第十二話 良品質はお値段以上です
「よし。これだけ採れば十分だろう」
フリードは最後に採ったリリ草を束にし糸でくくると満足そうにそう言った。
「ん?終わったか?じゃあ早く戻ろうぜ。腹減っちまったよ」
辺りの警戒をしていたバラックはフリードの言葉に依頼の終了と町に戻れる事に喜ぶ。
フリードが薬草を鞄に入れている姿を見てバラックは質問をした。
「それにしてもかなり採ったな。こんなに採ったらこの辺の薬草が直ぐになくならないか?」
「なに、リリ草の繁殖力は凄いから大丈夫だ。まぁ十日程もすれば元通りになるだろう。しかも、この間の大討伐で草食の魔物もほとんどいない。おかげでこんなに群生している場所は中々ないぞ。暫くは安定して量が取れるさ」
フリードはバラックの問いに答えると大きく伸びをした後、腰を叩く。
「流石にこんな時間までやっていると腰が痛くなるな」
「ま、そのおかげで依頼料は稼げそうだけどな」
「厳選したからな。そこは期待してもらってもいいぞ」
二人はそんな掛け合いをしながら森を出るため歩き出す。
バラックは辺りの警戒をしながらまたフリードに質問をする。
「そういえばリード、薬草に魔力を使っていたがまだ魔力の方はは大丈夫か?」
「ああ、全く問題ない。薬草をコーティングする為の魔力など微々たるものだ。それに私の魔力量の多さは国でも屈指と言われた事もあるのだよ」
フリードはバラックに答えながら自慢げに胸を張る。
「へぇ〜そうかい。まぁそれが本当だったらすげぇな」
バラックはフリードの言葉をあまり信用せずに適当に返事をする。
「むっ、ラック。君は信用してないみたいだな」
「いや、だってな〜。お前の国ってたしかミドガル魔導国だろ。あんな魔法使いしかいなさそうな国でお前が屈指って言われてもな〜」
「ぬぅ。真の話なのだが…君にもっと凄い魔法を見せる機会がないのが残念で仕方がない」
バラックの少し舐めた態度に悔しがるフリードであった。
その後暫く他愛無い話しをしながら歩いていると急にバラックが立ち止まった。フリードはそんなバラックに問いかける。
「どうしたラック?急に立ち止まって」
「…さっきいた方から何かが走ってくる気配がする」
バラックは先程までいた西側を指差す。フリードもそちらに耳を澄ますがまだ音は聞こえなかった。
「確かか?」
「ああ。間違いない。リード、解体用のナイフを出してくれ。この剣を使いたくない」
いつ壊れてもおかしくないショートソードを使いたくなかったバラックはフリードの鞄からナイフを出してもらう。
その頃にはフリードの耳にも森を走る音が聞こえ、杖を抜き構える。
すると一匹の小鬼がこちらに向かい走ってくるのが見えてきた。
「なんだ、やっぱり小鬼か」
バラックがそう呟くと小鬼も二人の姿を確認したのか棍棒を振り上げながら近づいてきたが顔を見るなり露骨に肩を落としがっかりした雰囲気を出す。
「…なんかこいつムカつくな」
「大方女性冒険者を襲うつもりが違っていたからだろう」
小鬼の態度が気に食わないバラックと推測をするフリードであった。
落胆していた小鬼は気を取り直し二人を睨み威嚇の声を出すが攻撃をしてこなかった。
その小鬼の行動に二人はすぐに察する。
「小鬼のくせにちったぁ頭を使うじゃねぇか。リード!」
「大丈夫だ。すでに感知している。《水矢》」
フリードの出した五本の矢は目の前の小鬼には向かずフリードの横にある少し離れた茂みに飛んで行く。
「グギャアアァ!!!」
「ギィエエェ!!!」
水の矢は敵に刺さったようで二体の断末魔が聞こえてきた。
「ラック、残りの敵は目の前の合わせて八。横の茂みに三、残りは前の小鬼の後方二十m付近にそれぞれ木に隠れているぞ」
「よっしゃあ!そっちは任せたぜ!」
バラックはそう言うと目の前にいる小鬼に向けて走り出し、小鬼もまた仲間を殺された事に激昂しバラックに向けて棍棒を振り下ろす。バラックは棍棒を躱し小鬼の首にナイフを突き刺し、小鬼は力が抜けた様に倒れる。
「よっと、これは使わせてもらうぜ」
倒れる小鬼の棍棒を左手で掴み、胴体に蹴りを喰らわせ瀕死の小鬼を吹き飛ばす。
バラックが吹き飛ばしすのと同時に横にいた三匹の小鬼が茂みから出てきてバラックに向かってきた。
バラックは右手に持っていたナイフを牽制の為投げると運良く一匹の顔に刺さり斃した。
「おっ、ラッキー」
仲間が斃された事に一匹が驚き立ち止まり、もう一匹はそのままバラックに向かってくる。バラックは棍棒を両手に持ち小鬼が武器を振り上げるより速く全力で顔面を叩き吹き飛ばした。更にバラックは怖気づいた残り一匹の脳天へ棍棒を振り下ろし斃したが同時に棍棒も砕けてしまった。
「なんだこの棒。意外と脆いな」
そういうとバラックは棍棒を放り捨てた。
一方その頃フリードはバラックが目の前にいた小鬼に向かい走り出した時と同じくして木に隠れている小鬼達に向かい魔法を唱えていた。
「《水霧》」
フリードの魔法により小鬼達の周りに濃霧ができ、近くの仲間も確認できなくなった小鬼達は混乱する。そこにフリードは更に魔法を唱える。
「《水幻覚》」
フリードはこの魔法で自らの幻影を五体生み出しそれぞれの小鬼を襲わせる。小鬼達は現れた幻影を攻撃すると幻影は掻き消え再び目の前に現れた。フリードはそれを幾度か繰り返し小鬼達同士を少しずつ近づけると遂に小鬼の攻撃は仲間に当たり悲鳴をあげる。悲鳴を聞いた小鬼達は更に混乱し、やたらめったらに武器を振り回すと同士討ちが始まった。
フリードが魔力感知をしながらその様子を見ていると敵を倒し終えたバラックがフリードに近づき尋ねる。
「こりゃあどんな状況だ?」
「あの霧の中で同士討ちをさせている。残っているのは後三匹だな」
「えげつない事するねぇ」
「なに、知性ある小鬼の闘いに合わせただけさ。さてとそろそろ終わらせよう」
フリードは奇襲を仕掛けようとした小鬼達の皮肉を言うと魔法を唱えた。
「《水刃》」
霧の中に水の刃を出したフリードはそのまま残りの小鬼達に飛ばし、その体を切り裂き闘いは無事終了した。
「さて、魔石と耳を回収してさっさと帰るか」
「そうだな」
バラックは小鬼顔に刺したナイフを回収がてら自分が倒した小鬼達の討伐証明を取りに行き、フリードもまた自ら倒した小鬼達の元へと行った。
先に証明を取ったバラックは最初に倒した小鬼の場所を尋ねる。
「おーいリード。最初の二匹はどの辺で死んでるんだっけ?」
「確かその辺りの茂みのはずだ」
フリードが指差した方の茂みをバラックが探すと死体を見つけたがその茂みの中にも先客がいた。
「あちゃ〜。食べられちゃてるよ」
そこには数体の粘体生物が二匹の小鬼の死体に張り付き溶かし始めていた。
そこに証明を取り終えたフリードもバラックの元へやってきた。
「駄目だリード。粘体生物に先越されたわ」
「先程感知した時には反応は無かったはずなのだが…。一体何処にいたのだこの子達は?」
小鬼達に張り付いている粘体生物達を見て不思議に思うフリードであった。
その後二人は無事に森を抜け日が暮れる前にカーナーシャまで戻って来た。二人は門番に冒険者カードを見せると無事門の中へと入る。
バラックは一息つくと先程の森での出来事を思い出す。
「それにしても今日も結構いたな」
「ああ、そうだな。確実に何処かに小鬼達の住処があるはずだ。そうでなければこんな短時間にあの数は出てこないだろう」
バラックの言葉にフリードはそう結論付けた。
二人は冒険者ギルドに行くと相変わらず大量の冒険者達が酒盛りをしていて大変騒がしかった。
二人は受付にエリサがいるのを見つけるとバラックはフリードに話しかける。
「じゃっ、カード渡しとくから後頼むぜ。おれは先に宿屋に戻るからよ」
腹を空かしたバラックはそう言うとフリードに無理矢理カードを持たせて外に出ようとするがフリードに襟を掴まれる。
「待て。たまには君も並べ」
「え〜。面倒くせぇよ」
「それを私がいつもやっているのだ。一人だけ先に飯にありつこうとするのは許さんぞ」
「ちっ、わかったよ」
結局二人でエリサのいる受付の列に向かい並ぶとすぐに二人の番となった。
フリードはカウンターに依頼分のリリ草とマリ草、二人分の冒険者カード置いた。
「薬草採取の達成確認をお願いしたい」
「はい。少々お待ちくださいね」
エリサはそう言うと薬草とカードを持ってカウンターから離れた。
エリサを待っている間二人は今日も馬鹿騒ぎをしている冒険者達を眺め、朝二人に絡んできたパーティーを
探した。
「朝の奴らは流石にいねぇな」
「何時間もそう飲んではいられないだろうさ」
二人はそう言いながらまた面倒くさい目に遭わずに済んだと安堵した。
それから少し経つとエリサが戻ってきた。
「お待たせしました。まずカードをお返しします」
二人がカードを受け取るとエリサは続いて話す。
「依頼のリリ草十束とマリ草五束は確かに確認しました。リリ草一束二千メルク、マリ草一束五千メルクですがお二人の採取したリリ草、マリ草共に状態が大変良い物でしたのでリリ草は四千メルク、マリ草は七千メルクで買い取らせて頂きます。ですので依頼料は二つ合わせて合計七万五千メルクとなります」
エリサはそう言うと銀貨七枚と大銅貨五枚をカウンターに置くとフリードはそれを財布に入れた。
するとエリサが二人に話しかけてくる。
「それにしても全てが状態の良い薬草だなんて初めて見ました。お二人共採取が上手なんですね」
「二人っていうか、今日の採取はこっちのフリードが全部やったんだよ。俺はそれの護衛をしただけ」
「ふっ、やり方は内緒だかコツがあるのだよ」
「へ〜!フリードさんってすごいんですね」
エリサが褒めてくれて気分が良くなるフリードであった。
気を取り直しフリードは更に小鬼の耳と魔石の入った袋を出した。
「度々すまないが実は今日も小鬼が十匹ほど襲ってきたのだがもしかすると小鬼の住処があるかも知れないのだがギルド長に伝えてくれたか?」
「えっ、本当ですか?困りましたね。実はギルド長は今朝から隣国のギルドの方々と会合がありまして六日程いないんですよ」
「そうか。しかし規模の大きい住処だと堪ったものではない。一応調査の依頼を出した方がいいかもしれないな」
「わかりました。上の者と掛け合ってみます。それとこれの精算をしてきます」
そう言うとエリサは再びカウンターを離れ、精算処理をして戻ってきた。
「お待たせしました。あの、耳と魔石が八個しかないのですが…?」
「あぁ、実は粘体生物に二匹食べられちまったな」
「なるほど。それは勿体なかったですね。それでは小鬼の魔石八個で四万メルクです」
魔石が八個しかないことを疑問に思ったエリサだがバラックの話に納得し銀貨四枚をカウンターに置いた。
そこにフリードがエリサに話しかける。
「ところでまだ採取した薬草があるのだがこちらで精算してくれるのかな?」
「あっ、それでしたらあちらに買取の受付がありますのでそちらに行ってください」
「ああ、分かった」
二人はエリサに別れを告げ、教えられた買取の受付へと向かった。二人が受付に着くとそこには老人の男が一人座っていた。
「おや、いらしっしゃい。何を持ってきたんだい?」
「あぁ、薬草を少々…」
そう言いながらフリードはリリ草二十束、マリ草十束をカウンターに置いた。
「ほうほう。これは中々の量じゃのう。それに質も良さそうじゃ」
老人はそう言いながら懐から片眼鏡を出し、薬草を調べ始めた。それを見たフリードが老人に話しかける。
「御老人。それはもしかすると魔道具ではないですか?」
「ん?そうじゃが…」
「実は私のこの眼鏡も魔道具なんですよ」
フリードはかけていた眼鏡を持ち上げる。
「なんと!というこはお主も同士ということか」
フリードの眼鏡が魔道具と知り興奮した老人はフリードと話に花を咲かせた。
「お〜い。腹減ったから早くしてくんねぇかな」
腹を空かしたバラックが二人にそう話しかけたが流され、暫く待たされる事となった。