幕間 シャーリーのつぶやき
今日は幕間シャーリーです。
19時 幕間 シャーリー
20時 小話 ルース
です。
1日二話頑張ってます…
部屋のドアを足で閉めた。
はしたないけど誰も見てない。
荷物から服を出して着替える。鏡に向かって身だしなみをチェックする。私の服は割と青系が多い。ルースがいつもリボンをプレゼントしてくれる。青ばかりだ。彼の色だ。まあ、青は好きだから嬉しい。何よりルースにいつも守って貰ってるように感じる。それだけで気持ちが落ち着く。暖かいものがじわって心に湧き上がってくる。
今日もルースにもらった青のオーガンジーのリボンに同じオーガンジーが袖の切り替えについているワンピースだ。不思議な国のアリスっぽい。こんな可愛い服を着れるのも転生したおかげだ。この点はよかった。
この部屋の北の窓から海風が入ってくる。
窓から海がみえる。日に光っている水面はキラキラ光る。
本当に久しぶりに海を見る。素敵な景色は飽きない。心が洗われていくようだ。
転生に気づいて結構経つな。
公爵令嬢の立場から将来は親の決められた人と結婚させられるかもしれないという恐怖があったが、この世界の私の親、ヴィクセレーネ公爵は娘に甘かった。私の好きになった人と結婚すればいいんだよといつも笑ってくれた。しかし数年前からは何も言わなくなったな。まあ年頃の娘には気を使うものだ。煩く言わない親でよかった。
私の夢は目指せ国外追放!スローライフだった。
…だった。そう、過去形なのだ。
一応お金は少しは貯めてる。料理や洗濯、ある程度家事は前世の経験があるから心配はない。いつでも一人暮らしはできそう。
しかしわざわざ悪役令嬢になって断罪されて国外追放される意味はあるのか?
悪役令嬢、国外追放になれば公爵家に迷惑がかかるのではないか。今まで育ててくれた両親や公爵家の人々に対して申し訳なくないのか。公爵家にお咎めがあれば働いている人達もどうなる?
問題は他にもある。よくよく考えてみれば性格的に無理なのだ。
悪役令嬢なんてなれないのだ。
一言で言ってしまえばお人好し、前世からこの性格は変わらない。その上どうしても一歩引いてしまう。なかなか転生しても別の人格にはなれない。こんな私が悪役令嬢などとはどう頑張っても無理だ。
単に家出でよくない?
しかしそこには何か違う感情が湧いてくる。
私は鏡を見た。そこには年頃の女の子の姿がある。
今の私は前世の私と同じではない。
シャーロレット=ディ=サー=ヴィクセレーネ公爵令嬢
なのだ。
転生した私にはスキルがない。チートでもない。
そんなの当然だ。私はシャーロレットなのだ。
転生したからスキルがあるとか何で勝手に決めてけていたのか?
シャーロレットは普通に夢のあるこの世界の女の子なのだ。
こんな前世の殻にこもっていて何もしないオバさんに乗っ取られて…本当に申し訳ない。
このまま私が前世を引きずっていたら彼女の生に意味がなくなってしまうのはないか。
私は鏡に額を押し付けた。冷たい…。
「ねぇ、シャーロレット。私は弱いし臆病なの。
前世、失敗したから今回も同じになりたくないって…。
しっかり生きないとあなたに申し訳ないのに。」
窓の外に見えるもう一度海を見る。
輝いていて海はルースの瞳の色と同じだ。
ルースが私の隣にいるなら私はずっと笑って暮らしていけるような気がする。
「シャーロレット、私はルースと一緒にいる未来を考えもいいのかな…?
普通の女の子としての幸せをあなたと一緒に夢みてもいいのかな?」
ん・・・?ちょっと待て!!
何だ?この流れは!“一緒に”って!!
鏡の前で口に出してしまうと流石に恥ずかしい。
これじゃあ私がルースのこと…
そうだわかっているんだ。気づいてしまったんだ。
お茶会のあと私は自分の気持ちに気づいてしまった。
毎日机の隅に置かれた宝箱を気が付くと開けて見ている。
中には先日破れたリボンが入っている。
いずれルースとの那賀もこうやって壊れて使われなくなって忘れていくのだろうか・・・
そう考えるとすごく胸が苦しくなる。
破れたリボンを悲しんでいるんじゃなくて、いづれ訪れるだろうルースとの決別が悲しい。
彼は大事な幼馴染だ。それだけのはずだ。
でも胸が痛い。チクチクする。この痛みは何か…分かるわ。
だって前世もその気持ちを持っていたから。
「私はルースが好きなんだ。」
前世と同じ悲しい気持ちをしたくない…。
怖かった。人を好きになるのが怖かった。
気持ちが離れてしまうのが怖い。嫌だ。
だからこの感情はいらない。でも…苦しいの…。
どうしよう。どうしたらいい。
捨てなきゃ、この気持ちは捨てなきゃ……捨てれない。
鏡の前の私はこの世の終わりみたいな顔してるわね…。情けない顔。
窓の外から潮の香りがする。風が部屋に入ってくる。大きく深呼吸した。
日の光を受けて水面は穏やかに青く輝く。
岸壁にゆっくり波があたり白いしぶきが上がる。
本当に綺麗だ。ガラス玉のように光がゆらゆら揺れている。
本当に心が落ち着く。心地いい。
目を閉じてみる。
閉じても青い光は瞼の裏できらきらしていた。
彼が笑っている隣で私も笑っていたい。
彼をずっと抱きしめて離したくない。
彼が私を見るめている目をずっと見ていたい。
私のこの気持ちはどうしたらいい?
『大丈夫。今の気持ちを大事にして』
心の中から声がした。
シャーロレットの声?
私はいつの間にか泣いていた。
この気持ちは私だけのものではない。シャーロレット…あなたと私の二人分の気持ちなんだ。
だからこの気持ちを大事にしていかなきゃいけない。
「シャーロレット、私はルースが好きなの…。あなたも一緒にそう思ってくれる?」
風がカーテンを揺らした。不思議だ。何度でもいえる。
「私はルースが好きなんだ。」
ふふふっ。素直に受け入れてしまえばこんなにうれしいものなのだ。とても楽しいものなのだ。
ははははっ。
なんだか笑えた。
ルースが好き。大好きなんだ。ずっと一緒にいたい。
簡単なことだった。こんなに簡単なことだったんだ。
そうだ。恋って楽しむことだったんだ。
ん?ちょっと待った!!
確かに私はルースが好きだと自覚した。しかしルースはどうなんだ???
ルースは私のどう見てる??いつも大好きって言ってくれるのは幼馴染だから?
幼馴染に対する社交辞令じゃないの?一人で浮かれてどうすんの?
一緒にいたいって…結婚したいって言ってるみたいじゃない!
違うだろっ…ん?違うのか??違わなくないか…。
違わなくなくない?ん?違わない!!!!
「ルースはどうなんだろう」
顔を赤くしながら鏡に押し付けた額を動かして横にぐりぐり押し付けた。
「シャーリー!遅いから来ちゃった!」
満面の笑みを浮かべて突然入ってきた愛しの幼馴染にびっくりして、慌てて鏡から額を離した。
心臓が飛び出るかと思った。今の考えが見透かされないようにするには、顔が赤いのをわからなくするにはどうしたらいいのか必死に考えた。
「え?!シャーリーどうしたの?何があったの?泣いていたの?どうしたの???」
しばらくルースのどうしたの?攻撃にあってしまった。
それがなんだか心地よい。
ようやくここまで来ました!
シャーリー自覚してくれました。
長かったです。
しかしやはり彼女は天然でした。