その8 市井にて その2
前から続いています。
街の中央にある噴水公園の東側にあるレストランに着いたのはお昼を少し過ぎていた。時間的にもうお客さんもまばらで落ち着いていた。私は店主に頼んで階段の下のあまり人の目に見えない席に座らせてもらった。まあ殿下は目立つからね。
「シャーリー、いつものでいいのか?こちらのお客さんはどうする?」
「ああ、私も彼女と一緒のものでいいよ。」
「オーナー、彼のは大盛りね。たまにはサービスしてよね。」
こんな気兼ねのないやり取りは良いわ。本当に貴族なんて嫌よね。お淑やかに…静かに…毎日毎日肩凝るわ。
「シャーリー、君はとても街に溶け込んでいるんだね。」
「まあ、こっちの方が楽というか、性にあってるかというか…。ははは」
「あんまりお茶会とは顔出さないのはいろいろこっちの方が忙しいからなのかな?」
「そうですね。堅苦しくてあまり社交的な場は好きじゃないんです。あ、すみません。」
「ああ、良いんだよ。攻めてるわけじゃないから。公爵令嬢だと言うのに今まで会わなかったのがちょっと不思議でね。こういうことだったのか。いつもはルースと?」
「ええ、過保護すぎて困っちゃいます。このくらい大丈夫なのに。」
「ああ、でも私でも同じかな?街には危険なところもあるから安心してはいけないよ。わかるかい?」
「殿下も同じことをおっしゃっるんですね。ありがとうございます。心に留めておきます。」
「はい、お待ち!」
大好物のスパゲティとサラダ、グレープフルーツのジュースがやってきた。
「今日はボロネーゼなのね。大好きだから嬉しいわ。」
「ん?シャーリー?3人前あるんだが?」
「あら?あちらに控えている騎士さまにご一緒して欲しいかったので3人分頼んでしまいました。」
殿下が窓の外をみてうなずいた。すると先程のグレイの髪の護衛が店に入ってきて殿下の隣に控えた。
「ルキシス、君もお腹が空いているだろう。君の分もあるみたいだ。せっかくだから君も一緒に食べよう。」
彼は少し戸惑っていたが殿下に椅子を引かれて仕方なく座った。
「えっ?ケインの妹!!」
「あら兄様をご存知でしたか?」
「友達ですよ。よく家に遊びに行きましたが私を覚えてないでしょうか?」
「???」
私は転生前のシャーリーとしての記憶がほとんどない。
「ああ、あの時から思い出せていないんですね。私も三年前に学校に行くようになってからはほとんど行ってないので覚えていないかもしれませんね。」
「すみません…」
「よくケインの後ろにくっいていましたよね。一緒にもう15歳になんだ。本当に見ないうちに綺麗になってしまったね。」
ん?もしかして私が転生して記憶が無くなってなければこの人は私の幼なじみだったのかしら?
三人で楽しい話をしながら食事をした。その姿をルピアさんに見られていたなんて知らなかった。
※※
「ルキシス、どう思う?」
「よろしいかと。」
「惜しいな。なぜよりによって彼女はルースの婚約者なんだ。」
「ほぼ、ヴィクセレーネ公爵令嬢に決まっていたのをルーズローツ様が無理を通して自分の婚約者にしたのだという噂を耳にしましたが…?」
「まあ、無理にではないがね。彼女が私の婚約者になるのはほぼ決まっていた。」
「確かにヴィククセレーネ公爵家は国ができた当初からの古く伝統のある家柄です。新興勢力内が拮抗している中、このような伝統のある家からお妃を選ぶのは無難かと思われます。」
「私も彼女なら愛しく大切にしていけると思うのだが、相手があいつなのは痛いな。敵に回したくないし、厄介なことになりそうだからな。しかし本当に惜しいな…。私は出来れば彼女がいいと思ってしまうよ。」
「私も同感にございます。」




