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短編とかその他

土に足跡がつかない

作者: リィズ・ブランディシュカ



 せっかく公園に来たのに。


 これじゃ、ぜんぜん楽しくない。


 周りを眺めると、他の人と動物たちがはしゃいでいて、とても平和的な光景だった。


 けれど、あの人達のような気分に離れない。


 それどころか、私は戦慄していた。


 前に進んで、後ろを振り返って。地面を眺めてみる。


 そこには、本来あるべきものがまったくなかった。


 足跡が付かない。


 一体どうしてだろう。


 私は、そこらへんを動き回ってみた。


 けれど、足跡が付かないのだ。


 ここは柔らかな土の上。


 人間が歩いたら、自然と土はへこむはずだ。


 なのに、足跡がつかない。


 こんなの普通じゃない。


 おかしい。


 他の人達はみんな足跡がついているのに。


 私はあたりを歩き回った。


 なのに、一向に足跡が付く気配はなかった。


 一体どうして。


 もしかして、私は死んでしまっているの?


 幽霊で、実体だから、足跡がつかないの?


 そうかもしれない。


 そういえば、記憶があいまいだ。


 ここに来る前に、何をしていたのかとか、どこでどう生きていたのかとか思い出せない。


 ああ、どうしよう。


 どうしよう。


 幽霊じゃ困る。


『君が一緒にいてくれると、ボクは救われるよ』


 やらなければならない事があるのに。


『ボクが歩け…のに。君は外に出られる……て、ずるい……か』


 幽霊じゃ、あの人と会話できない。


 混乱したまま、私は鏡の前にやってきていた。


 この公園、始めて来たけど、鏡があるのね。


 私は、その鏡に映った者を見て愕然とする。


 予想とは違ったからだ。


 嘘、これが私……?









 私は、とある施設の職員だ。


 お給料が良いから働いているのもあるが、彼等への愛情があるからが理由。


 だって、給料が良いだけじゃこの仕事は続けられない。


 ときどき、辛い事があるもの。


 でも、だからこそ真摯につきあっていきたいと思っている。


 私は子供の頃から、「彼等」が好きだったから。


「佐藤さん、そろそろ帰りの時間だわ」

「分かりました」


 私は他の人達よりも「彼等」の面倒を任されている。

 だから、同僚の声に時計を確かめて、すぐに帰り支度を始めた。


 いつもは部屋で面倒を見ているのだが、それだと健康に悪いから定期的に散歩させているのだ。


「みんな、もう帰るわよ」

「わんわん。きゃんきゃん」


 預かっていたペットたちが、相槌をうつかのように一斉に鳴いた。


 けれど、その中で足を紐で結んだ鳥が、困惑した様子であたりをうろうろしていた。


 かわいそうに。


 ずっと飼い主と二人きりで、部屋の中で飼育されていた鳥だ。


 虐待されていたらしい。新しい飼い主の元へ行く前に、準備が整う間はこちらの施設で面倒を見ているのだ。


 その鳥は、自分の事を鳥だと思っていないようで、鏡を見た時はびっくりしていた。


 ずっと、人間だと思っていたのかもしれない。


 それにしてもなんて可哀そうなのだろう。


 虐待されていたため、羽が傷ついていて飛ぶ事が出来ない。


 食べ物もろくに食べられないから、体重も少ないし。


 他の動物達のように歩いて移動する事しかできないなんて可哀そう。

 

 公園にやってくると、それでも好奇心旺盛であちこちいきたがるから、慎重に様子をみておかないとな。


「ぴいぴぃ!」

「さぁ、施設に帰るわよ。大丈夫。新しい飼い主の元では幸せになれるわ」



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