「いえ、私達も準備は終わってますので大丈夫ですよ」
戻ってきたバラックはロイドと共に馬達を軛で荷台と繋ぐと御者席に座る。
「それでは出発!」
「しゅっぱ〜つ!」
荷台に乗ったフリードとクレアを確認するとバラックは号令をする。それにクレアが元気よく答え、馬車はカーナーシャへと走り出した。
馬車は襲撃されることもなく順調に走っているとクレアはフリードにお願いをしてきた。
「リードおにいちゃん、何か魔法を見せて〜」
「魔法をか?良いとも。さて何の魔法を見せようか?」
クレアのお願いにフリードは快く応える。
「…良し、これにするか。《水球》」
フリードは水の球を作るとそれに魔力を流し更に形を変える。そうして出来上がったのは水の魚だった。
「うわぁ〜、お魚さんだ」
水の魚はクレアの周りを泳ぎ、その魚を見て喜ぶクレア。ロイドは御者席からその光景を見るとフリードに尋ねる。
「面白い魔法ですね。…昨日は慌てていたので気付きませんでしたが小鬼達に使った魔法、詠唱をしていませんでしたよね?」
「ああ、私は水系統の魔法とは相性が良くてね。ある程度の水系の魔法は詠唱を破棄できるのだよ。」
ロイドはフリードの説明に驚く。自分の懇意にしている魔法使いを始め今まで護衛をしてくれた魔法使いは皆詠唱をしていた。そのことを考えるとフリードは魔法使いとして一流なのではとロイドは思った。
更にフリードは腰から杖を取り、ロイドに話す。
「詠唱破棄は魔法の威力が落ちる。しかし、この杖を使うと呪文を唱えるのと変わらない威力を出すことが出来るのさ」
そう言うと杖を構え《水球》と唱えると先程よりも大きな水の球が浮かぶ。更に杖を振ると水の球は魚の形となり、クレアの元へ飛んでいくと二匹の魚が楽しそうに泳ぐ。
「あはは。お魚の親子だ!」
クレアはその光景を見てはしゃぎ、フリードは自らの魔法の出来栄えに満足そうに頷く。ロイドはその光景を呆然と見ていた。
「旦那、こいつ結構すごいだろ。でもこの間、飲み屋の姉ちゃんに同じこと頼まれてよ。張り切りすぎて店ん中水浸しにしてんのよ。その後店の人に滅茶苦茶怒られてな…」
「その話は止めてくれラック。それ以上言うと君の話もしなければならなくなる」
「へいへい」
バラックはフリードの失敗談を笑いながら話し、フリードは恥ずかさで顔を赤くし、バラックを脅すように止めた。その話を聞いたロイドはその光景を想像し少し笑ってしまった。
その後休憩を挟みつつクレアのおねだりで魔法ショーをしたり、ロイドと雑談をしながら馬車は走ると気付けばカーナーシャの門の近くまで来ていた。
「ふぃ〜、やっと着いたか。」
後は門を通るだけなので一息つくバラック
「お二人共ありがとうございました。おかげで楽しい時間になりました」
「こちらこそ魔物も出なかったのでタダ乗りをしてしまったみたいで申し訳ない」
「そんなことありませんよ。クレアの面倒を見て下さったではないですか」
無事辿り着いたことに感謝をするロイドに謙遜するフリード。
馬車が門に近づくとそこにはカーナーシャに入る為に待っている人が数人と数台の馬車があった。暫く待つと四人の番になる。
「この町には何の用で?」
門番が問いただす。
「私はこの町の商人です。後ろの子は私の娘でこの二人は冒険者です。護衛として雇いました」
「証明できるものは?」
「こちらです」
ロイドは商人ギルドのギルドカードを出し、二人も冒険者ギルドのギルドカードを出す。
「…確認しました。お帰りなさい。そしてようこそカーナーシャへ」
カードを確認すると門番は笑顔で出迎えた。
そして馬車は門を通り、バラックとフリードはようやくはカーナーシャの町に着くことができた。