はじめまして小説
はじめまして、小説。
君と出会ったのは、書店だった。絵が少ない本を読むことに抵抗があった僕は、小6の時に君を見つけた。
その日は、照りつける日差しの中、父と書店へ行って漫画を買おうとしていた。
「父さん、これ買ってくる――あれ?」
近くにいると思った父は、いつの間にかどこかへ行っていた。
(理系の父さんのことだ、きっと数学や理科の本棚にいる)
そう思って書店の中を探索しだした。
(あ、これ……)
探索していると、ある本が目に止まった。友達が学校で紹介していた小説。ロボットが自然の中で生きる物語で、その時はさほど興味は惹かれなった。だが、こうして見ていると何か違うものを感じる。
(買おうかな)
その本を手に取ると、頭上から耳馴染みのある声が聞こえた。
「海音、その本買うのか?」
驚いて見上げると、父が物珍しそうにこちらを見ていた。
「なんだ父さんか。びっくりした」
本に視線を戻し、ため息をついた。
「なんだとはなんだ。で、その本買うのか?」
少し考えたあと、頷く。
「へぇ、珍しいこともあるもんだな」
父さんは楽しそうに笑うと、「そうだ、」と話を続けた。
「その本たち父さんに貸してみないか?父さんが買ってくるぞ」
(急に?)
心の声が漏れそうになるのを抑え、ありがたく買ってもらう。ここで何か言うと、父さんの気が変わってしまう可能性があるのだ。
「父さんありがとう」
「いいってことよ」
家に帰って本を開くと、すぐ物語に引き込まれた。生きる動物たち、成長するロボット。登場人物達がそこにいるのではないかと錯覚するほど、夢中になった。
「兄さん、夕飯の時間ー」
その声で、現実に引き戻される。
いつの間にか夜になっていたみたいだ。
「今行くー」
本を置いて自室から出て行く――その前に、本をの表紙を見た。切り絵のような独特な絵。静かに自己主張するようなそれに、言い表しようのないワクワクを感じた。
(そろそろ行くか)
自室のドアを丁寧に閉めて、ダイニングに向かう。
(次は何がおきるんだろう?)
本の次の展開に胸を踊らせながら――。