その10 薔薇園にて
少し雲が出てきただろうか。風が吹いてきた。バラの花が揺れ始めた。肌寒く感じる。そろそろ会場に戻ろうかと思ったとき、声をかけられた。
「シャーロレット様、こちらにいらしたのね。ちょっとよろしいかしら?」
先ほどの赤いドレスのレイクルーゼ様だ。マカロンを確保することを最優先にしたのであまり挨拶に回れていなかった。
「レイクルーゼ様、申し訳ありません。ご挨拶が遅れました。」
レイクルーゼ様の横には取り巻き2人がいた。
「あなたは殿下に媚びをうっているのかしら?」
「そのようなことはしておりませんが…」
あら、かっこいい!!これぞ悪役令嬢の話し方!!参考にさせていただきます。
「あなたは殿下の側妃をお望みなの?」
おお!!ストレート!!
「いえ…決してそういう気持ちはございません。」
何たって目指せスローライフ!
彼女は私が殿下の側室を狙っていると思っているのだわ。
彼女は殿下のことがお好きなのかしら?
そんなことを考えていたら
バシャン…取り巻きその1に紅茶をかけられた。スカートだが、割とやられたわ。シミになってしまうわ。早く染み抜きしないと落ちなくなってしまう。
「これ見よがしに殿下の色のリボンなんてしてきて、みえみえよね。」
と、取り巻き1言うと、
「全く常識をしらないのかしら?これだから名前だけの公爵家は嫌ね。」
と、取り巻きその2が続く。
いやいや、青のリボンはダメなの?そんなこと言ってらキリないわ。誰かの色だから黄色はダメとか赤はダメとか身につけれる色なくなるじゃない?
「まあ、その格好じゃもうお茶会にはいられないわね。お帰りになったら。レイクルーゼ様そうですよね?」
取り巻きその2が言う。
「あ、そうね。」
ん?少しレイクルーゼ様が遅れて返事をした?何か違和感があるのだけど気のせいかしら?
「もう殿下には近づかないことね!さああなた方戻りますわよ。」
「ほら退きなさいよ。レイクルーゼ様がお戻りになるから。邪魔よ。」
私は取り巻きその1にトンと肩を押されて後ろによろけた。
ビリッ…!
「あっ…」
それはリボンがバラの垣根に引っかかって破れた音だった。
「あら破れてしまったわね。いい気味だわ。さあ行きましょレイクレーゼ様。」
「ええ・・」
私はすぐさま頭からリボンを外した。一番お気に入りの、ルースに一番初めにもらった大事なリボンの端が破れてしまっている。なんだかすごく悲しくなってきた。
私とルースの間が同じように破れてしまったように感じた。リボンをずっと見ている目からはとめどなく涙があふれてきた。落ちていく涙でリボンが濡れていく・・・。今朝ルースは似合ってるって嬉しそうに言ってくれた。リボンにキスしてくれた。ルースの嬉しそうな顔が浮かぶ。それなのに私の不注意で・・・。
「破れちゃった・・どうしよう・・・・ルースごめんね」
嫌だ・・・。これは私とルースをつなぐ大事なもの。それが破れてしまった・・・。
レイクルーゼ様の声がした。
「それはザイン公爵家のルーズローツ様にいただいたものなの??」
ん???彼女の言葉は驚きを含んでいた。
薔薇園の前のベンチでレイクレーゼ様と座っていた。
「私のお友達が大変なことをしてしまって申し訳ありません。でも彼女は私のことを思ってやったこと。私に免じて許してやってください。」
「そんなに誤らないでください。形あるものいずれは壊れるのですから。」
「でも、それはルーズローツ様にいただいた大切なものなんでしょう?」
「はい、一番初めにいただいたものです。でも他にもたくさんいただいているので気にしないでください。」
・・・あまりにも申し訳なさそうに謝るので気にしないようにやんわりと返事をする。しかし何度見ても悲しい気持ちになり、目に涙が溜まる。
「私からもルーズローツ様には謝罪のお手紙を書いておきます。本当にこの度はこちらの勘違いで申し訳ありませんでした。しかし勘違いされても仕方がないと思います。本当にルーズローツ様も紋章が入っていないものを渡すなんて・・あ。いや。こちらの話ですわ。ホホホッ。今回私は誤解だとわかりましたがこのお茶会には知らない方もたくさんいらっしゃいます。お気を付けください。」
紋章??誤解??何のことだろう?リボンに何かあるのかしら?でもこのリボンには単にルースがくれただけなんだけどな。
「ありがとうございます。でも、ルースも単に幼馴染の子にあげただけの感じなのでは気にしないと思います。」
「はあああ???あなた知らないの??」
突然レイクルーゼ様が大声を出して立ち上がった。私は何のことかわからなくて首を傾げた。
「あ、いえ。ごめんなさい。まあ知らないならいいのね・・・。知らないなら・・・。」
と、言いながらまたベンチに座った。
「このリボンはいつもらったの?」
「13歳なので2年くらい前のはずです。」
「そう。そんなに前・・・。」
何やらレイクルーゼ様は考え込んでしまった。
「ルーズローツルートなの??どうして・??」
彼女の声が余りも小さな声だったので私の耳に届くことはなかった。
「シャーロレット様、不躾な質問をさせていただきますがよろしいでしょうか?
あなたはルーズローツ様といて幸せですか?」
「はい。彼といれるのは私の幸せです。」
私は答えになんの戸惑いもなく答えた。
しかしルイクルーゼ様は良い方なんですね。立ち振る舞いも凛としていてお優しい。
私ファンになってしまいました。