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AI小説と人力小説  作者: ヘルベチカベチベチ
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屋根に魚、瓦は海へ (人力版)

 今朝は雨が降っており、A君はその音で目を覚ました。雨が道や屋根に連続して衝突するときのあの音である。まだ目覚ましよりも早い時間だったが、A君は早々に学校へ行く準備をし始めた。そして同時に、ある違和感を覚えてもいた。

 その違和感の在り処が雨の音であるらしいことは気づいていた。しかし、具体的には何も分からず、ただなんとなく雨の音に他の音が混じっているような感覚があったに過ぎない。性質としてはそう遠くない、雨の音を隠れ蓑とするような近しい音が混じっていたのである。

 ついにA君は家を出なければいけない時間を迎え、傘を差して外へ出た。外では家の中よりも一層雨の音が強く聞こえ、しかしそれに混じってあの変な音がどうしても耳に付いてしまう。これはおかしいと、A君は辺りを見回し、ちょうど傘と共に上を見上げたそのとき、自分の家の屋根に、大量の魚が乗っているのを目にした。その魚たちは雨に打たれるたび全身を跳ねさせ、雨に混じっていたあの音は、無数の魚の尾が家の屋根を叩いている音だったのだ。

 これを見たA君は、初めは見間違いだろうと何度も屋根を見直したが、何度見ようが魚は大量で、本来あった屋根瓦などは一枚たりともありはしなかった。むしろ魚が屋根瓦の仕事を担っているのか、規則正しく並べられ、そして落ちてしまわないよう強力な接着を施されているようだった。A君はこれに驚きを抑えられなかったが、とにかく学校へは行かないわけにはいかず、みんなとの集合場所まで駆けて向かった。

 学校では誰一人として魚の話などしていなかった。友達のB君も、周りの席の人も、先生でさえ普通に授業を進めていた。

 A君をさらに困惑させたのは給食でのことだった。今日の献立に瓦が出てきたのだ。配膳台で瓦を配られ、そのままプレートごと床にこぼしてしまう生徒が続出、また意外性もなくマズイので、瓦の残しも続出であったというのに、相も変わらずこの異変を口にする人はいなかった。A君はとうとう、自分だけが知らなかったのだと思うことで片を付けることとした。

 しかしそれでも、友達のB君にだけは確認をしておきたいと、A君は昼休みに魚と瓦の話を彼に打ち明けた。するとB君は「やっぱりそうだよね。」と安心したような口調で言い、A君の話に終始頷きっぱなしだった。それから二人は、魚と瓦に関する推論をそれぞれ言い合い、放課後には海の様子を見に行こうという約束をした。二人の出した結論というのは、海の魚と瓦の立場が入れ替わったのだというもので、なぜ川や湖でないのかといえば、単にこの辺りには海がすぐ近くにあるという地理的な理由に過ぎない。

 放課後には雨も止み、海の表面には大量の瓦が浮かんでいた。波に運ばれ砂浜に打ち上げられた瓦が背の低い堤防をつくって、それでもなお海の表面には多くの瓦が浮かんでいるのだから、本当にここら一帯の瓦は海に集められてしまったのだろう。二人は予想が当たったことにはしゃいだが、しかし瓦が浮いている理由は全く見当がつかず、B君はまず「きっと瓦は日光を浴びたいんだ」と当てずっぽうなことを言った。対しA君は「海の力が強くなったんだ」と科学っぽい答えをしたが、さらになぜ力が強くなったのかと聞かれると彼は困ってしまうのだった。二人は海に入って遊びつつ、議論はまだ続いた。

 海を見に来ていたのは二人だけではない。たったもう一人だけではあるが、今日の異変を不思議に思った人が居たのだ。その人は海辺の工場に勤める五十代のおばちゃんで、A君とB君と同じ時間、海を見るついでに仕事を抜け出し、サボっていた。おばちゃんは浜に立って、「瓦が死んどるな。」とタバコの隙間からつぶやいた。その後、おばちゃんは工場から追いかけてきた人に捕まってしまい、工場へ連れ戻されていった。A君とB君はそれを見て、なんてダメな大人だろうと言い合い、自分たちが誇らしい気分に浸った。

 A君とB君の議論は次第に減っていき、それは瓦をいかに遊ぼうかという方へ切り替わっていった。まずは瓦を海のずっと向こうへ投げてみた。投げられた瓦は、重い音を立てて海に沈み、すぐにまた表面へ浮かんできた。この浮力を見ると、今度はビート板遊びの真似をして、瓦を底まで沈め、自分がその上に乗ってみる。そして少しずつ足を浮かしていくと、足裏に瓦が着いてきてサーフィンごっこ、最後にはひっくり返った。

 二人がそれぞれ分かれ、帰る途中にもA君は屋根に大量が乗っているのを何軒も見つけた。雨が降っていない分、今朝みたいな元気な音はなくなっていた。また、どうやら屋根瓦の似合わない、そもそも屋根瓦は使われていない家には何も変化はないらしく、案外そういう家の方が多いということにA君は気づかされた。

 A君は家に帰ってひどく安心した。今日の夕飯は肉系のおかずだったからだ。

 次の日は雲一つない快晴だった。天気予報によれば、翌週まで晴れが続くのだそうだ。

 続けてニュースが始まった。昨晩、A君たちの見に行った海には、巨大な竜巻が発生し、瓦は竜巻に乗って、魚は空を泳いで、一夜の内にそれぞれ元いた場所へ帰ったらしいのだ。竜巻のあった時間にはとっくに寝てしまっていたA君は、二度は見逃すまいと、かぶりつくように竜巻の映像を見た。その映像の中には魚と瓦が衝突し合い、そのまま真っ逆さまに落ちていくペアも映っていた。それを見たA君は、衝突のせいで夜に置いてきぼりをくらった魚や瓦たちを探しに行こうという予定を立てた。

 しかしその必要はないようだった。哀れな一匹と一枚のペアは、A君に見つかるよりも大人に見つかる方が早く、その朝早い大人たちの開いた即席の屋台では、瓦と魚がブルーシートの上で叩き売りされているのだった。

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