第二話 旅は道連れ
「先に行く!」
「分かった!」
バラックはフリードにそう言い残すと先に荷馬車へ向け走り出した。
「(敵は小鬼、残ってる数は一、二…七匹か。後は武器が…棍棒と剣だな)」
小鬼達の陣形は前に三、両側面に一ずつ、後ろに二匹で馬車を囲んでいた。
「(二人の様子は…商人の旦那は一匹は斃しちゃいるが片腕を押さえるってことは怪我をしてるな。嬢ちゃんの方はと…っこれは不味い!)」
商人は護身用の剣でなんとか前方にいる一匹を斃していたが三匹の小鬼に隙を突かれ右腕を切られていた。
そして、後方の一匹が今にも荷台に乗ろうとしており、その小鬼の姿に震える少女を見てバラックは大声で叫んだ。
「うぉらあぁぁ!!」
その声に驚いた小鬼達は一斉にバラックの方に顔を向けた。
その間になんとか荷馬車に辿り着いたバラックはショートソードを抜いた。
「嬢ちゃん!怖かったら目を瞑って耳を塞いどきな!」
少女はバラックの言葉に従い、目を瞑り耳を塞ぐ。
それを確認したバラックは小鬼達と相対した。
小鬼達は突然現れたバラックに敵意を剥き出しにし、荷台に乗ろうとした小鬼と後方にいたもう一匹がバラックに襲い掛かった。
「ギイィ!」
一番近くにいた小鬼が棍棒を振り下ろしてきたがバラックは右へ足を一歩踏み出すと半身になって躱し、隙のできた首の後ろを剣を振り下ろし斬った。
「ギィガァ!」
首を斬られた小鬼が斃れるのと同時にもう一匹が跳躍をし、脳天へ向け剣を振り上げたがバラックは隙だらけの胴体へ剣を返し、斬り上げて斃した。
その早業を見た小鬼達は後退りをしバラックに対し恐怖心を顕にする。
そんな小鬼達がバラックにかまけている隙に追いついたフリードは杖を構えた。
「《水矢》!」
するとフリードの杖の先に数本の水の矢が現れ、両側面の二匹の小鬼に向かい、勢いよく飛んでいった。
「ギャッ!?」
「ギョエ!?」
水の矢は二匹の頭や胸に刺さり、小鬼はなす術もなく斃れ。
瞬く間に形勢が不利となった残りの三匹は慌てて背を向け逃げ出したがバラックは一匹に素早く近付き背中を袈裟斬りし、フリードも再び杖を小鬼達に構えた。
「《水槍》!」
二本の水の槍が生まれ飛んでいくと二匹の背中に刺さり、倒れた小鬼達はそのまま動かなくなった。
戦闘を終えたバラックは自らの剣を見る。
「そろそろ鍛冶屋に見てもらった方がいいか」
今まで愛用していたショートソードにガタがきていると感じたバラックはそう呟くと血振りをして鞘へ納め、腕を押さえている商人に近づく。
「旦那、大丈夫か?」
「ええ、なんとか。剣士様ありがとうございました」
「なぁに、気にすんな。それより怪我を診せてみろ」
バラックは怪我の具合を診るとどうやらそこまで深い傷ではなかった。
「この程度だったら、おーい、リード。ちょっと旦那を治してやってくれ。」
「わかった」
杖を腰に差し戻したフリードは商人へと歩み寄り、怪我を確認すると片手を右腕の前に出す。
「《水》」
「…っ!」
傷口を洗い流し、今度は両手を前に突き出し魔法を唱える。
「光よ、彼の者の傷を癒せ。《光の回復》」
すると商人の傷は徐々に塞がり傷跡は全く見えなくなった。
「ありがとうございます魔法使い様。怪我を治して頂きまして。」
「なに、素人に毛が生えた程度の回復魔法だ。気にすることはない」
少し照れてそう言葉を返すフリードを他所にバラックは荷台に乗り、未だに目を瞑っている少女の肩を軽く叩くと目を開けた少女に優しく語りかける。
「嬢ちゃん、もう大丈夫だ。悪い魔物は全部俺達が斃したからよ。それとまだ死体が残ってるからあんまり周りを見ちゃダメだぞ」
「わかった!ありがとうおじちゃん!」
「おじっ!?」
おじちゃんと言われショックを受けたバラック。
「嬢ちゃん、おじちゃんじゃなくてお兄さんな!」
「わかった!おにいちゃん!」
そんなやり取りをしているとフリードと商人も此方へ来たのでお互いに自己紹介をする。
「俺がバラック。こいつはフリードだ」
「私はカーナーシャで商人をしているロイドと申します。この子は私の娘でクレアと言います」
自己紹介を終えた四人はそれぞれが行動に移した。
バラックは小鬼達の死体を一ヶ所に集めるために回収に行き、フリードは荷馬車から少し離れた場所に死体を埋める穴を掘りに行く。
ロイドは興奮している馬達を宥めに行き、残されたクレアも死体を見ないようにしながら荷台が壊れていないか確認をした。
バラックは討伐証明のために小鬼達の右耳を切り取り、心臓部付近から魔石を取るとフリードの近くに死体を運んだ。
「土よ、穴を空けろ。《穴》」
フリードは魔法で穴を掘ると死体を穴へ放り投げる。しばらくして全ての死体を穴に投げ入れると再び魔法を唱えた。
「火よ、燃やせ。《火》」
亡者にさせない為に死体を燃やしたフリードは燃える死体を見ていたバラックに小声で相談をする。
「(ラック、上手く交渉すればロイド殿の馬車に乗せてもらえるのではないか?)」
「(あぁ?…なんで護衛を付けてねぇのか聞いてみてからだな。事情があるかもしれない)」
バラックはそう言うと馬車の近くでクレアと話しているロイドの方へ歩み寄る。
「ロイドの旦那、なんで護衛を付けてねぇんだ?」
「いやはや、お恥ずかしい話なのですが隣町で懇意にしている冒険者さんがたまたま不在でしてね。ならこの間の大討伐で魔物がいなくなって安全だと思いまして出発しましたら、まさかこんなことになるとは…」
その話を聞き、特に込み入った事情はないと分かったバラックはフリードの方を振り向き、一つ頷くとロイドへ交渉を持ちかける。
「そりゃ災難だったな。ところで旦那、ここで相談なんだが、一応俺達も銅級冒険者でその辺の奴らよりは強いと思ってる。だから護衛として雇ってみねぇか?」
「お二人をですか?う〜ん…」
ロイドが考えてる所にバラックは話を続ける。
「別に護衛料が欲しいって訳じゃねぇんだ。こっちの事情として、あそこにいる馬鹿が馬車代を使い込んで乗れなくなっちまったからカーナーシャまで歩くことになったんだ」
「そうなのですか?」
「ああ、だからいい加減馬車に乗って早く町に着きたいんだよ。それに俺は御者もやれるから旦那を楽させることができる」
バラックの話を聞いたロイドは下を向き少し考える。
「…そうですね。ここで断る理由はありませんので護衛をお願いしたいと思います」
「おぉ!あんがとな旦那」
バラックは振り返り、フリードに親指を立てると満面の笑みを浮かべ、改めてロイドとクレアに挨拶をする。
「そんじゃ改めてよろしく頼むぜ旦那。気軽にラック、リードと呼んでくれや」
「はい、よろしくお願いします。ラックさん。リードさん」
「嬢ちゃんも少しの間だがよろしくな」
「うん!よろしくね!ラックおにいちゃん、それとリードおにいちゃん」
いつの間にかバラックの後ろに立っていたフリードもクレアの挨拶に笑みで答える。その後、フリードは荷台に乗せてもらい、バラックは御者をするロイドの隣に座り馬車は走り出した。
こうしてカーナーシャへ向かう旅は二人での徒歩旅から四人での馬車旅となるのであった。
適当な設定集②
冒険者ランク
木級= 新人
石級= 半人前
鉄級= 一人前
銅級= 熟練者
銀級= 半一流
金級= 一流
聖銀級= 超一流
聖金級= 英雄
お金の単位= メルク
通貨
石貨=1メルク
銅貨=100メルク
大銅貨=1000メルク
銀貨=1万メルク
大銀貨=10万メルク
金貨=100万メルク
大金貨=1000万メルク
白金貨=1億メルク