その14 騎士団にて
「シャーリーも行く?」
「行きたい!」
「書類を届けたら友達に話があるから少しだけ時間をもらうけど、それでもいいならついておいで。」
「はーい!」
突然お兄様からお誘いがあった。
父が大切な書類を忘れたようだ。今から王宮までお兄様がとどけにいくらしい。
その話を聞きながら行きたそうにしていたのがバレたのかお兄様から一緒に行かないかとお誘いを受けた。
どのみち今日は学校は休みだ。明日から学園祭みたいなものが始まるから今日は学校で準備のある人を残して休みになっている。面倒くさいクラスの出し物とかやりたくなかったが、たまたまやりたい人がいたので全てお任せしている。私はお休み組だ。ルースは登校組だ。またお忍びで街に行こうと思っていたがまたとないチャンスなのでお兄様と王宮に行くことにした。
だって王宮!王宮!一年に一回、新年の挨拶をしに行くが、こうやってフリーで行くことはない。やはり王宮は見てみたい。
ちなみに一緒に行きたいと駄々をこねたジョーカスは家庭教師が来るのでお勉強だ。
早速よそいき用のワンピースに着替える。
今日はルースにお茶会に貰ったリボンをつける。
貰ってから使ったことがないが今日は王宮だ。気合い入れていこう。
王宮の裏の門から入る。父から連絡が入っているのだろう。門兵は頭を下げて私達を通してくれた。
新年の挨拶の時には見ないところ。何もかも桁が違う。本当にこんなところで人が暮らしているのか?柱一つにしても手が込んでいて素晴らしい。圧巻です。何もかもキラキラ、キラキラ、光ってます。
「ケイン、シャーリーありがとう。わざわざありがとう。」
父が小走りに近寄ってきた。お兄様が書類を渡した。父は中を確認して頷いた。
「よかった、これだ。焦ったよ。本当にありがとう。」
「ちょうどルキシスに話があったからよかったよ。」
友達ってルキシス様のことだったのね。
「あと1時間くらいで仕事を終われそうだから一緒に帰ろう。」
よし!これで王宮散策一時間コースの旅ゲットだわ。
お兄様の後について騎士団に来た。ルキシス様には前もって連絡してあるらしい。ルキシス様のはどこだろうと思っていたら後ろから声が聞こえた。
「ケイン、ごめん。待ったか?おや?」
ルキシス様は私にすぐに気づいた。
「シャーロレット嬢も一緒だったんだね。こんにちは。」
「こんにちは。」
ペコリとお辞儀をした。
あら、騎士団の制服を着たルキシス様をはじめてみるわ。凛々しくてかっこ良すぎます。
「おや?二人とも知り合い?」
二人で顔を見合わせて笑った。内緒ですね。初めはお互いお忍びでしたので。
何やらお仕事の難しい話になったので私はフラフラ歩いていた。騎士団の建物といえども王宮に負けず伝統ある建物。前世ではわりとギリシャとか西洋の建物は好きだった。それが目の前にあるのだ。触りたくなるのは当然じゃない?しかしすごい彫刻。何をどこから見ても荘厳。圧倒される。天気がいいので、太陽の光が反射され更に美しさを増す。さすが騎士団の建物だすべてから力強さをかんじる。
「誰だ!何してる。密偵か!!」
突然後ろから声がしたと思ったら私の頬に銀色の光った冷たい感触がかすった。ゆっくり両手を上げながら振り返った。
黒色の長い髪を横で縛り、釣り目な緑の瞳…。
「あ、あ、怪しいものではなく…お父様の…書類を…で、お兄様が…はい。」
「何だ!しっかり言え!」
先ほどの銀色の光る冷たいものが更に私の頬を押した。
「シャーロレット=ディ=サー=ヴィクセレーネ 15歳。セルシクス学園魔科12番です。得意な教科は数学。不得意教科は経済。好きなものはマカロン。死ねまで食べられる自信があります。少し暇つぶしにこの素晴らしい彫刻の施された柱を見てただただ感動していただけです。怪しいものではなくただの小娘です。」
「は?」
「は?いえ?しっかり言いましたが何か足りませんか?さすがにスリーサイズは勘弁してください。もし聞きたいのならセクハラで訴えます。」
その人は大きく笑いはじめた。
しばらく待った。まだ笑ってる。何がおかしいの!失礼な人だわ。
「笑いすぎです。失礼します。」
「ははははっ、あ、いえ、失礼。面白いお嬢さんだ。
ははははっ。セクハラって何?この国では流行ってるの?はははっ。」
何がそんなにツボなの!おかしいはあなただわ。
「私はハイドフランツ=ダマガラン。ふはははっ。間違えて申し訳なかった。また、怖い思いをさせてしまった。立場上仕方ないのだ。許して欲しい。」
「本当に怖かったんですからね。」
「ああ、本当に申し訳ない。あ…」
突然顎をつかまれた。
「痛っ…急に何なさるんですか!」
「すまない。少し頬が赤くなってしまったな。」
「それより今あなたが急に顎を掴んで引っ張った方が痛いです!離してください!」
もう何なのこいつ!嫌いだ。
なんだか距離が近い!目があった。何故か凝視されている。
近い!近すぎる!しかし顎を持たれて動けない。
「光にかざすと綺麗な亜麻色に光るのだな。」
は?何言ってるの?おかしい!
「明るい茶色の髪も光にあたると輝くのだな。綺麗だな。」
何か私のこと褒めてる?あら、いい人ね!
「まだ、15歳と言ったな。あと数年したらかなりの美人になりそうだな。まあ、普通程度に胸もあるし、スタイルも問題ない。決めた!」
何?この人、見た目のことしか言わない。普通ですみません。
「何を決めたのでしょうか?」
「お前を我が国に連れかえり側室にしてやろう。まだ正室はいないからお前次第では正妃にだってなれるぞ。」
そんなことをいいながら彼は私の頬に突然口づけてきた。
バッチーン!
思いっきり叩いてやった。黒色の髪が揺れた。
「っ痛ぇ、せっかく一国の王妃になれるんだぞ。嬉しくないのか?」
「変態!!嬉しいわけないじゃない。見かけだけしか見てないし、それ…ん?」
しかし今何て言った?
正妃…あ、もっと前!?ダマガラン…って?ハイドフランツ…??ハイドフランツ=ダマガランって隣国王太子!?
やばい、ビンタしてしまいました…。